超絶怒涛極太筋肉
・そんなわけで、週イチ更新となりました。しばらくの間は毎週火曜日よる八時の更新にしてゆきたいとおもいます。
「ちきしょう、痛てぇ! なんだ……なんなんだ手前ェ」
「何って。この剣で軽ぅく叩いただけだけど?」
肩口で切り揃えられたオレンジ色のショートボブ。目がくりっと大きくて、とっても可愛らしい女の子。顔までは。そこから先は完全な別人。逞しい首筋に男のそれと見紛うほど厚い胸板。当然のようにシックスパックの腹筋に、脂肪の『し』の字も無いほど鍛え込まれた脚。
(女……女の子、だよね……?)
鏡を見て話せって言われるかも知れないけど、自分で自分の見たものが信じられない。首から上と下で画風が違う。鍛え抜かれ、一切の無駄がないムキムキボディーの上に、可愛らしい女の子の顔が乗っかっているみたいだ。ずっと見てると頭がバグって目眩がする。
「ふ、ふざけやがって……。俺が、打撃を食らっているだとぉっ!?」
マルマル野郎は脇腹に刻まれた真一文字にえらく動揺している。付くはずの無い傷を受け、プライドの鼻っ柱をぶち折られたってところか。
「あり得ない! こんなことがあり得るはずが無いのだ!」
強盗犯は即座に首と手足を引っ込め、その場回転でパワーを溜め始めた。本気の一発でこのハプニングを濯ごうというわけが。
「来なさいよ。何度やったって同じだし」
対し、女の子……? は小細工なしの棒立ちで、かかってこいよと手の甲で招き寄せる。こちらも、やられるとは微塵も思っていない顔つきだ。
「舐めるなよ小娘……このクルクルマルマンをッ!」
ヒュン、と風切る音を響かせ、ボクでさえ捉えきれない疾さで奴が跳んだ。正面衝突でもしたら全身がひき肉になって然る一撃。彼女はそれでも動かない。冷静に状況を見極め、その手に握る大剣を地面に突き刺し――、えっ!?
「死にさらせェーっ!!」
剣を置いた、置いたの? ナンデ!? 喰らったらまずいでしょ、ヤバいでしょ?! あぁあ、拳をぎりりと握り締めて……。嘘、素手で? 素手で迎え撃つつもり!?
「アホらし。お前ごとき、剣を使うまでもない」
向こうの強みは勢いに任せた一直線。極限までスピードを上げて放つことは出来るけど、裏を返せば直線の軌道でしか攻撃が出来ないということ。
あのヒトはそれを分かっているんだ。打ち克つ自信があるんだ。彼女は腰を低く落とし、右の腕をぐぐと振り被る。
「一発で決めてやる」
カーキの外套、その下の簡素な黒Tシャツの上からでも、それらに隠れた縄のような筋肉の隆起が目に見えた。無駄という無駄を削ぎ落とした細マッチョだったが、軸となる左足、これから一撃を放つであろう右腕が、ぶっとい丸太のように盛り上がる。
「必・殺! 超絶怒涛極太筋肉!!」
大玉突進対素手の一発は一打で勝敗が決した。鋼鉄の鎧をあの筋肉と握り拳はやすやすと貫通し、奴の頭を卵の殻めいて割り砕く。
即死だ。滴る血は地表を紅く染め、頭部を失った身体は速やかに01変換され、パンゲア中に融けてゆく。ついでに奴が保管していた酒という酒がぶち撒けられ、芳醇な薫りが周囲に拡散された。
「ほい、お仕事おーわり」
彼女(?)は消えゆくその体から装甲の一部を剥ぎ取って、タッパーめいたなにかにしまい込む。あの極太筋肉はさっと縮み、元の鍛え抜かれた細マッチョに戻っていた。
「悪いわねボクちゃん。こいつはあたしの獲物だから。稼ぎはぜぇんぶ貰ってくから」
「ああ、はあ……」
賞金稼ぎだったのか。なるほど、そこいらの男が束になったって勝ち目が無さそうな見た目をしてらっしゃる。
「何よ。文句あんの」
「いいえ。そんなことは……決して」
喧嘩なんかしたって泣きを見るのはボクの方だ。気分が良いうちになんとか帰ってもらおう。これ以上深く関わるのはゴメンだ。
「じゃ、じゃあボクたちはこれにて。助けてくださって、本当にありがとうございましたあ」
右目で彼女を見、左目でおじさんの姿を探る。ボクから見て左横、割れた壜を拾い集めながら、床に這いつくばる惨めな男の姿がそこにあった。
「おいッ、何やってんだよおじさん。とっとと行くぞ、いーくーぞっ」
「待て。待て待て待て。あのアホンダラ、俺の酒まで全部オシャカにしちまったんだぞ。少しでも、少しだけでも吸っておかにゃあ」
あんたはカブトムシかなんかか。酔わなきゃやってられないのは解るけど、もうちょっと人間の尊厳ってやつを気にしてほしい。
「ほどほどにしろよ程々に。ほら、賞金稼ぎさんの邪魔になるからさあ!」
「黙れ、お前にはこの苦しさがわからんのだ。俺には……俺にはアルコールが必要なんだよぉおお」
気持ちはわかる。いや、わかりたくないけど。今くらいそれやめない? ボクはいいよ。ボクはいいけど、長期的に見てそんなんでこの先生き残れますかって話よ?
「うっさいわ! いいからはよ立て! その醜態をこれ以上晒すなあっ!」
「おう、やめろ! 酒が! ようやくと集めた命の水がぁああ」
なんて、あほ丸出しのやり取りをしている中、『彼女』の目線がこちらに向いたままなのに気付く。やばいぞ、機嫌を損ねたか? いや問題はそこじゃない。このヒト、ボクじゃなく……おじさんを視てる?
「パパ」
うん? あんた今なんて言った? 焦りで耳までおかしくなったのか? 聞き違いじゃなきゃ……。
「パパ! あたしよ! ビッキーよ! 」




