いやでは、ない。
「私にそんな風に言われても、陸、嫌がるだろうって分かってたのに……ごめん」
寂しそうな、悲しそうな顔をして、ゆずが詫びる。その顔にはもう、諦めという感情が色濃く出ていた。
違うんだ、確かにびっくりしたけど。今も返答に困ってるけど、嫌じゃないんだ。
でもそれって、どういえば伝わるんだ。
必死で言葉を探したのに、俺ときたら気の利いた言葉のひとつも浮かびやしない。
「い、嫌では、ない」
結局口から出せたのはそれだけで、俺は自分のふがいなさを心底呪った。俺の言葉を聞いたゆずが、マジマジと見つめてくる視線が痛い。
すまん、今の俺にはこれが限界だ……!
だってまだ、そんな意味で好きか嫌いかなんか考えた事なかったんだよ、ぶっちゃけこちとらプチパニックなんだよ。
ゆずが「出てく」とか言わなかったら、錬金釜の前でなんか無心に調合しながら気持ちを落ち着けたいくらいだよ!
そんな俺の内心を知ってか知らずか、ゆずはなおもマジマジと見つめてくる。
顔は可愛いんだから、もう勘弁してください。
「え、陸、嫌じゃないの?」
心底驚いたという顔で問い返してくるけど、嫌なわけがないじゃないか。
すぐに手が出る粗暴なヤツだが嫌なヤツじゃない。嫌いならそもそもガキの頃から一緒には居ないだろうに。
それに今は、すっかり険が取れちゃってまあ、いつもニコニコ可愛いし、女子力高い上に強いというミラクルスペックじゃねえかよ。
「嫌なわけねーだろ。そりゃ、驚いたけど」
「よ、良かったぁ……!」
一気に緊張が解けたらしく、ゆずはその場にヘナヘナと座り込んだ。
「勢いで言っちゃったから……もう、ダメだと思った」
目尻の涙を拭きながら、ちょっと恥ずかしそうに笑う姿は完全なる乙女だ。
「気持ち悪いって、口もきいてくれなくなるかもって思ったら、怖くて……」
「前にも言ったじゃねえかよ。それくらいで気持ち悪いとか思わねえし、嫌いにもならねえ」
「陸……!」
感極まったらしいゆずの目からは、またもや莫大な量の涙が零れおちる。もはや洪水レベルだ。
前にどんどん女らしくなる自分に戸惑って、自分でもキモい、俺に嫌われるんじゃないかって悩んでたのとちょうどおんなじ。不安で不安で仕方ないって全身から滲み出てる。
俺は仕方なく、しゃがんでゆずの頭をポンポンと軽く撫でてやった。
「う……陸、ありがとう……!」
ボロッボロに泣いてるくせに……ちくしょう、可愛い。
本当に不本意だがそう思うのは事実だ。だから俺は、むず痒くなるのを必死でこらえ、自分の中のありったけの精神力を投じて、一回だけ言う事にした。




