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お待たせてして申し訳ありませんでした。

難産でした。

 白を基調とした豪華絢爛な広い部屋。およそ一般人で見ることは出来ても利用する機会はない。そこである重鎮たちが集まっている。


「それにしても相も変わらず皇は遅いな。そう思わないか黒桐。」


 そう黒桐流に話しかけるのは古老の風格のある男。


「いつもの事ですからね。そういう神木道元(どうげん)様はいつもお早い。」

「ふん、儂より早く着いておったお前に言われてもな。」


 忌まわしそうに見下す目に苦笑いを浮かべる流。


「それを言うなら私の方が早かったと思いますが? 神木様?」


 黒い長い髪を揺らし赤い唇の端を上げて笑うのは蒼月夜々(そうげつやや)。眉を釣り上げ道元は鼻でせせら笑う。


「おい蒼月! なに道元様に気安く話し掛けてんだよぉ? お前は聖川家だけにしっぽ振ってればいいんだよ?」


 夜々から離れた所に座る真っ赤な髪の紅井烈あかいれつが机に乗り出して噛み付く。夜々も先程の優雅な笑みを消し瞳孔を開き睨み返す。


「はっ、低脳が。今すぐここで溺死させてやろうか?」

「ああ!? 全部蒸発させて火だるまにしてやるよ。」


 水が夜々の周りに現れ、烈の右手は炎に包まれる。誰もその光景に釘を刺さない。日常の風景と黙す中一人だけ慌てている。


「烈! 夜々! 喧嘩は、あ、後にして、ね? 今は話し合いだから。お願い……。」


 上目遣いで二人に懇願するのは緑色の髪の緑山萌琉りょくざんもえる。肩を震わせる様子は子鹿にしか見えない。


「……わかったわよ。」

「ちぃっ!」


 毒気を抜かれた二人はお行儀良く座り直す。


「……くだらない。」


 やり取りを見て茶色い髪の男が吐き捨てる。男は浅黄コウ。腕を組細目で眉間に皺を寄せている。


「神木様。そろそろ会議の時間かと。皇はいなくてもいいかと。」

「それぐらいわかっておる。若造の癖にしゃしゃり出るな。聖川。」

「……すみません。」


 すごすごと縮こまる聖川政人ひじりかわまさと。気の弱そうななりは精神構造も表しているようだ。


「引きこもり一族は大人しくしておればいい。」

「…………。」


 何も言い返さない。同じ《御三家》のはずなのに力関係がハッキリしている。微妙な空気の中乾いた音が響く。音の発生源を見ると紫の髪の女性が手を叩いたようだ。


「時間になりましたので始めますよ。くだらない感情、確執で無様な姿は晒さないでください。当主会議には不要、無用なものです。皇は待ちません。来るかわからないものを待つ必要はありません。」


 抑揚なく語るのは紫崎纏しざきまとい。全員感情を排した目と変わる。


「では、会議を──」

「──遅れて申し訳ありません。皇家当主皇氷華(ひょうか)の代理として参りました皇吹雪です。」


 水色の髪を靡かせ現れた少女を16の瞳が一斉に見つめる。少しだけ臆する気持ちになるがそれは表に出さずしっかりと前を見据える。


「学業を終えてからとなり、遅れてしまいました。」

「学業なら仕方ありません。席は分かりますね。」


 吹雪は残りの二席のうち迷いなく一つの席へと着いた。纏が吹雪が座るのを確認する。


「──それでは改めて当主会議を行います。議題は《毒》、それと《精霊喰い》に関してです。」

「《毒》に関しては私から。」


 流が軽く手を上げ発言を求める。


「それではお願い致します。」

「では、研究結果からお伝えします。まず《毒》に侵された精霊は欲が活性化されます。──質問は後で受け付けます。単純に気に入った人間を取り込もうとしたり自身の力で幽閉。力を誇示したい者は力での暴走。現在横行している精霊の暴走と合致するかと。」


 流はそこで話を区切る。


「欲が活性化されるのはわかったわ。けれど暴走した精霊には明らか力の弱いのもいたわ。」


 夜々が口を開く。


「《毒》には精霊の力を上げる作用もあるのね。」

「さすが蒼月様。その通りです。皆様も薄々分かっていたことかと思いますが。さらに先日この毒が契約している精霊にも見られ契約者にも影響を与えることが判明しました。」


 全員の顔が険しくなる。今までは野良の、未契約の精霊だけかと思っていたものがそうではなくなっだ。被害の拡大が見込まれたとあっては落ち着いてはいられない。


「目下《毒》の対抗手段というより治療法は光の精霊の力を使うのみです。《毒》に侵された精霊、契約者の《毒》は除去致しましたが目は覚ましていません。目を覚ますには時間がかかるかと。」

「犯人はまだ見つかっておらぬのか。」

「それに関してはまだ、と。ただ《精霊喰い》の仕業ではないかと。これについては他の方からありますでしょうから私からは特に申し上げません。今後の方針と致しましては光の精霊以外での治療の早期発見と、私からは以上です。」


 流からの報告が終わる。


「それでは黒桐流様の報告にもありました《精霊喰い》に関して紅井烈様お願い致します。」


 烈が紙を取り出してそこに書いてあることを読み上げる。


「……件の《精霊喰い》に関しては以前情報が手に入らない状況です。奴らの活動は表立っては行わず、拠点はおろか構成員の人数、人物の情報もほぼありません。」


 先程の粗暴な振る舞いから一転し、落ち着いた物言いとなる。


「ですが、4月に皇吹雪の騎士である()()鏡が《精霊喰い》の一員と接触した。この情報が遅くなったのは──。」


 そこで紙をテーブルの上に捨て、吹雪を睨む。


「皇の姫様、俺らは一切騎士について聞かされてなかったがどういうことだ?」


 今にも焼き殺さんとばかりに睨むが吹雪は怯えることなく涼しい顔をしている。


「儂も知らんかったのお。」


 眉尻を下げて悲しそうな顔をする道元だが吹雪はちらりとも見ない。


「藤白というのは本名かしら。それとも黒桐がそう認めたのかしら?」

「本名は藤川だとよ。」


 烈の返しに夜々は顔を険しくする。


「あの……吹雪ちゃん本当なの? だって、その、知らないはずないよね、藤白が何をしたのか。」


 空白の席を見ながら萌琉も吹雪に投げかける。その他の人からも冷ややかな視線を受けながら吹雪は慌てることもなく、後ろめたさもおくびにも出さない。


「──報告する義務がどこに?」

「!!」


 流以外の人間が明らかな敵意を向けてくる。


「吹雪ちゃん、流石の儂もその発言は──許せんぞ?」


 声音が途端に低くなる。


「皇吹雪俺もそれは看過できない。特に神木家ひいては《御三家》《七色》に対する裏切りだ。」


 コウの組んでいる腕に血管が浮き上がる。ぎりぎりと自身の腕を掴んで怒りを抑えている。


 浅黄は代々神木家に仕える家で目立つことはせず当主会議でも発言はしない。口を挟むということはよっぽどの事だ。


「おい流! お前は知っていたな藤白のことを。でなきゃ藤白なんて呼ばれねぇ。言え! どうして藤白と認めた!」


 椅子から立ち上がり流を見下す。あまりの怒声に椅子の倒れた音は誰の耳にも入らない。流は烈の怒声を浴びても慌てない。怖じけることもなく口を開く。


「彼が藤白足りえたからです。藤白は血ではなく心で決まる。それは、あなたがた全員が知っているはずです。」

「──そういうことじゃねぇ! お前はあの時皇がどうなったか知っているはずだ! 改めて問う! どうしてだ黒桐流!」

「紅井様、私ら黒桐が知らないとでも理解していないとでも痛感していないとでも。呪いのようにこの血に刻まれた悔恨を憤怒を絶やしたと? 貴様こそよく考えて物を言ってください。」

「なあぁぁがぁぁれぇぇ!!!」


 烈の髪が逆立ち燃え上がる。元から赤い髪がさらに赤く炎のように揺らめく。流の周囲には影が渦巻く。


「黒桐様、紅井様落ち着いたらいかがですか。あなた達が争ってどうするおつもりで。」


 纏が侮蔑の声音を二人にぶつける。


「それで皇様。どうして騎士をお作りに? あなた程聡明な方ならこうなるとわかっていたはずです。」


 その声は平坦だがどこか優しさが感じ取れる。


「彼しか、彼しかいないと思ったからです。それに藤川鏡は藤川鏡以外の何者でもありません。私はいつまでも過去に怯えるつもりはありません。彼を藤白と呼びたいならお好きに。」


 そこで口を閉ざした。これ以上答えるつもりは無い。


「そうですか。藤白に関してはここまででよいでしょう。これ以上の話し合いは無意味です。」

「どうして紫崎が仕切っておるのだ? 藤白についてこれで終わらせるとは若造、ぬかすな。」

「藤白に関しては他家が口を出してどうするおつもりで。あなたこそボケが始まっているのでないのですか?」


 ここで纏から初めての笑顔が出る。それは馬鹿に出来て最高という愉悦に満ちたものだ。


「ここで紫崎を終わらせても良いのだぞ?」

「出来ないことを吠えるのは悪い癖ですよ。では、次は先の『パラドクス・ランド』に関してです。当事者がおりますので丁度いいでしょう。皇吹雪様。」


 道元は憎々しげに纏を睨む。紫崎は《七色》の中では特別な位置にあり《御三家》に与しない抑制剤として存在する。特に神木とは仲が悪い。


「件のテーマパークへ私的に訪れた際友人の一人が空間の精霊に連れさられその先では大勢の精霊が囚われていました。これに関しては以前報告したこと以上については聖川様からお伺い下さい。空間の精霊についてはそちらの方がお詳しいかと。」

「そういう訳にはまいりません。大屋古屋に最後接触したのはあなたです。彼は《精霊喰い》と接触し《遮断機》を手に入れた疑いがありました。それに関して彼からは。」

「一切話しておりませんでした。これ以上となりますと話すことはありませんが?」


 ちらりと纏を伺う。纏は少し眉を顰めると仕方ないと息を吐く。


「わかりました。それでは聖川政人様から。」

「はい。それではかの空間の精霊ですが《毒》の影響下にあるとそう判断いたしました。」

「……それは! 本当か聖川!」


 必死の形相で道元が睨みつける。


「我が家の《母》が断言いたしました。心臓に埋め込まれるように《毒》が結晶化していました。当家の光の精霊で治療中ですが、近々神木様のお世話になるかと。」

「構わぬ! 空間の精霊が《毒》に侵されたとなっては儂らも悠長してはいられぬ。」


 空間の精霊は今は数が少ない。少ないと言うのは新しいのがあまり生まれず長い間精霊が生き続けている証拠でもある。特に空間、という特異な精霊であり、上位精霊でもある。今まで上位精霊が《毒》に侵されたことはなく力により取り締まることが出来ていたのだ。


「いいか! これは儂らも《毒》に侵されるということだ! 《毒》に関し具体的な策が出るまでは不用意に触れることのないようあたれ。聖川は報告はそれまでか?」

「はい。また後日空間の精霊に関してはお伝え致します。」

「よくやった。聖川。慌てても仕様のないことと思っておったが早急に《毒》及び《精霊喰い》の対策を立てる! こうなっては《光の遣い》にも協力を要請するしかない。事は儂らだけで事足りるとは思えん。」

「道元様さすがにかの機関は──いえ、神木家が決めたことに従うのが私達浅黄です。」


 《光の使徒(ライトナイト)》は完全独立の精霊専門機関。全世界にその根を下ろし活動している。何かと《御三家》《七色》とぶつかることがあり敵対までとはいかないが目障りな存在、そんな認識だ。そしてまさかの一番対立姿勢を見せている神木家の当主神木道元が協力すると言ったのだ神木の犬と揶揄される浅黄コウも黙っていられなかったのだ。


「ふん、日本の危機と比べれは瑣末なもの。本当に邪魔とあれば消すまで、それが可能なのが儂らよ。」


 あえて手を出さかったと言うが少し怪しいところだが誰もそこを指摘することはない。


「《光の使徒》とは儂が交渉する。お前らは《毒》の研究、《精霊喰い》の捜索を今まで以上に力をかけよ。」

「神木様私の家の方針はどう致しましょう。紫崎は中立故に何もしておりませんでしたが。」

「ぬかせ。全ての方面に手を伸ばしておるだろうに。紫崎は儂──神木家と共に《光の遣い》との交渉にあたれ。大方そちらにも手は伸ばしておろう。」


 くすりと少し口角を上げるだけに留めた。見えない火花が飛び散るが慣れたもので誰も驚いた表情はしない。


「では、これから私達のすることは決まりました。では、本日の当主会議、閉会とします。これ以上の報告はない模様ですから。」


 纏が閉会と告げると誰よりも早く道元が席を立ち去っていった。そこから次々と去り、残ったのは吹雪と流、政人に纏だけだった。


「はー、終わったあー。もう、ホント嫌だ。なんであんなに神木さんに睨まれないといけないの……。」


 机に突っ伏し政人が愚痴を零す。政人は昨年当主になったばかりで歳も29と若い。


「吹雪ちゃんよく堂々としてられるよね? 僕にはもう無理だよ……。」

「聖川様しっかりなさってください。そういった態度が相手に付け入る隙を与えるのですよ。」

「流ぇ……今度飲みに行こうよ。ここじゃ友達お前しかいないんだよー……。」


 話を聞かない政人にため息を吐きながら頭を振る。流の方が歳は上だが幼なじみで付き合いも長い。度々一緒に飲みに行き政人の話を聞いている。


「流さん行ってあげたらどうですか?」

「ふ、吹雪様!?」

「ほらー吹雪ちゃんも言ってるしー。こうなったら善は急げ。れっつごー!」


 政人は立ち上がり流の傍に寄ると腕を掴んで立たせる。


「私は行くとは……!」

「流さんをよろしくお願いします。」

「任せて下さい!しっかりと飲んできますよ。」

「待て! 政人、政人ー!」


 流の珍しい慌てっぷりに吹雪は笑いながら見送る。部屋から消え、声も聞こえなくなったところで纏を見る。


「それで何かご用でも?」

「……ありがとうございます。」


 深く頭を下げて吹雪にお礼を述べる。


「紫崎纏さん。私はあなたにお礼を言われる覚えは──。」

「心乃葉のことについてです。パラドクス・ランドの際の小火騒ぎ。あれは心乃葉のせいでしたのに。何故隠してくださったのですか?」


 吹雪は一切心乃葉と信治のことは話していなかった。あくまで地下に行ったのは吹雪とその友人キョウコのみとしていた。


「要らない火種を生み出したくなかったからです。この時期に内部で揉めるのは面倒だっただけです。」

「……そうですか。言いたかったのはそれだけです。私はもう行きます。吹雪様は?」

「私は少ししてから行きます。」


 そう。それだけ言って纏も部屋から消えた。吹雪は背もたれに体重を預けだらける。その顔には疲労が滲み出ていた。


 どう見ても私達の中で問題なのは神木道元よね。いつまでもおさを気取って。いい加減次の世代に譲ったらどうよ。いい加減あの圧力だけ掛けて若い人をいじめるのやめて欲しい。


 道元の顔を思い出し苦々しく、顔をしかめる。


 それに鏡のことで言われるとは思っていたけれど藤白だなんて言って鏡は鏡よ。……でも、


 吹雪も理解している藤白と呼ばれる理由も、そのことも覚悟していたのに。さらに未だに鏡に藤白のことを伝えられずにいた。


「鏡をこっちの世界には招きたくない。でも、私は、鏡といたいの。だから、ごめんね鏡。」

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