表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キヲク  作者: けせらせら
22/44

4・鮎川早苗の章 (1)

   4・鮎川早苗の章


 そのニュースが飛び込んできたのは火曜日の夜だった。

 鮎川早苗はいつものように残業で会社に残っていた。

 外で夕食を済ませてきた関口真がパソコンの画面を見つめ、「あ……」と小さく声をあげた。そして――

「捕まったんだぁ」

 と、インターネットの記事を見つめながら誰に言うわけでもなく呟いた。

「どうかしました?」

 隣の席に座る早苗が声をかける。

「この前の事件の犯人、捕まったみたいだよ」

「事件って?」

「阿佐ヶ谷で男が殺された事件だよ。憶えてないか?」

 もちろんすぐに早苗も思い出した。なんといってもあの事件のおかげで、二葉と再会することになったのだ。しかも、その事件には兄の秋彦も関係している。

「犯人、誰だったんですか?」

「太田沙織……21歳の大学生。殺された松野真一の恋人なんだって」

 関口は記事を読みながら言った。

「恋人? 動機は?」

「さあ……そこまではまだ書かれてないね」

 そう言って関口は人差し指で銀縁の眼鏡をクイっと押し上げた。関口は早苗よりも3歳年上で、ずっと事件記者をしている。「どお? 取材してみる?」

「私がぁ? まさか」

「興味あるでしょ?」

「私に事件記者は無理ですよ」

「どうして決め付けるの? やってみたら? 案外、向いてるかもしれないよ。ねえ、編集長」

 関口はそう言うと編集長席に座った梶谷に声をかけた。ここ数日、会社に泊まり続けの梶谷は机に顔を押し付け眠っていたが、関口の言葉を聞いてゆっくりと顔を起こした。

「……そうだなぁ。1度、やってみてもいいかもしれないな」

 梶谷は大きく背伸びをしながら言った。「もし記事になるようなら、来週号にでも載せてやってもいい」

 梶谷は来年から創刊される『7DAYS』の編集長と、現在、発売されている週刊誌『RED』の編集長を兼ねている。

「ダ、ダメですよ」

 早苗は慌てて首を振った。もともと早苗は文芸誌の編集者になるのが夢で、この会社に入ったのだ。配属されたのは希望していた文芸誌を扱う第2編集部だったのだが、配属されてすぐに事件事故を扱う第1編集部で人手が足りないということで応援に回されていた。それも後少しで終わることになっている。

「ダメってこたぁないだろ」

 梶谷は鼻の下に蓄えた口ひげをさすりながら言った。「何事も経験さ。別に無理することたぁないんだ。練習のつもりでやってみるといい」

「でも……」

「そうそう、鮎川は当分の間、第1編集部だからな」

 その言葉に早苗は愕然とした。それではこの会社に入った意味がない。

「そ、そんなぁ……」

 そんな早苗の様子を眺め、梶谷は大きく笑った。

「そんながっかりした顔するなよ。冗談だよ、冗談」

「ひどぉい」

「鮎川は来年早々第2編集部に戻ってもらうことになってる……ってことで、取材は関口、おまえが行けよ」

 梶谷は関口を指差した。

「えぇぇ!」

「何が『えぇ』なんだ? おまえはもともと事件記者なんだから当たり前だろ」

「そりゃ、そうですが……俺はまだ歌舞伎町での事件が……」

「なんだ、まだ記事になってないのか? とっとと終わらせろ」

「ひどいなぁ」

 関口は頭を掻いた。

 早苗は笑いながら関口の前にあるパソコンの画面を覗き込んだ。そこには記事と殺された『松野真一』の写真が表示されている。

 その写真を見た瞬間、早苗の頭のなかにある出来事が蘇ってきた。香澄と映画を観に行った後で立ち寄ったイタリアンレストラン。あの店を出ようとした時、見かけたあの男が『松野真一』ではないだろうか。チラリと見ただけで確信はないが、あの時の男と似ているような気がする。

――どこかで逢ったような気がするんだけど……

 まさか香澄がこの事件に関わっているとは思えないが、それでもあの時の言葉が気にかかる。

 秋彦に一度聞いてみようかと考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ