複雑な心境だ
目の前に並べられた皿には、美味しそうなハンバーグがのったメインディッシュ。
付け合わせはポテトサラダにニンジンのグラッセ、ちょっぴりだけどナポリタンも添えてあるという、正に王道。
このハンバーグの上に無造作に置かれて溶けていくバターに、地味に郷愁を感じる。
俺ん家のハンバーグ、こんなハンバーグだったなぁ……。
ガキの頃からちょいちょいウチに遊びに来てたゆずは、もちろんウチで飯を食うことも一度や二度じゃなかった訳で。どうやらゆずは、記憶の中のそれを忠実に再現したようだった。
ちくしょう、ちょっと思い出してしんみりしちゃったじゃないか。
ランチョンマットの上にはお洒落な銀製のディナーセット。
白米に、コーンスープに、たっぷりレタスにハム&チーズ、プチトマトで彩りを添えたベジタブルサラダまで置かれてすっかり準備万端。目の前の席についたゆずは自信たっぷりな笑みを見せている。
これで激マズだったりしたらむしろ笑えるが、出てきたものの見ためのあまりの出来ばえに、口に入れる前から、もはやそんな事はあり得ない気になってしまった。
俺の負けだ……。
よく分からない敗北感を感じながら、ハンバーグを口に入れた。
美味い。
普通に、凄く美味い。
俺は別に料理評論家じゃないから、隠し味がどうのとか詳しい事はよく分からない。
ただ、デミグラスソースは俺好みのちょっと甘めな仕上がりだったし、ナイフを入れれば美味しさの象徴である肉汁が溢れ出す。
ほんわかした湯気をあげるハンバーグは、口に含むとホロホロとほぐれて、ジューシーな肉の旨みがじゅわっと広がった。
「美味い……」
「でしょ?」
完敗だ。
母さん、ごめん。
見ためは母さんのハンバーグにそっくりだけど、マジでこっちが美味いわ。肉汁すげぇ。
ゆずがドヤ顔すんのも許せるくらい美味い。自分でもいそいそとハンバーグを口に運んでは「美味しー!」と自画自賛している。うんうん、美味いよな。
「それにしてもすげぇな。お前なんでこんな急に料理うまくなったんだ?」
「地道な努力の賜物ってヤツ」
「いやいや、作った事ねぇだろうに」
「失礼だな、陸がフィールドに採取に行ってる時とかにちゃんと練習してたんだってば」
だからか! 意外に錬金レベル上がらねぇと思ったら、単にサボってたんじゃなく、女子力アップしてやがった。
この日俺は、やっと理解した。
というか、やっと認めた。
俺の知ってる譲なんか、もういないんだって事を。
デカくて、乱暴で、ケンカっぱやくて、コミュ力低くて、不器用で、努力も嫌いな、手のかかる弟みたいだった譲はもういない。
日々急激に進化しているのだ。
今や可愛くて人気者で、頑張り屋さんで女の子っぽい『ゆず』として、進化の一途を辿っている。
俺は……俺は、なんだか急に寂しくなった。




