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本日三話目です。順番にご注意下さい
吹雪が地下室を選んだのは地下室が特別な構造をしていたからだ。完全防音でどれだけ大声を出しても漏れない。さらに衝撃にも強く、精霊の力にも余裕で耐えられる。
地下室に全員を呼び出して早苗の意識から自分を外す。無警戒に横を通り過ぎようとした所を氷で覆われた右手で腹に重い一撃を入れる。透明な液体が早苗の口から零れる。意識を失った早苗の体崩れ落ちてきそれを抱きとめる。
「さ、早苗!?」
殴った音が聞こえたのか全員が吹雪の方を向いていた。顔を青くした雛が吹雪と早苗に近づく。
「大丈夫よ。少し気絶させただけだから。」
「よ、よかったあ――。」
雛が早苗の体に触れようと瞬間黒いもやが早苗の体にまとわりつく。
「新保さん離れて!」
雛は驚き離れるが足がもつれて尻もちをついてしまう。
吹雪はできるだけ優しく素早く寝かせ離れる。黒いもやが精霊の形を模していく。そこに現れたの写真で見た魅了の精霊だった。
「吹雪!」
「鏡!希樹さんから精霊を引き離して私に近づけないようにして!」
「――ああ!」
吹雪のため。そう思い《精霊器》に手をかけ刀を抜く。薄暗い中でも刀身が煌めいてるのが分かる。
「鏡くんが《精霊器》抜いているところ久しぶりに見たなー。」
のんびりとした口調だが鞭を構えて精霊を見据えている。
「鏡の《精霊器》すごい綺麗だな。今度俺の相手してくれよ――リキ!」
元気は契約している力の精霊の名前を呼ぶ。力の精霊は加護の力がどの精霊よりも強くさらに契約者の身体能力を爆発的に上げることが出来る。加えて元気と契約しているのは上位精霊で現在の元気の身体能力はここにいる誰よりも高い。
「新保さん大丈夫?」
雛に駆け寄り立たせる。腰を抜かしていられたら邪魔でしかないからだ。
「だ、大丈夫、です。」
吹雪に寄りかかりながら魅了の精霊を見据える。とても禍々しい存在で無意識に体が震えてしまう。
「新保さん。逃げるなら今のうちよ。」
震えているのに気づいて優しく声を掛けるがそれは戦えのないなら去れ、と言っているのだ。
雛は深呼吸をさて吹雪から離れる。
「――リュウちゃん!」
雛の腕に水が螺旋状に渦を巻く。それを見て吹雪は口角を一瞬だけ上げたがすぐに厳しい顔つきへとなる。
「氷麗!」
薄い冷気が膜となって守る。早苗と精霊の契約を切るには力を残しておかなければならない。吹雪は自分を守るしかないのだ。
「みんな頼んだわよ!」
こくりと全員が頷く。
最初に動いたのは信治だった。鞭を振るい精霊の胴体に巻き付ける。すかさず鏡がその場で刀を一振りすると氷の斬撃が飛ぶ。それは途中で形を変えて精霊と鞭を凍らせ離れないように固定した。
「ふぐぅ……!!」
信治が一生懸命鞭を引くが精霊も抵抗をしている。
「信治!」
元気も信治の鞭を引く。鏡は二人を守るために構える。
信治と元気で引いてるおかげか少しずつ精霊が早苗から離れていく。
精霊がいっそうもがくと周りのもやが黒い矢へと変容する。
魅了の精霊が相手を魅了する方法として目を合わせる方法ともう一つ、魅了の精霊が生み出す矢で相手を射抜く方法だ。まるで恋のキューピットみたいだが今鏡達の目の前に出ている矢は悪魔が愛用するようなどす黒い矢だ。
精霊は吹雪が何をしようかもおおよそ理解し、吹雪と鞭を引いている元気と信治へと飛ぶ。鏡は飛んできた矢を切り落とす。矢は凍り砕けおちた。
吹雪の方では雛が水で全て弾き落としていた。吹雪はいつでも早苗に駆けよれるよう構えていた。
次々と矢が生成され飛んでくるが鏡と雛が全て弾いていく。そうしておる間にも精霊はどんどん早苗から離れていく。あと半分もすれば信治達の元へと来る。
どうして鏡が精霊を凍りつかせていないかと言うと以前信治と木の精霊と相対したとき放った時に気づいたのだが、あれと同じようにするとかなり広範囲に渡って凍らせてしまい雛を巻き添えにする可能性が高いのだ。
あれから吹雪と何度も練習をして刀を振るって氷の斬撃を出すことが出来るようになりそれを多少操れるようにもなったていた。それに精霊の攻撃を防がなければならずそっちに集中しているというのもある。
「もう少しだ!」
鏡の刀が届く範囲まであと少しというところ吹雪が駆け出した。一緒に雛も駆けながら吹雪を守る。
それに気づいた精霊のもやが一際強くなる。もやが蔦のように早苗の体へと伸びて行く。早苗を自分の元へ引き寄せるかと思ったらそれは早苗の上空で何かを捕まえた。
それは
「トンビ!クロウ!」
雛が現れた二体の精霊の名を叫ぶ。風の精霊と影の精霊。早苗が契約している二体の精霊だ。
黒いもやに囚われた二体は苦しそうに藻掻くがもやの締め付けが強くなると痙攣し脱力した。ゆらりと首をもたげると風と影の爪牙が吹雪と雛へと放たれようとした時
「吹雪!」
鏡が横に一閃。氷の斬撃が二体の精霊の背にあたる。そのまま精霊が斬撃と一緒に飛ぶ。吹雪は飛んでくる精霊を避けるため雛の頭を掴みしゃがみこむ。二体の精霊は無残にも壁へと叩きつけられる。
吹雪が魅了の精霊の向こうにいる鏡を見ると体に矢が何本か突き刺さっていた。
「鏡くん!もう前に立たないで!」
「鏡!俺と代われ!」
二人が顔を歪めながら叫ぶ。
「いいから!引け!」
しかし鏡は動かない。矢を弾く。
あの一瞬鏡は吹雪を守ることで頭がいっぱいで自分のことを忘れていた。けれどもそこから動かなかったのは後ろの二人を守るため。致命傷にはなっていないが肉の柔らかい箇所などにも刺さって痛々しい。
「新保さん後ろの精霊から私を守って。」
「え、でもそしたら……。」
「いいから。おねがい。」
雛の制止は聞かず駆け出す。右手に細い氷の針を作り、致命傷に至る矢だけ弾く。矢が吹雪の服を皮ふを裂く。纏っていた冷気のヴェールは氷の針へと変わっていたのだ。足に腕に矢を受けるが止まることなく早苗に辿り着く。針で早苗の服を裂き、スカートを躊躇なく下ろして下着姿にする。早苗の契約の印はすぐ見つかった。お腹に黒、若草色、そして黒みがかったピンクの物が。吹雪が黒みがかったピンクの印に指を置く。
「――――!」
精霊が声にならならい音を発する。吹雪へと向かう矢を今まで以上に生成する。
「――そこまでだ。吹雪の邪魔はさせない!」
精霊の意識が吹雪へ全て向くと鏡は精霊と距離を詰めすぐ後ろに着き刀を軽く精霊へと触れさせる。
「凍れ。」
精霊の体が大きく跳ね氷の中へ沈んだ。
「――我、契約を断ち切らんとす。我、三柱が一つ。我、罪を受け入れ、我、罪をゆるし、我、罪を滅ぼす。我の名は皇の吹雪。皇の元において彼の者と精霊の絆を拒絶す――」
吹雪の力が印を通して早苗と魅了の精霊と一度に流れ込む。びくり、と大きく早苗の体が跳ねる。それを見てゆっくりと吹雪は立ち上がる。
早苗のお腹には二つの印だけが残っていた。それを見て安堵すると力が抜け体がふらりとゆれる。
――あ、倒れる。
呑気にそんなことを考える。
「吹雪!」
体が地面へと倒れる前に鏡に受け止められる。鏡の腕の中なので自然と力を抜く。
「大丈夫か?」
心配するように顔を覗き込んでくる。その顔は矢が掠めたりしたせいか所々から血が流れている。それは吹雪も同じなのだが。
「ちょっと思ったより力が持ってかれたみたい。貧血を起こしたようなものよ――って怪我!」
鏡を安心させるため笑いかけると鏡の体に刺さる矢が目に入る。反射的に体を起こし鏡の肩を掴む。
「え、怪我……はっ!それならお前も――」
「二人ともだ!」
怒りの声が二人の耳に入る。鏡の後ろに氷漬けにされた精霊を持った怒った顔の元気とへろへろの信治がいた。
「信治これ持ってろ。」
氷を信治に押し付ける。
「ええ!?こんなの渡さないでよ!」
慌てて氷を両手で抱える。
二人の近くで元気はしゃがむ。吹雪と鏡の刺さった矢をじっと見ている。
「皇さん大丈夫――ってすごい矢が刺さってる!藤川くんも!」
二つの精霊の入った水球を従えた雛が吹雪の元にやって来て驚く。
「……命に関わるのはないようですね。抜いてもいいですか?」
一通り見終えた元気が訊ねる。吹雪にも話しかけているため口調が丁寧だ。鏡はそれがおかしくて仕方がなく、笑いそうになるがなんとか顔に出さないようにする。
「鏡いくぞ。」
笑いを我慢することに意識が向いていて気が付なかった。既に元気が手を矢に掛けていることに。
「いっ――!」
鋭い痛みが鏡を襲う。矢で射抜かれた時よりも痛く声が漏れてしまう。
「あと四本だ。」
元気の無情な言葉が鏡を軽い絶望に落とした。
「――よし。終わったぞ。」
最後の矢がようやく抜き終わった。
「ううっ、痛かった。というより今も痛い。」
「しょうがないだろ。本当は抜くのは清潔な環境ですぐ治療出来るところがいいんだけどお前は傷口が凍るから抜いた方がいいと思ってな。矢が刺さったまま歩きたくないだろ。さて、次は皇さん――」
元気が吹雪の方を向いた所で言葉が途切れる。それもそのはず、吹雪が既に自分で矢を全て抜き終わっていたのだ。
「皇さん痛くないのー?」
吹雪に対しても口調が緩み始めてきた雛が問う。間の抜けるような問いかけ方だが心配そうな声音だ。少し震えている。
「ものすっごく痛かったわ。後で上に戻ったら私含めて治療しましょう。それで魅了の精霊は?」
「ここですよー。」
信治が氷を吹雪に差し出す。
「ありがとう荒川くん。うん、ちゃんと凍ってるわね。」
数度叩いて確かめると満足気に頷く。
「どれどれー。」
吹雪の横から雛が覗く。じっと氷の中で眠る魅了の精霊を見つめる。
「早苗さんは鏡が連れて行って。鏡なら安心だから。」
その言葉に鏡は頷く。今早苗は下着姿だ。まかり間違っても本当の男に任せてはダメだろう。鏡は慎重に早苗をおんぶする。
柔らかい胸が当たり鏡は驚く。
「鏡くん変な気分になってないー?」
信治からからかいの言葉が出る。何故か吹雪からも冷たい視線が飛ぶ。
「そんなわけないだろ。お前と一緒にするな。」
「まって鏡くん!それだと俺が変態みたいだから!」
鏡はあえて黙った。別に変な気分にはなっていない。驚いただけだ。
鏡も年頃の女だ。自分の胸ぐらい興味本位で触ったことはある。そして触ったのはいいが鏡の胸は膨らみがぎりぎりあるかな、というもので柔らかさなど感じることは出来なかったのだ。だから早苗の胸の柔らかさに驚いたのだ。
「それじゃあ、ささっとこんな所は出ましょう。お疲れ様みんな。」
吹雪が全員を促す。けれど一人だけ何も反応しなかった。
「新保さん?」
吹雪は未だ魅了の精霊を見ている雛を見る。
「――新保さん!」
吹雪は切羽詰まった顔で雛を氷から引き離す。けれど遅かった。気付かぬ内に雛が温水で氷を溶かしていたのだ。そして半分以上溶け、魅了の精霊が目を開く。
「あ――」
最初の犠牲は信治だった。魅了の精霊と目が合ってしまう。いや、魅了の精霊が信治と目を合わせたのだ。
虚ろな目で炎を纏った鞭を鏡と元気に振るう。何も構えていなかった二人は飛ばされ床に倒れてしまう。
「荒川く――!」
信治の方を見たせいで鏡の意識が雛から離れてしまう。雛はそれを逃さず水を鞭のように操り吹雪の頬を叩く。力のほとんど使っていた吹雪はそれだけで倒れてしまう。吹雪を叩いた水は吹雪の腕と足首を拘束する。
「くっ!最初から怪しいと思っていたけど……新保さん!あなたずっと魅了されていたのね!」
吹雪はずっと不思議に思っていたのだ。いくら親友で魅了の精霊について知っていたからと言って先程の信治のように目を合わせれば精霊の加護が弱ければ魅了されてしまうというのに雛は上位精霊と契約している訳でもないのに正気でいたのだ。
「最初からずっとあなたは希樹さんの、いえ!魅了の精霊の支配下にあった!そして今私が弱ったタイミングを狙ったのでしょう!」
吹雪が問う。雛は答えず氷を溶かす。氷が全て溶け、魅了の精霊が雛の肩へと腰掛ける。
「――ふ、ふふ、ふふふふ、ふふふふふ!あはははははは!皇さんだ〜〜い!ふっせ〜いかーい!」
腹を抱えて笑い声を上げる。愉快にとても愉快そうに。
「私が魅了されているー?ちーがーいーまーす。早苗がずっと魅了されていたのー。この魅了の精霊の本当の契約者はあ・た・しでーす!」
「それはおかしいわ!確かに私は希樹さんと魅了の精霊の契約を切ったわ!」
手足を拘束されながら叫ぶ。
人は複数の精霊と契約を結ぶことが出来る。しかし、精霊は一人としか契約が出来ない。吹雪はしっかりと早苗と精霊の契約を断ち切った。
――もしかして、あれは別の精霊!
「くすくすくす。もしかして別の精霊との契約とか思ってますー?安心してください。ちゃーんとこの子との契約を切ってますよー。」
吹雪を嘲笑うかのように歪んだ笑みを浮かべる。
「あ、荒川くーん。その二人は殺さないように。適度に痛めつけて適度になぶってねー。」
信治の方を見て指示を出す。元気と鏡が立ち上がって雛の方へ向かおうとしていたのをしっかり確認していたのだ。
「わかりませんかー?わかりませんよねー?簡単ですよ。早苗を魅了して支配下にした後まず私とこの子――ミキとの契約を切ったんです。その後ミキと早苗を契約させてそこからさらにミキが私を魅了する要領で記憶を操作したんです。魅了の精霊は確かに相手を虜にするものですけど根幹は精神作用。脳を弄らなくても心的要因で記憶なんていくらでも封印できますからねー。」
「……今の話が本当だとしてもどうしてこのタイミングで記憶が戻ったの。もしかしてそういう暗示もかけたってこと……?」
雛を睨みながら問いかける。
「いぐざくとぅりー!だいせーかーい!そうですよー。そうすれば私は怪しまれない。怪しまれずに人を支配できますから。疑われるのは早苗だけ。怪しまれるのは早苗だけ。罰せられるのは早苗だけ。ミキが見初めたのは私。たとえ早苗と契約していても心が通っているのは私とだけ。所詮早苗も道具の一つだったんですよー。」
雛は咥えていた飴を取り出す。それを吹雪へと向ける。
「そ・し・て、おおきな、おーきな、獲物!藤川くんが現れたんですよー。」
横目で鏡を舐めるように見る。鏡は一度は立ち上がっていたが力が入らなかったのか片足を着いた状態だ。信治と元気が一進一退の攻防を繰り広げている。実力的には元気が上だが魅了の精霊の《毒》の影響で無理やり力を引き出されている。
「丹念に丹念に調べたら皇さんの騎士だったんでこれは皇さんを魅了出来る絶好のチャンスと思ってミキと色々打ち合わせをしてこういった運びになったんですよー。藤川くんって女の子涙に弱いんですねー。」
けらけらと腹を抱えて笑う。一体どこがツボなのか誰も分からない。
「ま、それでも矢が刺さったのに魅了出来なかったのは想定外ですけど。皇さんはともかくとして藤川くんが出来ないってのがどうも納得いきませんけどーそれも今はどうでもいいかな!」
黒いもやが蠢く。それは雛の手の中で矢となる。それは先程までの矢より格段に禍々しい形をしていた。ゆっくりと吹雪へと近づき横向きなっていた吹雪を仰向けにして跨る。
服の上から吹雪の心臓の位置をとんとん、と指で叩く。
「ここですよー。今からここにずぶりとこれを刺しますからねー。心はここにあるんです。脳にあるとか言う人がいますけど私たちが心って言って指し示すのはここです。私たちの心はここにあるんです。」
うっとりと舌なめずりをしながら吹雪の胸を優しくタップしながら語る。対する吹雪は恐怖などなく一心に雛を睨んでいる。
「じゃあいきますよー。安心してください痛いですからー。最後にちゃんと生きてる実感味わえますからー。」
矢を振り上げる。その時鏡が地面を蹴った。信治が慌てて鏡へと鞭を振るおうとする。
「信治、お前の相手は俺だ!」
元気が信治の燃え盛る鞭を掴み吹雪達とは反対の方へ思いきり背負投げの要領で引っ張る。鞭を持つ信治はまるで釣竿の先の餌のように投げられ壁へと叩きつけられる。
「あっっちぃ!ここまで熱いとかお前の契約者誰だよ!」
仮にも上位の精霊と契約している信治の手が火傷を負っている。
「けどまあ、俺の相手じゃないな――。」
にっと太陽顔負けの笑顔を浮かべ信治へと突撃する。信治は糸が切れたようなマリオネットのよつに立ち上がりながらも構える。
勝敗は既に見えていた。
一方鏡は低い体勢のまま走る。向かう先は吹雪の元。雛は気づいていない。しかし、二体の精霊が行く手を阻む。風刃と影の爪を繰り出してくる。鏡は今一度膝を曲げ飛び跳ねる。攻撃を躱し、さらに精霊の頭上を飛び越す。精霊の頭上を飛び越した先には雛と吹雪がいる。鏡は空中で体を捻りそのまま吹雪に矢を刺そうとする雛の顔に蹴りを繰り出した。
「皇さんいきま――がは!」
どれほどの力を込めたのか鈍い音を立てて雛は床へと叩きつけられる。
「吹雪!」
鏡は急いで吹雪を縛る水を《精霊器》で凍らせ破壊する。立ち上がった吹雪を背にして雛とその他の精霊を睨む。
雛は緩慢とした動作で立ち上がる。地面と擦れたせいか少し顔から血が流れている。
「女の子顔を躊躇なく蹴るとか酷くないー?てかそんな力どこにあったわけ。」
「俺は吹雪は守るためだったら無い力も振り絞って死に体だとしても立ちあがる!」
反射的に刀に力を込めていて答えていた。鏡の心からの叫びに後ろの吹雪が面食らう。
「鏡……。」
鏡からの熱い思いに吹雪はより一層雛を強く睨む。二人の強い絆を前に雛は形相を歪めていく。
「は――?なにそれ。友情?愛情?親愛?くっだらない。そんなものいつか壊れるものなのに!私だってそうだった!消えた!この手のものがずっとあったものが離れて!だから取り戻したの!なのになんなのあんたら!最高に――ウザい。」
恨みの篭もった目が鏡と吹雪を見る。そこに光はない。黒いもやが雛の周りに沢山立ち込めていく。
「もう、終わらせてやる――。」
体量の矢を生成して鏡と吹雪を殺す準備をする。けれどもそれは叶うことは無かった。
「――そうだな。もう終わりだな。」
「え――。」
雛の後ろから声がする。そこには爽やかな満足した笑顔の元気が拳を構えていた。
「お前の負けでだけど。はっ――!」
鋭い一撃が雛の腹へと決まる。吹き飛ぶことはなかったがその一撃は体内へ衝撃を送り雛は気を失った。
「鏡!精霊を!」
「――あ、ああ!」
元気の一撃に呆然としていた鏡は元気の声に慌てて魅了の精霊を凍らせる。本来の契約者である雛が気を失ったせいか精霊も気を失っていた。他の精霊も同じように気を失ったのか地に伏せていた。
魅了の精霊との戦いはようやく幕を下ろした。