3月14日
「あーーー!」
3月14日の昼休み。私蓮佛聖の前で突然叫び声をあがった。
「どうしたのシロナ?」
「……忘れた」
「忘れた?」
「ホワイトデーのお返し……」
「あ、あぁ……」
どうやら目の前にいる少女、日吉シロナは今日持ってくるはずだったホワイトデーのお返しを家に忘れてきてしまったらしい。
「うぅ。ごめんね聖ちゃん……」
……そんな涙目で私のことを見つめないでほしい。やっぱりシロナは反則だ。
「そんなに気にすることないよ。別に今日にこだわらなくても明日だってもらうよ」
私はシロナを励ましつつそんなことを提案してみる。
「うーん。でもせっかく用意したし、それにこういうのはその日に渡すってのが大事なような気もするし……」
しかしシロナは私の提案をよそに何やら考え出した。
「シロナ?」
なので一度思考から戻ってきてもらおうと声をかけるが―。
「そうだ!!」
「わっ!?」
またしても突然声を上げるシロナ。なんか周りの人たちに見られてるのは気のせいだと思いたい。
「聖ちゃん、私に名案があります」
「えっと、なに?」
「今渡せないなら帰ってから渡せばいいんだよー」
「う、うん。そう……だね」
「だから聖ちゃん。放課後は私の家に来てほしいな」
「……」
私の家に来る?それってつまり私がシロナの家に行くってこと?
「おーい、聖ちゃん戻っておいでー。あ、言い忘れてたけど今日は私の家誰もいないんだー。こういう時のお約束だね」
「え……」
誰もいない家でシロナと二人きり?
「ん?」
「えーーーーーーーーーー!!」
「わわ!聖ちゃんどうしたの?」
その後なんかすごいテンパってしまった私だったが最終的に放課後シロナの家にお邪魔することが決まった。
放課後。現在私はシロナの家の前にいる。
「さあ聖ちゃん、入って入ってー」
「お、お邪魔します……」
言動からもわかる通りものすごく緊張してます。だって仕方ないじゃないですか。好きな人の家なんですから。それに今日、本当にシロナの両親はいないらしく二人きりである。シロナには「せっかくだし泊まっていく?」なんて聞かれた。さすがにそれは断った……というか多分私がもたない。まあそうじゃなくても明日も平日だからという理由もあるのだが。
「あ、せっかくだし私の部屋で食べようよ。私の部屋二階の突き当りだから。先に行ってて。扉に名前もあるからすぐわかると思うよ」
「う、うん」
そうして私は「ちょっと準備してくるから待っててね」と言ったシロナの言葉に従い二階に上がることにした。
シロナの部屋に入った私はついつい部屋全体を見渡してしまった。ベッド、学習机それに小さな本棚。ベッドの枕元と本棚の上にはぬいぐるみが飾られている。カーテンは優しいクリーム色で部屋全体はパステル調の明るい感じの部屋である。
そんな感じでついついシロナの部屋を眺めていると―。
「あれ?もしかしてずっと立ったままだった?」
唐突に後ろから声がかかった。もちろんであるがシロナの声だ。
「え、えーと……」
「ん?とりあえず……ベッドにでも座る?」
「う、うん」
そうして私はシロナに促されるままにベッドの上に座り、シロナは私のすぐ横に座った。
「じゃあさっそくだけど、はい。ホワイトデーのお返し」
そう言ってシロナが差し出してきたものは……。
「シロナ……これ」
ピンクの包装紙に金色のリボンでかわいくラッピングされた箱。……私が一か月前にシロナのかばんの中に入れたものとほぼ同じものである。
―ぐうぜん?
そう考えとっさにシロナの顔見る。しかしシロナはニコニコと笑っているだけでその顔からこれが意図したものかそうでないのか判断できない。
「どうしたの、聖ちゃん?」
「え、えっと、なんでもないよ」
「そう?変な聖ちゃん」
どうやら私はかなり変な挙動をしていたらしい。一旦落ち着かなければ。
「ふー。それで、いきなりだけど開けてもいい?」
「いいよー」
許可ももらったので早速開けてみることに。箱にされたラッピングを丁寧に取り箱の開ける。
「わあ。ホワイトチョコだ!」
中身はハート形の一口サイズのかわいいホワイトチョコがたくさん入っていた。
「うん!やっぱりこういうのの定番かなって」
「食べてもいい?」
「もちろん!」
そこで私は早速チョコを食べようと箱の中に手を伸ばす……がなぜか途中でシロナにその手を止められてしまう。
「えーと、食べていいんだよね?」
「ふっふっふ、まあ少し待ちなされ」
そう言うとシロナは自分で箱の中のチョコを一つつかんだと思ったらそれを私の目の前に差し出してきた。
「あの、これは?」
「もちろん、あーんだよ。やっぱりこういうのの定番かなーって」
そうしてシロナは再度私の前にチョコを出してきた。シロナの顔を見ると、なんかすっごい期待のまなざしで私を見てきた。これは……期待に応えるべき……だよね。
「はい、あーん」
「あ、あーん」
結局差し出されたチョコを私は素直に食べることにした。チョコは……おいしかったんだけどそれ以上にこのシチュエーションの方に意識がいってしまいしっかりと味わうことができなかった。
「どう?チョコの味は?」
「……おいしいよ、とっても」
「よかったぁー」
私の感想が聞けたからかシロナはうれしそうにするとともに安堵したようであった。
「そういえば聖ちゃん、ホワイトデーのホワイトってどういう意味か知ってる?」
しばしの間二人でチョコを食べていると唐突にシロナが私に聞いてきた。
「え?」
「答えはね、純白の愛だよ」
シロナはそう言うと私をベッドに押し倒してきた。
「え?えぇ!?」
そしてそのまま私の上に覆いかぶさるシロナ。
「ねぇ聖ちゃん」
シロナの声が私の耳をくすぐる。
「な、なに?」
正直今いったい何が起こっているのか私は認識しきれないでいる。一体何がどうなってこうなっているのかわからない。しかし私の混乱などお構いなしにシロナは次の……私たちの関係を決定的に変えてしまう言葉を紡ぐ。
「すき」
「え?」
それはたった二文字の言葉だった。
「私は聖ちゃんのことが好き。友達としてじゃなくて恋愛対象として好き」
「すき」。たったそれだけの言葉なのに私の心を大きく乱す。
「そ、それって―」
「ねえ聖ちゃん、バレンタインの時チョコくれたよね?ピンクの包装紙に金色のリボンで……ちょうど今日私が用意したみたいにラッピングされたやつ」
「どうして……」
あれは差出人も書かないで送ったはずなのに……。
「わかるよ。だって聖ちゃんのチョコだもん。食べたらすぐにわかっちゃった。言ったでしょ、聖ちゃんのチョコは特別だって」
そう言った後シロナは私にやさしく微笑みかける。
「最初はねビックリしたよ。でもね聖ちゃんからのだってわかって、じゃあなんで差出人も書かずにこっそりチョコを入れたんだろうって考えてね……。真剣な思いには真剣に返さなきゃって思って今日こんなことになっちゃいました」
私の勘違いだったら恥ずかしいんだけどねと付け加えてシロナはほんの少し照れたようにはにかむ。
「そんなわけで聖ちゃん。私と恋人同士になってください」
そうお願いするシロナに私は。私は―。
「……いいの?」
「はは、それは私が聞いてるんだけどなぁ。でも答えるよ。いいよ」
「女の子同士だよ?」
「私は聖ちゃんがいいんだよ」
「……本当の本当に?」
「本当の本当に。これが私が一か月考えた上での結論だよ」
「………………しろなぁ」
そうして私はおもいっきり抱きついた。
「私も好き。……大好き」
ぽろぽろと私の目から涙があふれてくる。
「今日の聖ちゃんは泣き虫さんだね。……私も大好きだよ」
そう返すシロナの目にも徐々に涙があふれてくる。
「……ねえ聖ちゃん、これからも一緒にいようね」
「……うん。うん。離れてなんかあげないからね」
そうして思いを確認し合った私たちは、どちらからともなくお互いの唇を合わせるのだった。
一応補足というか、シロナがお返しを忘れたのはわざとです。なんか涙目になってるのも、忘れたからじゃなくて嘘ついたのが心苦しいからです。
同じラッピングにしたのも当然確認のためのかまかけです。シロナのもくろみ通り聖はかなりあわててしまいました。
…こうして考えてみるとシロナ、意外と黒いぞ(笑)。
ところでなんですが、シロナsideの話を書こうか迷ってるんですよね。どうしよう…。