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第十四話 明日が楽しみです

 ナーガさんは笑っていても目は笑っておらず、私の中身を覗くかのように鋭く睨め付けています。

 いたたまれなさに私は、瞬時に音を上げました。


「衛兵のおねえさんに貴族である事を隠した方がいいと言われたからです」

「あっさりかよ。

 イジメがいがねえなあ」

「なんでバレたんですか?

 バレないように完璧に擬態できていたと思いますが」


 ナーガさんはため息をつきます。


「会話の中の失言は大目に見るとして……腰からぶら下げてるミスリルの剣。

 屋敷も買えそうな所持金。

 傷一つなく日に焼けてもいない白い柔肌。

 家事の手伝いも碌にしたことのなさそうな鈍臭さ。

 極め付けが、その手の甲の烙印だよ」

「これですか?」


 手の甲に焼かれたひまわりっぽい形をした烙印です。

 罪人の証にしては可愛いと思っていましたが、


「貴族諸法度に違反した奴につける専用の印なんだよ。それは。

 アドバイスするならそこんとこも教えてやれば良かったのに」

「じゃあ……皆さん気付いていたと」

「どうかな? 仲介屋は知ってるかもしれないが烙印の種類は多いし、全部頭に入れてるなんて奴そういねえから」

「でも、念のため手袋か何かしたほうが良いかもしれませんね。

 明日探してみます」


 私がそう言うとナーガさんはフッと表情を緩めました。


「オマエの家は至る所で恨み買っている悪徳貴族なのかい?」

「恨みを買うお金もないくらい貧乏貴族ですよ。

 お風呂に入れるのなんて月に一回あるかどうかだったんですから。

 ですが、貧しくとも父様はいたずらに領民を苦しめるようなお方ではありませんでしたし、立派な方でした。

 母様も再婚のお話がたくさん来ておりますが父様に操を立てる意味で全てお断りしています。

 アニエス男爵家はそういう家です」


 私は堂々と家名を名乗りました。

 もっとも継承権を失った私にとっては縁のない名前になるのですが。


「アニエス……何度か聞いた名前だなあ。

 まあ、その衛兵とやらの言うとおり貴族に恨みを抱いてる奴も居なくはない。

 昨今、貴族諸法度が厳格化されてるのは貴族の圧政にブチギレた平民の圧力に対するガス抜きが理由だそうだ」

「あの法律おかしいんですよ。

 私なんて庭で剣を振ってただけで継承権を剥奪された挙句、十年間の追放ですよ」

「ぷはっ! マジ?

 なんだよソレぇ!

 只人の娘の十年って結構な罰だぜ!

 なんの罪なんだよ?」

「貴族の娘が剣を振るってはならない」

「まんまかよ! あははははは!」


 ナーガさんは大声を上げて笑いました。

 その笑い声は湯気と一緒に立ち上って夜の空に吸い込まれていきました。

 ひとしきり笑った後、ナーガさんは浴槽の縁に腰掛けて私に言います。


「オマエはそんな法律に縛られるにゃもったいねえよ。

 その剣の腕前は天賦の才だ。

 世が世なら勇者と崇められてもおかしくねえ」

「父様譲りなんです。

 父様も元々は冒険者で最高の冒険者と称えられるくらい優秀だったとか」

「なるほど。それで美貌は母譲りか」


 ナーガさんは目を細めて私を見ます。

 どこか優しい雰囲気が漂っています。


「良かったじゃねえか。

 追放されようが家を継げなくなろうが、親父とお袋の血が受け継がれていることが分かるものが身体に備わってるんだ。

 そういったもんを血の絆って呼ぶんだぜ」

「血の絆ですか」

「ああ。生き別れようが死に別れようが切れることのない縁って奴だ」




 お風呂から上がった私たちはそれぞれ好きな部屋を陣取って眠ることにしました。


「じゃあ、キサラ。オヤスミ。

 明日は早速冒険者ギルドに行くぜ。

 派手なデビューをかましてやるんだ」

「ハイ! よろしくお願いします」


 私は元気よく返事しました。

 ナーガさんがドアノブに手をかけて部屋に入ろうとします。


「ちょっと、待ってください」


 私は思わず声をかけました。


「どした?」

「あの、ナーガさんってどんなところにお住まいなんですか?」

「街のど真ん中の集合住宅だよ。

 寝に帰るだけだからな。

 そんで十分—————」

「良ければ一緒に暮らしてくれませんか?」


 私は勇気を出してお願いしました。

 ナーガさんは一瞬驚いたかのように目を見開いた後、苦笑します。


「なんだお家が恋しくなって誰かを連れ込みたくなったのか?」

「誰か、じゃありません。

 ナーガさんを連れ込みたいんです」

「熱烈だな。

 悪いけど、寝るところにあんまり金かけたくねえんだ」

「お金なんていりません———けど、お風呂の水張りとか家事をお願いします!」


 ズコー、とナーガさんがコケかけます。


「案外実用的な理由で欲してたんだなっ!」

「だって私貴族令嬢ですので!

 家事とかできません!」


 私にとっては切実なのですが、ナーガさんは渇いた笑いを漏らしています。


「オマエ……告白したからって開き直りやがったな」

「言っておきますけど、いくら水が出せても信用できない人と暮らそうとは思いませんよ。

 今日一日過ごして、ナーガさんは信用に足ると思ったからお願いしてるんです」

「信用ねえ……今日会ったばかりの相手を家に招いて、裸のお付き合いもして。

 底抜けにお気楽なのは貴族様だからか?」

「うーん……貴族というより父様と母様の娘だからだと思います」


 私の答えにナーガさんは満足げに微笑みます。


「ま、考えておいてやるよ。

 パーティが上手くハマるようなら四六時中顔を突き合わせることになるだろうからな」


 ヒラヒラと手を振ってナーガさんは寝室に入って行きました。

 脈はアリそうです。




 さて初日からおいしい食事、温かい寝床、信用できる友達とここでの暮らしを堪能しました。

 明日はどんなことが待っているのか?

 期待に胸を膨らませて私の新生活は始まったのです。

これにて二章終了です。

読んでいただいてありがとうございます。


次回からキサラちゃんは冒険者として活動し始めることになるのですが、ここで皆様にお願いです。



「これは面白い!」「もっと続きが読みたい!」

などと思われた方はブクマ、感想、評価などで応援してください。

読んでくれている人がいると分かることが作者にとって何よりも励みとなります。

よろしくお願いします!


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