世の中そんなに甘くない
俺は唖然とした。
ゲームでは、初期は20個までしか採取出来ない。主人公が二人揃っているわけだから、あわよくば40個までなら採取出来るんじゃないかと企んでいた俺の予想を遥かに上回る驚異の収穫量を記録出来てしまったわけだ。
ゲームの設定にしばられない大胆さとか柔軟さって、大事なんだなぁ……と再認識。
ほんと、俺のゲームの知識と譲の大胆さが上手い事コラボ出来れば、結構いい感じに錬金ライフ送れるんじゃねーかな。
そんなことを考えつつ家に帰って、俺は早々に落胆した。何しろこの家、錬金に必要なもの以外ほとんど何にも無い。
ベッドと机、錬金用の大釜、沢山の採取物を入れておく収納ボックスや採取用のバッグはちゃんとあるのに、生活用品がヤバかったりする。
幅50センチほどの薄っぺらいクローゼットに、替えの服が一式だけ。
キッチンも無ければ風呂もない。かろうじて火をくべる事が出来る暖炉っぽいものと、確実に水洗じゃないトイレがあるのみだ。
そりゃこれから開拓しようっていう村だからな、水道なくって井戸水頼りなのは分かるさ。でも、包丁一本無いなんて……泣ける。
「しょうがねぇ、ギルドに行って採取したもの換金するぞ」
「へ? 今からか? もう夕方だぞ」
「包丁も無けりゃタオルも無ぇ」
風呂は無理でも井戸水で体くらい拭きたい。なんせ結構歩いて戦って、汗だくだし。
「明日で良くね? 晩メシはさっきのウサギでも焼けば?」
さすが譲。何の躊躇もなくさっき獲ったウサギ肉を丸焼きした上、かぶりつくつもりらしい。でも俺は悪いが文明人なんだよ!
それに譲だって見た目だけでもせっかく儚げ美少女なんだ。ウサギの丸焼きにむしゃぶりつく姿は出来れば遠慮したい。
「食堂……はまだ行けないか。せめて最低限の料理ができるナイフと鍋くらいは欲しい」
「また外に出るのかよ、面倒くせえ」
本気で面倒臭いのかブチブチと渋る譲を何とか説得し、採取した物を持って再びギルドへ向かう。包丁がわりのナイフ一本買うのにだって金が要る。
ゲーム序盤の採取依頼なら店で普通に売るよりはよっぽど高値になった筈だしな。
「普通のきのこ5個、ヨモギ草6個、パキの枝3個、小さな木の実3個、スイートベリー4個、ウサギの皮2個、ウルフの皮2個ね。確かに受け取ったわ、ありがとう」
ギルドの受付嬢、波打つ金髪が美しい癒し系美女のマリサさんから、報酬の2180Gを受け取った時だった。
「うわぁ!?」
「あら、あなた達が今日到着したっていう新米錬金術師? 初日からこんなに依頼をこなすだなんて、なかなか有望じゃない」
この妖艶な声は……。