1.扉
「宇宙デブリ反応無しっと。自動操縦オン」
コンソールが淡く緑色に輝いたのを見届けて、息を吐いた。
最近の宇宙船はすごい。重力や酸素の生成はもちろん、自動操縦までやってくれる。これでもまだ宇宙船を保有し航行するのに免許が必要なのだから、宇宙とは恐ろしい場所だ。暇つぶしに「川原正樹」と彫られたドッグタグを弄びつつ目の前の銀河を眺めていたとき、親指ほどの大きさの異質な物を捉えた。
「……扉?」
そう。再確認したため奇妙な間が空いてしまったが、真四角の扉が漂っていた。西暦二千年代に一般的だったドアノブと、同じく平凡なデザインの扉が恐ろしい速さでこちらへ近づいてくる。
鳴り響く警報に急かされるようにコンソールを操作する。視界が激しく明滅した。防御シールドの展開が間に合ったのだろう。激突は免れたらしい。
「エゼット、起きろ」
後方の居住区へと声をかけるが返事はない。普段なら名前を呼ぶまでもなく起きて――目の前のガラス越しに生首もとい本人が宇宙空間にいた。
『こちらエゼット。扉を回収した』
通信機から弾んだ声がする。本人的には掘り出し物のようだ。気を取り直して船体チェックに勤しむ。後ろでドアが何回か開く音がした。帰ってきたか。
「やぁ正樹。こいつはなかなかの拾い物だぞ」
「百年前の日本で普及していたものだろう? そんなに貴重かな」
「宇宙空間を漂っていたんだ、レアに決まってる」
宇宙を航行している船の中で、嬉しそうに扉を振り回したり眺めたりしている頭部型異星人。なんとも奇妙なシチュエーションだ。
「怪我しないようにな」
確かにどこをどう間違ったら地上で使うことを想定されている物が宇宙空間にあるのか不思議だ。しかし扉自体は少しも傷ついていないので、見た目だけ似せている現代物かもしれない。好事家はいつの世にもいるものだ。
また俺の部屋に置かれるんだろうな。ほんの少しため息をついた俺を船体チェックの終了音だけが慰めてくれた。




