最後の日ですよ、悪魔さま!
翌日も普通に朝は来る。今日もきれいな晴れだ。
僕は透明な姿のままで二人が目をさますのを待ちながら、お腹が空いたので口寂しさを紛らわすためにトマトジュースを飲む。でもやっぱり血の味に比べると物足りない。
薄いレースのカーテン越しに朝日が差し込み、二人の瞼をつつき始める。
もともと朝は早起きをして仕事に行っていたのだろうアルフは、目をむずむずさせた。うーんと唸ったあとで彼は薄っすらと目を開き、しばらくぼんやりしていた。しかしすぐに幸せそうに目を閉じて、二度寝に耽った。
マーガレットはそんな彼の身体を抱きしめて、目を閉じていた。
「今日で最後、かぁ」
やっぱりどうにも満たされない。
食事も眠りも住居も、女も与えた。人間の欲しいものはしっかり与えているのだ。けれどどうしても何かが物足りない。胸がもっと強く、きゅーんとするような……ときめく何かが圧倒的にないのだ。
何が足りないんだろう?
そう思いながら僕はトマトジュースを飲み干した。
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「今日は山のお祭りよ、私ずっと楽しみにしてたの!」
朝食の席で、マーガレットは幸せそうに話した。
「長いことこの辺に住んでるけど、この時期はあの山には入るなって言われてるから山の祭りなんて行ったことないんだよな」
幸せそうなマーガレットに微笑んでから、アルフはそう述べてパンを食べた。
「何でだったかな……悪霊が帰ってくる、とか、なんとか……」
「私知ってるわ。他の人に邪魔されないようにそう言ってるのよ。楽しい席に邪魔が入ったら嫌じゃない」
マーガレットは楽しそうな口ぶりのままで答えた。アルフはふーん、と相槌を打つ。
「だから夜までは二人で時間を潰してましょう。私……ああ、チェスがしたい!」
そんな調子で話すマーガレットにアルフは笑顔で頷き、二人はチェスをした。
勝つのはいつもマーガレットだった。マーガレットはそのたびに楽しそうに笑みを浮かべた。
「あなたって意外とチェスには弱いのね、そんなところも可愛いわ」
もちろん僕は、彼がマーガレットを勝たせてあげていることに気づいていた。
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そうして夕方、刻一刻と部屋が暗くなっていくのが分かる頃に、二人は温かい食事をした。赤身のステーキと、赤いワインと、硬いパン。
二人はおしゃべりをしながらのろのろと食事をして、すっかり外が暗くなったところで外に出る支度を始めた。
二人は暖かい外套を羽織った。
アルフはマッチを擦って、灯りとしてその火を移したランプを持った。
「あと四時間だ」
アルフの耳元で伝えると、彼は目を伏せた。
人通りの少なくなった暗い道を抜けて、舗装のごたごたした山道へと近づいていく。一時間ほど歩き続けても二人は楽しそうだ。
少しヒールの入ったブーツをかつかつ言わせて、マーガレットは楽しそうに微笑んだ。
「もう少しよ、アルフさん」
「ああ、そうだな」
アルフは少し悲しそうに微笑んだ。