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第十三話 ナーガさんは凄い人なのかもしれません

 買い物を終えて家に帰ってきた頃には日はすっかり沈んでしまっていました。


「さっさと風呂の準備始めるか!

 キサラ、火の準備をしろ」

「火?」

「お湯沸かさねえと風呂にならねえだろ。

 薪を風呂の下に放り込んで火をつけて温めるんだよ」

「薪?」

「その辺に転がってるだろ。

 落ちた木の枝とか。

 まあ今後は買った方が良いだろうけどな。

 とりあえず、あるだけ拾ってこい。

 水は任せとけ」


 私に指示するとナーガさんは腕まくりをして浴槽の上に右手をかざします。


「『水の精霊よ集え。そして動きを止めよ。ただ流れ落ちこの地を満たせ』————【ウォーターフォール】』


 ナーガさんの手のひらから滝のように水が降り注ぎます!

 水の魔術です! 初めて見ました!


「これでもエルフの端くれだからな。

 この浴槽満たす程度、造作もない。

 時間はかかるがな」

「わー、すごい。

 エルフは魔術が得意って本当なんですね」

「ま、アタシが使いこなせるのは中級くらいまでだがな。

 ダークエルフは魔術師より戦士向きが多いから。

 ここの冒険者ギルドにいるエルフの中には極大級魔術の使い手もいるし、自慢できるもんじゃないよ」


 すごいと思いますが。

 この魔術があれば旅の間、水に困らないじゃないですか。


 ナーガさんの魔術に感心しつつ、私は家の周りに生えている木の根元に転がっている枝を掻き集めました。

 もっとも、生木が多かったり空気の隙間もないほど突っ込んだりしたため、叱られたり呆れられたりしていましたが。



 夜も更けてきた頃、ようやくお風呂にお湯が溜まりました。

 私とナーガさんは服を脱いで、湯船に飛び込みました。


「クァ〜〜〜っ! 最高だなぁ。

 もうこのままここで寝ちまいたい」

「風邪ひくじゃ済みませんよ」


 でも、ナーガさんの気持ちも分かります。

 いろいろあってすっかり忘れていましたが、私の追放の旅が終わったのは今日の昼前でした。

 戦闘に次ぐ戦闘や物件探しの疲れが一気にほぐれていくようで、夢見心地です。


 ちらっとナーガさんの様子を見ると、早速店で買ってきたりんご酒の瓶を開けて飲み始めていました。


 ……それにしても、スラリとして美しい人です。

 褐色の肌も一片のくすみも無い赤銅のようで見惚れてしまいます。


「何じろじろ見てんだ。子どもにイタズラする趣味はねえぞ」

「あ。すみません!

 エルフの方は肌を見られるのがお嫌いなのですよね!

 場合によっては見た相手を殺すとか!」


 私が謝ると、ナーガさんは一瞬キョトンとした後に笑い出しました。


「あっはははははは!

 ああ、そうかそうか。

 お前はそういうデマを信じているタイプなんだな」

「デマ? なんですか?」

「おう。そういうことにしておいたら都合がいいからな。

 下手なスケベ心の芽を積むことができるし、見られた後、喧嘩吹っかけるも強請るもやりたい放題だからな」

「なんてことを」

「そもそもエルフは長寿族だぜ。

 100年も生きられない只人の子どもに裸見られたくらいで恥ずかしいとか思わねえよ。

 鳥や猿に裸見られてもなんとも思わねえだろ」

「ナチュラルに見下しすぎじゃありませんこと!」


 笑って長い足を水面上に出し、磨くナーガさん。

 私はふと疑問に思った事を聞いてみました。


「ナーガさんっておいくつなんですか?」

「ん、いくつに見える?」

「私の常識だと20前後……」

「エルフでそれだと、ようやくおしめが取れるくらいだ。

 だいたい50歳くらいで成人体になって、そこからは1000年くらい経たないと老け込まないからな」

「せっ…………ちなみにおいくつなんですか?」

「200は過ぎてるぞ。

 昔、お祝いしてくれやがった奴がいたし。

 今って星暦何年だ?」

「1020年です」

「じゃあ、220歳ってところだな」

「……我が家の初代様が生きてらっしゃるくらいの時代じゃないですか」


 まったく感覚が追いつきません。


「それはさておき、一つ尋ねたいんだけど」

「なんですか?」


 ナーガさんはお風呂の底を這いずるようにして私に近づき、手首を掴んできました。

 そして、悪そうな笑みで言いました。


「オマエ、なんで自分が爵位持ちの貴族だって事を隠してやがんだ?」

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