第十八話 思い込みが激しい先輩の襲来パート2
遅くなりました、申し訳ありません。
「だ、だって男の人っていうのは、その、気になってる人にああいうことをするんでしょう?」
「はぁ?!」
『結婚してください』
その言葉に唖然とする俺に、音無鈴は続けてそう言った。
「だから、結婚しましょう。」
「いやいやいや、何を言ってるんですか?! そもそもあれは事故ですからっ! 俺は音無先輩のこと、まぁ綺麗だとは思ってますけど、それとこれとは話が別です。第一、俺と先輩は出会って一ヶ月も経過してませんよね?」
「綺麗だなんて、そんな・・・・・・」
顔を更に赤くしつつ、俯いてしまう先輩。
この人実はまだ酒が残ってるんじゃないだろうか。そうだ、いろいろあって忘れてたけど、あの地獄の酒盛りから結局のところ3時間ぐらいしか経ってないじゃないか。そうだ、これは酔っているだけなんだ。
「とにかく、それは、その・・・・・・勘違いです。それに、先輩の気持ちだってありますし。」
「それは大丈夫です。一緒に暮らしていればその内・・・・・・」
「何が大丈夫なんですかっ!」
俺は大きな声で突っ込んで肩を落とした。
先輩が結婚できない訳、その原因の一端を垣間見たような気がした。
「俺は結婚とか考えられませんから。」
「それは萌葱ちゃんがいるからですか?」
絞り出すように告げた俺の言葉に、先輩から予想外の切り返しが返ってくる。
「はい?」
「やっぱり、一緒に暮らしているのはそういうことだったんですね。」
正直、萌葱のことをすっかり忘れていた俺は、その言葉に彼女のことを思い出す。
現実世界に来て、初めて俺に手を差し伸べてくれた彼女を。
「そ、それは違います。あいつと俺は、利害の一致で一緒に住んでいるだけです。それ以上のことは何もありません。」
それは全くの本心からの言葉だったのだが、先輩にはそうは聞こえなかったようだ。
ふーん・・・・・・、とでも言いたげな目つきで、俺の顔をジロジロと眺めてくる。その先輩の細められた目を見ながら、俺は考える。
そもそも、俺には『愛』がわからないのだ。人間がどんな気持ちで他人と心を通わせ、共に生きようと思えるのかが、俺にはわからない。
確かに萌葱も、先輩も綺麗だ。でも、性格を別にしても俺は萌葱たちに好感を持つことはあっても、好意を持つことはない。
そのことを改めて意識して俺は、
「音無先輩、俺には今俺のことを必要としてくれている人がいるんです。だから、その要望を受け入れることはできません。」
努めて、声を平坦にして事務的な口調で言い切った。
「・・・・・・そう、ですか。今夜はご迷惑をおかけしました。・・・・・・ここで失礼いたします。ありがとうございました。」
先輩は表情一つ変えずに言って、礼をする。それに合わせて礼をする俺の耳に、
「諦めませんよ。」
そんな声が響いたが、顔を上げたとき先輩の姿は消えていて、彼女がどんな気持ちで、どんな意味を込めてそう言ったのかを、確認することはできなかった。
その言葉どおりに、社内に混乱を招いてくれた先輩の顔が、目の前にあった。
「こんにちは!」
「あ、えっと、こんにちは?。」
満面の笑みで言う先輩の顔を見ながら、俺は反射的に挨拶を返して振り返る。
家具がちょっとずつ増えてきた広いリビングに、相変わらずの萌葱。うん、間違いなくマンションで間違いない。続いて、壁にかけられたカレンダーと時計を確認する。11月19日、日曜日 AM10:49。週に一日しかない至福の時、休日・・・・・・のはずだが。
「なんでいるんですか?」
「なんで、なんてつれないなあ・・・・・・恋人の家に遊びに来ただけだよ? 当たり前のことじゃん♪」
「恋人じゃありませんっ! 勝手に既成事実を捏造しないでください。それと、そのキャラも止めてもらえますか?」
「む~! ・・・・・・まぁいいか。本当のあたしのキャラなんてもうあたし自身も覚えてないし、このキャラで通ってあげるよ。」
なにげに切ない事実を語り、真顔に戻る先輩。
「それで、何をしに来たんですか?」
正直言うと、週一の貴重な休みの日を無駄にしたくはない・・・・・・厄介事は勘弁して欲しいのだが。
「決まってるでしょう、会いに来たの、萌葱ちゃんに。・・・・・・もう一度、やり直そうと思って。」
・・・・・・そういうことか。
「言っときますけど、萌葱は基本的にネットしかやってませんからね。」
「わかってますよ、A君よりも付き合いは長いんですから。」
それもそうだった。俺は体を横にずらして道をあける。
「それでは、お邪魔しまーす!」
心なしか嬉しそうな先輩の声。
二人の関係が元に戻るのは、良いことなんだろう。
無意識のうちに笑っていることに気づいて、俺は慌てて顔を下げつつ先輩に続いた。
次回を、2月の5日、12:00に予約投稿しました。
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