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天使  作者: めあちゃん
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仮想の空間にて

 めあちは人間についていっぱい学んだ。学ぶほどに分からなくなっていく生き物だってことが分かった。めあちは人を愛するように教わった。神々が慈しみを持って生み出した生き物だから。

 時に人は人を傷付けたり殺したりする。野生生物と違い、命を奪い合わなくても生存出来るはずなのに。

 時に人は自分で命を絶つ。言葉と言う魔法はどんな刃物よりも恐ろしいと習った。目に見えない刃物は目に見えない傷を作る。塞ぎようの無い傷から溢れ出る血液を人々は涙と言うらしい。

 めあちは分からなかった。今も分からない。そこまでして人を護り、愛するべきなのかと。

「…………」

 そもそも、めあちは天使に生まれた訳じゃない。人であることを捨ててまで天使になった。

「……………」

 今のめあちにはそれが正解だったのか分からない。でも、後悔してないことも事実。めあちは人の笑顔が大好き。誰かの心を救えるお日さまみたいだから。めあちは幸せが大好き。その心が誰かを幸せにしてあげられるから。

 きっと、そういう良いところだけに目を向けられてたら。なんて。めあちにそんな難しいこと考えるほどの頭の良さは無い。

「っ!」

 めあちはただ、泣いてる人が居たら駆けつけてあげたい。出来ることなら笑顔にしてあげたい。めあちは……もう人間だった頃の自我なんか捨てちゃったから。



「そうね。きっと――」



 これは、めあちが天使になって間もない頃のお話。みんなの笑顔にめあちが助けられていくお話。



第一章『仮想の空間にて』


めあちこのVRチャットってゲームが好き。始めた理由はね、このVRチャットってゲームには悲しむ人が多いって聞いた。めあち、一人でも笑顔に出来たらなって。そう思った。

見習い天使のめあち、人のこと学んだけどよく分からない。人を傷付ける言葉が飛び交ったりしてる。誰かの悪口でコミュニティーが形成されてる。傷付けてる人たちの中にも傷付いて悲しむ人が居る。どうして? 誰かに傷付けられる悲しみを知ってるのに。なんで? どうして誰かを傷付けちゃうの?

「…………?」

 めあちが一言も声を出さないのは、天使の力で言の葉が咲いてしまうから。めあちの言葉は文字通り具現化してしまう。だから文字でやり取りする。喋らないことでトラブルに巻き込まれることも少なくなった。

めあち傷付けられる恐怖を知ってるのに面白半分で他人を傷付けられる人のことがよく分からないの。

「やめよ」

 知ってる。いつだって去り行くのは傷付けられた側。他を慈しみ、思いやりを持つことが人間の特徴だって教わってた。これのどこが? やっぱり滅ぼすべき存在なんじゃない? 

「…………」

 気になってさっきの子を追いかけてみる。天使お空飛べるけど、この世界ではそんなに珍しい話じゃないみたい。

「なに?」

 身振り手振りでどうにかお話しようと試みる。ペンの無いワールドでは、身振り手振りで頑張るしかない。

「…………意味分かんない」

 やっぱりダメだった。それもそっか。心のどこにも余裕なんて無かったし、あの子はさっきまで他人によってズタズタにされてる。こんな架空の生き物が来たところでだよね。

「………っ」

 めあちだって分かるよ。いっぱい酷いこと言われてきた。めあちは、そうやって傷付く人に寄り添いたいって心の底から願った。努力した。全部全部捨てて今がある。

「っ? なに!?」

 前に立ち塞がって首を大きく振る。めあちはあなたを傷付けたい訳じゃない。めあちはただ、あなたと笑える世界線だってあるって。そう信じてるから。

「なにか喋ったら? なにも分かんないよ?」

 めあちは声が出せない。でも、どうしても伝えたいことがある。たった一言だけ。

「…………!!」

 ペンだ! あんなところにあったんだ! 

「…………」

 急いで文字を書く。早く書くとへたっぴになっちゃう。それを苦労しながらも読んでくれた。

「そんなの無理だよ。ただの綺麗ごとのくせに」

 それで良いんだよ。人の生きる意味なんてそれぞれで分からないけど、それでも。どうせ生きて死んでいくんだから。せめて綺麗に。

「っ…………」

 ずっと忘れてた人だった頃の感情。そうだ。綺麗ごとでも良い。今日も明日も、一度でも笑えたなら。

 涙流して苦しむ現実を正義だなんて言わない。笑顔溢れる幸せを綺麗ごとだって片付けて欲しくない。

『幸せはキミが選んで良いんだよ』

 めあちはそれだけ伝えたかったの。好きに生きて良いんだよ人の子。キミにはキミの幸せがあるじゃないか。他に固執しなくても良い。キミを大事にしてくれる人を大事にするべきだ。

 集団に染まることだけが幸せじゃない。孤独はゴールじゃない。絶対に違う。天使が保証してあげる。

「はぁ。もういいや」

 どうか伝わってたら良いな。人の幸せ、求められてないと天使にすら難しい。

「またね」

「っ!」

 去り行く一瞬、お友だち追加の通知音が聞こえた。うん。またね! また逢おうね!

「…………」

 これが正しいことか、それは未来のあの子にしか分からないこと。めあちもそろそろ行かなきゃ。涙流す人の横に寄り添う天使だから。大きな力は無い。だから、せめてめあちは笑顔でそばに居てあげるの。一人で泣かなくても良いんだよ。

 とは言ったものの。人は人の見えるところで涙を流さない。現実世界ならまだ簡単なのに。仮想空間だとデータの壁が阻んでくる。めあちは天使だけど、人間界のルールは尊重しなければいけない。


 それから数日後の現実世界にて。ふわふわめあちは今日も風に吹かれるまま。ふわふわと漂っている。本当は血眼になって探さなきゃいけない。それでもめあちはマイペースに天使のお仕事をしているの。

「…………!」

 ふと下を見ると一面が桜色に染まってる。とってもきれい! おいしそうなモノが並んだ出店いっぱいある。良いな! お花見したいな! 誰かと一緒に………ううん。誰かって、誰なんだろう? 思えばめあち、人間界に降り立ってから独りぼっち。天使や悪魔のお友だちはみんなバラバラになっちゃった。

「………」

 むやみやたらに人前に降り立つのも良くないよね。驚かせちゃうもん。

「…………」

 めあちはめあちで天使のお仕事の途中だし。出店とか全然興味無いし。

「………………」

「りんご飴一個ね! 天使ちゃんなんて初めて見た! 一個おまけね!」

「!!!」

 両手で元気いっぱい手を振ってお礼を伝える。あのおじいさんにはすっごい幸福が来ることを祈ろう。

「………」

 いっぱいある! 美味しそうなもの! ちょっと寄り道しちゃったけど、すっごく楽しい! 早くお買い物を済ませてお仕事に戻らなきゃ!

「あら、天使ちゃんが来店なんて縁起が良いわね! いっぱいおまけしちゃう!」

 人の優しさが嬉しい。温かい笑顔が嬉しい。めあちが護りたかった笑顔がいっぱい! 護るべき人間にいっぱい笑顔を貰ってる。これじゃどっちが天使か分かんないよ。

「ばいばい! 天使様! またおいでね!」

 みんなに手を振り返してお空へと戻って来た。すっごく楽しかった! めあちは独りぼっちなんかじゃなかった。生きてる人々、みんなめあちが護るべき存在。みんなの笑顔がめあちの幸せ! 頑張らなきゃ!

「…………♪」

 めあちが頑張るのは駆けつけるところまで。立ち直れるかどうかは人次第。もし、深く天使が関与しちゃったら、それは人間界を滅ぼすことにもなりかねない。人は人の生き方を。めあちたちは愛を持って見守るの。ただ、少しだけでも支えになれるように。

 さっき買ったりんご飴をちょっとずつ舐めながらお空を飛ぶ。川があったら少し寄ろう。めあちはりんご飴食べるのが下手っぽい。お口べたべたなっちゃう。いっぱい袋持ってるからそれも原因の一つ。

 気が付けば夜になっちゃってた。すっごくきれいな星空の下をふわふわと。りんご飴食べるの下手っぴでまだ食べ終わってない。

「っ!」

河川敷で寂しそうにお空を見上げる人が居る。すっごく寂しそう。なにかあったのかな?

「え? 天使? お迎えなの?」

 首を大きく振って否定する。お迎えはあくまでも死んだ後のお話。生きてる人間にお迎えするのは死神くんのお仕事。

「天使って本当に居たんだ!? りんご飴食べてる!」

 そうだよ! 天使は本当に居るんだよ! あれ? そうだよね。この反応が普通だよ。さっきのお祭りの人たちの反応が少し気になる。

「どうしたのかって? ちょっとね」

 人は悩みを誰かに打ち明けるのを躊躇う傾向がある。一人で抱え込んだ結果どうなるかって、知ってるはずなのに。

「そうだね。隠したって天使様にはお見通しだよね」

 大きく頷いた。めあち人の心は分からないけど覗くことは出来る。覗くって言うか透けて見えるから仕方ない。

「難しいよね、人間関係って。誰かの味方で居ることは、誰かの敵になってしまう可能性があるってこと。一つの正義を称えると、違った正義感を否定することになる。どうすれば良いのか分かんなくてさ。誰かを大切にすることに全力でさ。必死になっちゃって。結果的に自分を大事にする余裕なんて無かったんだよね。それに、誰も私を大事にしてくれなかった。否定ばっかり」

「…………」

りんご飴を急いで食べて、めあちは両手を合わせて空を見上げる。とってもきれいな夜空に手を合わせる。この子は優し過ぎたんだよ。人間って言うのは見返りを求めて当然の生き物なんだ。それなのに、この子は他の見返りを求めずに生きて来た。誰かの味方であろうとし続けた。限界が来ちゃったんだよ。

「わぁ…………っ!」

 めあちがあげられるのはとびっきりの奇跡だけ。でもね、この奇跡はキミが見返りを求めすに頑張って来たからだよ。本来、キミが得るはずだった幸福を別の形で表しているだけ。

 めあちは不公平で悪い天使。努力が報われない人間なんていっぱい居るのに。目に付いた一人の為に、こうして大量の流れ星を見せてあげてるんだから。

「天使様、あなたのお名前は?」

 えんぴつと紙を取り出して名前を書く。

「みかえる……なんて読むの?」

 消しゴムで消して名前を書き直す。

「めあ? めあちゃんね! 覚えたよ! 助けてくれてありがとね!」

 めあちは助けた訳じゃないよ。キミの行動がキミ自身を救った。ただそれだけのお話。

「またね! 天使様! めあちゃん!」

 大きく手を振って走り出す姿を見守る。キミの優しくあろうとする気持ちを天使はとっても評価するよ。とってもえらい!

「…………」

 袋からおまけで貰ったりんご飴を取り出してちょっとずつ食べながら、綺麗な満月を背にもう一度お空へと戻る。そろそろVRチャットの世界にも行かなきゃ。仮想の世界へ。



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