えっと、えっと、マジなのか?
「ホント、バカみたい」
「え、なにが」
「ほんっと、むかつく! こっちが気を遣ってずっと胸に秘めてるのに!」
「え、いや、秘めなくて良くね? はっ……まさか女の子が……」
「違うわ!」
アブネっ!
キレのいい右フックを、俺はすんでのところで避けた。
どうだ! 今のは気を付けてたから避けられたぞ!
「私が好きなのは、陸なの!」
全力で、ゆずが叫んだ。
「……え?」
かなり興奮しているらしいゆずは頬もすっかり上気して、大きな目には今にも零れ落ちんばかりに涙を湛えている。
あっという間に詰め寄られ、壁際まで追い詰められてしまった。悲しいかな、俺は錬金術に明け暮れていたもんだから、冒険専門でフィールドで鍛えまくっているゆずにはかなう要素がないんだよ。
悔しそうに唇をフルフルと震わせ、俺を睨みつけてくるゆずの目から、ついに大粒の涙が零れ落ちた。
可愛い……。
じゃねーよ! 冷静になれ、俺。よく考えてみろ、この体勢。一言でも言葉を選び間違えたら一発KO間違いなしじゃねえか。慎重に。慎重にだ。
そう自分を叱咤して若干冷静になった俺は、とんでもない事を思い出した。
さっき何かゆずのヤツ、俺のこと「好き」とか言わなかった?
いやいや、まさか。
あり得ないだろ。
「ええと、ごめんゆず、さっきのよく聞こえなかったんだけど」
言うが早いか、ゆずの平手が右頬にクリーンヒット。俺の体が勢いよく吹っ飛んだ。
「最低! ほんと最低!」
あまりの痛さに床でひとしきり悶絶した俺は、抗議しようとゆずを睨みつけ……戦意を失った。
「嫌なら嫌って、言えばいいじゃない!」
見たこともないくらい、大泣きしてる。
え……ちょっとこれ、どういうこと?
「わ、私だって。陸が困るって、分かってた」
立ち尽くしたまま、ぼろぼろに零れる涙を拭きもしないで、スカートの端を握りしめてるゆず。声を殺して泣くゆずを見ていると、こっちまで苦しくなってくる。
ああやって服の裾握ってる時って、助けて欲しいのに強がっちまう、あいつの子供の時からの癖なんだ。
「……だから、言わなかった、のに」
ゆずがギュッと目を閉じた拍子に、涙が幾粒も音を立てて床に落ちた。手の甲でグイッと乱暴に涙を拭いたゆずが、決意したように顔を上げる。
「出てく」
「ちょ……ちょっと待てって!」
俺は、ダッシュで扉の前を死守した。いや、ゆずが本気出せば平手一発で俺なんかぶっ飛ばせる事は、ついさっき証明されたわけだが。
それでもここは引けないだろう。
「ええと、ゆず、俺のこと好きなの?」
「さっ、さっき言ったじゃん!」
顔に火が付いたみたいに真っ赤になるゆずを見て、俺はやっと、ゆずが本気で俺を好きなんだと理解した。




