千夏の空①
皆さんの今日が、いいお天気でありますように」
爽やかな笑顔で、小林優花が『モーニング・ブリーズ』の気象コーナーを締めくくる。カメラの赤いランプが消えると、スタジオには和やかな雰囲気が広がった。
「お疲れ様でした!」
「小林さん、今日も分かりやすかったですよ」
スタッフたちが声をかける中、優花は笑顔で「ありがとうございます」と応じる。放送の緊張感が抜けるこの瞬間が、彼女にとって心地よい時間だった。
そんな中、番組プロデューサーの畠山耕作が優花に近づいてきた。落ち着いた雰囲気の中に、どこか熱意を秘めた男だ。
「お疲れ様です、小林さん」
「お疲れ様です」
畠山は手に持った企画書を軽く叩きながら言った。
「次の企画会議で、小林さんに担当してほしい新コーナーを提案したいんだけど、いいかな?」
「どんな企画ですか?」
優花が興味を示すと、畠山は彼女に向けて企画書を開いた。そこには大きく『農業日和!』と書かれている。
「気象情報と農業を結びつけて、視聴者に天気の影響をより身近に感じてもらうコーナーです。さらに、一般視聴者からレポーターを募集して、僕の知人が運営する社会福祉法人の畑で作物を育ててもらう。気象の影響を学びながら、農業と福祉が結びつく現場を伝えていきたいんです」
「農福連携……ですか?」
優花は、企画書に目を落としながら呟いた。
「そう。気象を考えながら作物を育てることで、天気と人の営みの繋がりを実感できる。でも、それだけじゃない。障害のある方々が農業に携わることで、社会参加の機会が増える。それに、この法人は、普通なら廃棄される野菜も加工することで無駄にしない。自然の恵みも、人の個性の違いも、全部ひっくるめて受け入れていく。そんな温かい景色を伝えたいんです」
畠山の実家は農家で、「耕作」という名前はそこからきているらしい。農業に対する思いがこの企画を生んだのだろう。
けれど、それを抜きにしても、優花はこの企画が気に入った。気象キャスターとして伝えられることが、ここにはたくさんある。
「はい。ぜひ、担当させてください」
優花はにっこりと微笑んで答えた。
『モーニング・ブリーズ』の公式SNSに、新コーナー「農業日和!」の視聴者レポーター募集の告知が投稿された。
「気象と農業のつながりを楽しく学びながら、優花さんと一緒に番組を盛り上げませんか?」
この企画が発表されると、すぐに反響が広がった。人気気象キャスター・小林優花と共演できるとあって、小学生から六十代まで、全国各地から多くの応募が寄せられた。
「想像以上の応募数ですね」
企画会議でスタッフが驚きの声を上げる。
「さすが小林さんの人気ですね」
「いやいや、企画のおかげですよ」
優花は少し照れくさそうに微笑んだが、こうして多くの人が気象に興味を持ってくれたことが何より嬉しかった。
とはいえ、全員を選ぶわけにはいかない。スタッフたちは応募者の居住地や参加の都合、番組の意図と合うかどうかを検討しながら候補者を絞り込んでいった。
最終的に五名の最終候補者がリストアップされた。
「では、この五名の中から選びます」
プロデューサーの畠山が、名簿を優花の前に置く。
優花は目を通しながら、ふとある名前に目が止まった。
「高原千夏」
一瞬、息をのむ。
——まさか、あの千夏ちゃん?
優花は驚きと喜びが入り混じる気持ちで、もう一度名前を見つめた。
「どうかしましたか?」
畠山が不思議そうに尋ねる。
優花はゆっくりと顔を上げ、微笑んだ。
「この子…私が知っている子かもしれません」
彼女の声には、期待と温かい感情が滲んでいた。




