お酒には飲まれるな
クラスメイトの調き……もとい心を入れ替えてもらうために話し合いをした後、俺は食事のためにナナリ王が用意した食事用に部屋に向かっていた。
部屋に入るとなんかクラスメイトが騒がしい。
一人の女子に人が群がっている。俺はその女子に近づいて見てなっとくした。
「どうだ?七葉、体の調子は」
「最高よ。ようやく高校生の体から解放されたわ」
魔石に封印されていた魔力を取り戻した七葉がそこにいた。
ショートだった髪は腰まで長くなり服も前の召喚の時の服であるものとローブを着ているはずの七葉だが着重ねしているはずなのに母性の象徴が隠れておらずそのスタイルをさらに引き立てていた。
「相変わらず美人だよな〜お前」
「どうも。あーようやくお酒が飲めるわ〜、直也あとで付き合いなさい」
「はいはい」
そういえば七葉は酒好きだったのを思い出して俺はアイテムボックスの中から一つの瓶を取り出す。
ドワーフの仲間からもらった火酒があったはずだ。
「とりあえずこれでも飲んでおけよ。ドワーフからもらった火酒だ、アイテムバックの中に入ってたからまだ大丈夫なはずだぞ」
「お〜!いいね。飲もう飲もう」
そういって七葉はテーブルにあったグラスに酒を入れて飲み始める。
おいおい早いなおい。
仕方ないので俺も付き合うように隣に座り俺も飲む。
ドワーフの火酒はかなり度数が高いので喉が焼けるようになるがこの感覚がまたいい。
「やっぱうまいな」
「いやーこの二年間は辛かったわ。体が大人じゃないからお酒飲めなかったし」
そう言って七葉はばかばか火酒を飲んでいく。
そんなに飲むと二日酔いするぞ?
俺はそんなことを思いながら七葉と一緒に飲んでいると佐々木先生がなぜか近づいてきた。
全く、殺気を当てて気絶させたのに何で懲りずによくくるよ。
「伊澄くん白崎さん何でお酒なんか飲んでるんですか!あなたたちは未成年なんですよ!!」
「こっちの世界ではもう22ぐらいです。日本でも成人できる年齢ですしこの世界の成人は15ですから、ここにいる全員が飲めます。別にいいでしょう」
「う……」
俺の言葉に佐々木先生は固まる。
俺の言葉に続いて今度は七葉が少し顔が赤い状態で佐々木先生に絡む。
「何なら先生も飲む?この世界の酒はどれもうまいわよ〜、それ」
「ちょっと白崎さ…う、けほ」
いきなり火酒を飲まされて少しむせる先生。
これならしばらくは大丈夫かな。
俺はグラスに火酒を継ぎ足してそのままその場を離れた。
「ふう……外は涼しいな」
近くにあったテラスに出て外の風に当たってみると少し暑くなっている頬を夜風が冷やしてくれる。
俺はグラスに入っている火酒をのみ、空をみる。
「……あっ、夕飯食うの忘れた。なんかアイテムバックにあるかな」
俺はアイテムバックを漁る。すると中には何でか串焼きとか沢山の食料が入っていた。
そういえば前の戦争では俺は食料担当だったっけ?
アイテムバックは入ってるものの時間経過がしないので出来立ての料理をその中に入れればいつでも出来立てが食べられるとあってよく使っていたな。
俺は串焼きを食べながらボーっと空を見ていると後ろに気配があって振り返ると王女様がいた。
「どうかしましたか?王女様」
「エルミナでいいですよ。助けてもらった人に敬語を強要しませんから」
「わかったよ。エルミナ」
俺は一度そう言ってまた空を見る。
「空を見ているのですか?」
「そう。このふたつの月がある空だけは前の召喚の時とおんなじだから」
俺はそう言って空にある二つの月を見る。
この世界での月はなぜかずっと満月のままでその空に浮かんでいる。
この空を見てよく飲んでいた。
「前の召喚の時の仲間はどんな人だったんですか?」
俺は火酒を飲みながら昔のことを思い出しているといつの間にか隣に来ていたエルミナが質問してきた。
「ん?……仲間ねえ。最初は他の勇者たちだったけど俺はその後一人で行動してたからよくわからない。でもアルメリアの部下とか本人とかとはよく飲んだよ」
「そうなのですか…確かにナオヤ様の物語には特に仲の良かった仲間は記録にはあんまりいませんでした」
「そうだろ?七葉や俺が倒した光の勇者とかの方がよっぽど物語になっただろうに」
「でも私は剣の勇者の物語が大好きでしたよ?」
「そうなのか」
なんか意外だな。
「圧倒的な剣の才能とそれに自惚れない努力、そして本当の平和を求めた本物の勇者……その雄姿に幼少の男の子たちはあなたに憧れ、女の子はいつかあなたのような勇者様が自分を迎えに来るって信じるのですから」
「そんな大層なもんじゃないけどな俺は。ただの剣士だよ、本当にすごいのはアルメリアだったんだ」
「魔王様ですか?」
俺は首を傾げたエルミナに俺は彼女の話を始める。
♢♢♢
諦めず剣の勇者を説得を続けた魔王に剣の勇者はその理由を問います。
彼女は答えました。「私には力がないと」
魔王の種族は「魔人族」、魔族の種族の中でも絶大の魔力量と身体能力を誇りますがこの種族は欠点として「魔力過多症」を持っているのです。
魔力が多すぎるものに発病するこの病気は患うものの魔力操作の能力を著しく低下させ、魔法の発動が成功しににくくなる症状です。
このせいで魔王はうまく魔法を発動できないでいました。
覡の力があるからかろうじてある程度の地位がある魔王ですが自分が何もできないのを理解していたからこそ剣の勇者に頼んだのです。
「自分は弱く覡の力しかない。だからと言って仲間の後ろに隠れているだけの魔王にはなりたくない、仲間の前に立って自分で導ける魔王になりたいと」
彼女の言葉を聞いた剣の勇者は私欲のために魔王になったわけではないことを悟り、少しずつですが魔王に心を開いていきました。