第二十話 凱旋はとてもいいものです
翌日、ムーンベルトのメンバーをフェブリアルに連れ帰った私たちに待っていたのは喝采でした。
冒険者ギルドに向かって歩いていると建物の上から花吹雪がばら撒かれます。
「まるでお祭りの主役にでもなったようですね」
「実際になったんだよ。
長年放置されていたルナティックウルフの討伐依頼を新人冒険者が成し遂げたんだ。
しかも悪質なパーティを摘発し、街の英雄を救出した。
そんな前途明るい報せ、嬉しいに決まってるじゃねえか」
嬉しい……たしかにみんな笑顔です。
街では剣を振るったことで追い出されてしまいましたが、ここではそれが笑顔や喝采に変わる。
世の中って広くて、自分が生きていける場所って思ったより多いのかもしれません。
「キサラさん。あなたはきっと素晴らしい冒険者として讃えられる存在になりますよ。
最高の冒険者と呼ばれたあのエンジのように」
ムウさんは私にそう語りかけてきました。
エンジ、という名前に私は思わず反応してしまいます。
「ムウさん、エンジをご存知なんですか?」
「ううん、名前だけよ。
彼のことを知りたいならナーガに聞くといいわ」
ナーガさんに?
どうして、と聞く前にナーガさんが慌てて、
「ムウさん! やめろ!」
と止めようとします。
ですが、ムウさんは意に介さず、
「だって彼とパーティを組んでた間柄だもの。
彼が引退してどこぞの只人と結婚したのがショックでパーティを組まなくなったとか」
なにそれ初耳です!
「テキトーなこと言ってんじゃねえよ!
別にアイツが誰と結婚しようと知ったことじゃねーし!」
ムウさんに詰め寄るナーガさんを私はじーっと見つめます。
もし父様と一緒に冒険者をしていたのなら私の剣にも技にも見覚えがあるはずです。
私の視線に観念したのかナーガさんは槍を両肩に渡して項垂れながら語り始めます。
「ああ……まあ、そりゃあな。
イイ男だったぜ。
だが、アタシはアイツの強さに惚れ込んでたんだ。
引退して、どこぞのお嬢様と子どもこさえて平和に暮らしてる奴には興味ねえよ」
そう言ってそっぽを向きましたが、思い出したように、
「そんなことよりもムウさん!
キサラの技は見ただろ!
アタシ達のパーティ入りなよ!
多分、フェブリアル最強の冒険者パーティになるぜ!」
ナーガさんはムウさんを勧誘し始めました。
たしかに魔術師のムウさんが加わればとても心強いです。
「評価してくれるのは嬉しいけど、私はムーンベルトのムウだから。
あなた達とは組めないわ」
けんもほろろに断られた……と思いましたが、
「いいんじゃないですか?
キサラさん達のパーティに加わっても」
ムーンベルトのライさんがそう言いました。
すると他のメンバーもうんうん、とうなづきます。
ムウさんは泣きそうな顔で、
「そんなぁ! 私はみんなと一緒に居たいのに!」
と仲間たちに縋りつきます。
それはもう子供のように。
「分かってるよ。
ムウさんのことを邪険に扱ってるわけじゃない。
だけど、私たちじゃ難易度の高い依頼は受けられないし、ムウさんがいても宝の持ち腐れなんだ。
最強のソロ冒険者のナーガさん、最強の新人のキサラさん、そして最強の魔術師のムウさんが揃えば今まで誰も成し遂げられなかったことができると思う」
「で、でもぉ……」
「まったく、この国ができる前から生きてるおばあちゃんなのに泣き虫だなあ」
「パーティが違っても私らはフェブリアルの冒険者で仲間じゃん。
いつだって会える」
泣きべそをかいているムウさんをパーティメンバーが慰め、元気づけます。
その光景はとても尊く、私もこのような関係を築いていければと思わずにはいられませんでした。




