千夏の空⑦
「農業日和!」が大好評のうちに幕を閉じ、今日はその総集編の特別番組。
スタジオには、お馴染みになったピンク色のつなぎを着た小林優花、高原千夏、城田翔太の三人が出演していた。
番組を進行するのは、日本エアウェーブのアナウンサー宮田翔。
「さて、半年間続いた『農業日和!』ですが、『天気がこんなに農業に密着しているものとは知らなかった』『農業や福祉の現場が身近に感じられた』といった、本当にたくさんの反響をいただきました。今日は、その軌跡を振り返りながら、出演者の皆さんとお話を伺いたいと思います」
宮田の言葉に、スタジオに集まったスタッフや関係者が温かい拍手を送る。
大画面には、これまでの放送のハイライトが映し出されていた。
——初めての収録で緊張しながら大根を抜く千夏。
——豪雨対策で奮闘する優花と千夏。
——台風接近時に農園スタッフと一緒にビニールハウスを補強する様子。
——収穫した野菜を手に満面の笑みを浮かべる二人。
——知的障害のある利用者が作業に打ち込む姿。
映像を見ながら、優花がしみじみと呟いた。
「……本当に、いろんなことがありましたね」
宮田が頷きながら話を振る。
「では、まず小林さん。この半年を振り返って、いかがでしたか?」
優花はゆっくりと頷き、マイクを持った。
「気象情報と農業が、こんなにも深く関わっているのだと改めて実感しました」
「もともと気象の仕事をしていますが、実際に農作業に携わってみると、天気一つで作物の成長が大きく左右されることがよく分かりました。農福連携の現場も、ただ『支援』という視点ではなく、みんなで力を合わせて命を作り出す場なんだと感じました。そして、作物と一緒に、千夏ちゃんがどんどん堂々と成長していく姿を見ることができて、本当に良かったです」
宮田が「なるほど」と頷くと、次に城田へとマイクを向けた。
「城田さんは、お二人と一緒に過ごしてみて、どんなことを感じましたか?」
城田は笑顔で語り出す。
「気象や農福連携の現場を伝える。障害のある人もない人とも、農業に関わる全ての人々が共に生きる、支えあうということを示す。そんな目的以上に、彼女たちと一緒に過ごせたこと自体が、私たちにとっての宝物でした」
スタジオのスタッフたちが頷く。
「小林さんも高原さんも、野菜ひとつひとつに『美味しくなってね』って声をかけながら水やりをしていましたね。収穫した野菜の土を払う仕草も、とても丁寧で。カメラが回っていないところでも、作物に愛情を持って向き合っていたのが印象的でした。
そして、それは利用者さんたちに対しても同じでした。彼らは、相手の笑顔が本物かどうかを瞬時に見抜くんです。その彼らが、これ以上ない笑顔で二人に接していた。どんな人にも分け隔てなく接している、何よりの証拠だと思います」
宮田が感慨深げに言う。
「とても素敵なお話ですね。では、高原さん。半年間の経験を振り返って、一番印象に残っていることは何ですか?」
千夏は、照れくさそうに笑いながらマイクを持った。
「……はじめは、何も分からなくて。緊張ばかりして、言葉に詰まることも多くて、周りに申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
映像には、初回収録の様子が流れる。カメラの前で何度も噛んでしまい、「すみません!」と深々と頭を下げる千夏の姿——。
「でも、優花さんが『誰に伝えたい?』と聞いてくれたことで、まずは大好きな母に話し掛けるつもりで伝えようと思うようになりました。そんな風に、優花さんや番組関係者の方々、『大地の風』の皆さんが、みんな優しくしてくれたおかげで、どんな学校や部活でも学べない貴重な勉強をさせてもらいました。 本当にありがとうございました」
スタジオに温かな拍手が響く。
「ここで、高原さんにサプライズです!」と宮本が笑顔で告げると、スタジオのモニターに映像が映し出された。
スタジオの照明が少し落ち、モニターに一枚の絵が映し出される。
鮮やかなクレヨン画。大きなトマトと、空を見上げるピンク色のつなぎ姿の人が描かれている。
「これは……?」と千夏が目を丸くする。
スタジオの扉が静かに開き、一人の青年がスタッフに手を引かれて入ってくる。
雷の日に出会った彼——マモル君だ。
少し緊張した様子で、両手で丁寧にラミネートされた絵を持っている。
「この絵を描いてくれたのは、マモル君です。番組で雷の日に一緒だった彼が、どうしても伝えたいことがあると言って……」
宮田の声と同時にマモルは千夏の前に立ち、小さな声で、でもしっかりとこう言う。
「……ありがとうございます」
そう言って、絵を千夏に差し出す。
千夏は目を見開いたまま、ゆっくりと立ち上がり、両手で絵を受け取る。
そして、涙を堪えながら微笑む。
「こちらこそ……ありがとう。マモルさん」
スタジオには温かい拍手が広がり、
優花も静かにうなずきながら、目を潤ませている。
その時、優花がふと目を細めて、懐かしそうに口を開いた。
「私が……千夏ちゃんから焼き鳥の絵をもらったときのこと、思い出しました」
宮田が「えっ、焼き鳥ですか?」と笑う。
「うん。あの時も、千夏ちゃんが自分の気持ちを一生懸命に伝えてくれたんです。絵って、心がまっすぐ届くんですよね」
千夏は顔を赤らめて小さく笑い、優花と目を合わせる。
城田も温かい表情で言う。
「……やっぱり、番組が生んだのは『野菜の絆』だけじゃなかったですね……この半年間、きっと私たちが思っている以上に、たくさんの心に何かを届けられていたんですね」
宮本が優しく声をかける。「千夏さん、今のお気持ちは?」
千夏は涙を拭いながら、精一杯の笑顔で答えた。
「こんなに嬉しいこと、人生で初めてです……。みなさん、ありがとう!」
スタジオには温かな拍手が広がり、優花や城田も目を細めながら微笑んでいた。
宮本がにっこりと笑い、優花に話を振る。
「では、小林さん。高原さんの成長を間近で見てきたわけですが、今後の千夏さんに期待することは?」
優花は、にこっと笑いながら答えた。
「十年後のアトモス気象研究所のエースです! 私の次に『モーニング・ブリーズ』の気象キャスターをやってもらいましょう!」
千夏が「ええっ⁉︎」と驚きながらも、少し嬉しそうな顔をする。
すると、城田がすかさず笑いながら言った。
「いやいや、それよりも『大地の風』のスタッフですよ」
スタジオに笑いが広がる。
そんな中、宮本が時計を見て「そろそろお時間ですね」と締めくくりに入る。
「では、最後に高原さん、一言どうぞ!」
突然の指名に、一瞬「えっ」と戸惑う千夏。
しかし、次の瞬間、しっかりとカメラを見つめ、笑顔いっぱいで言った。
「皆さんの今日が、いいお天気でありますように!」
「それ、私の専売特許だよ!」
優花の突っ込みに、スタジオ中が笑いに包まれた。




