ゆずの手料理
うわぁ、上機嫌で鼻歌とか歌ってるよ。
昔だったら包丁なんか持たせた日にゃカチコミか? 事件か? ってな不穏さを醸し出しただろうに、今となっちゃ、ぶきっちょに結ばれたエプロンの蝶々結びすら愛らしい。
恐ろしい、さすが魅力もうちょいでマックス。
「なあゆず、お前が作ったって言えば食ってくれるヤツがわんさか居ると思うんだが」
「うん、そうだね」
「そいつらに食って貰うって選択肢はないのか」
「ないよね」
振り返りさえせずに答えるゆず。なぜだ。
「まずは陸に食べて欲しいんだって。その失礼な態度を土下座で謝りたくなるくらい美味しい筈だから大丈夫!」
その根拠のない自信はなんなんだよ。
これまで一緒にいてキッチンに立ったことすらねぇじゃん?
ついでに言うと冒険者レベルは30超えのくせに、錬金レベルは5じゃん?
大丈夫要素が見当たらないじゃん……!
そうか、だからこその俺か。
確かにどんなダークマターができるか分からないのに、いきなり自分を信じきっているヤツに食わせるのは気が引けるだろう。
ゆずの事を傷つけまいと、死ぬほど不味かったとしても「美味い」とか言ってしまうかも知れない。
男とはそういう、優しくも悲しい生きものだからな。
その点俺ならハッキリと言ってやれる。
気をつかわずに不味いものは不味いと、ハッキリと言えるのは多分俺だけだ。
だからゆずも、まずは俺に食わせて率直な意見をもらいたいんだろう。よし、任せとけ!
ようやく食えるだけの心を固めた俺は、ゆずの手さばきに目を向ける余裕が生じたようだ。なんだか違和感を感じてじっと見てみる。
……あれ? なんか上手い?
ゆずが。あのピーラーさえマトモに使えなかったゆずが……トン、トン、トン、トン、と実に安定したリズムで千切りなんかしちゃっている。細さだって申し分ない。
「ゆず、お前……包丁使えるようになったんだな」
「いつの話してるの。器用さも結構上がったんだから」
なんなのこの受け答え。すっかり穏やかになっちゃって、今となっちゃ滅多に腹パンもくらわない。
嬉しいような、寂しいような……いや、寂しくない! あれは痛かった! しっかりしろ、目を覚ませ俺!
アホな事を考えている内に、目の前に皿がコトン、と置かれた。
次々に置かれる皿には、ダークマターでもなく焼け焦げているわけでもない……
いたって普通の。
ふんわりあったかそうな湯気がゆらめく。
ほんのりスパイスが香る。
色目も鮮やかな。
ちゃんとした料理がのせられていた。
……どうしよう母さん、うまそうだ。




