安定の失礼さだわ
大きな目に涙を溜めて、一生懸命に首をふる。まったく、譲の癖にどのツラ下げて……いや、今は可愛いが。
ああ、でもそういえば。
「お前、ゼリーとか嫌いだったっけ?」
「うぉぉおぉ! 言うなぁ!!」
ゼリーという言葉を聞くのさえ嫌なのか。大の男が嘆かわしい。現実に戻ったら是非ともおもちゃのスライムを投げつけてやりたい。
「仕方ない、下がってろ」
おもむろに杖を構えるが、はたと気づく。
……詠唱とか知らねぇけど、魔法ってどうしたら使えるの?
ちょっぴり迷った瞬間が隙となったのか、ドロドロのスライム君が、あろうことか飛びかかってきた。なんて好戦的なスライムなんだ。
「うわぁぁぁぁ! 飛んだぁ!! ドロドロなのに飛んだぁぁぁぁ!!」
譲の叫び声がこだまする中、俺は咄嗟に「ファイア!」と叫び、それと同時に難なく炎は杖から飛び出し……俺は、初めての魔法をいとも簡単に使う事が出来た。
ちょっとだけ攻撃をくらったりもしたが、他の2体もファイアで仕留め、初のバトルは無事に終了。
終わった瞬間、俺の口からも僅かにため息が漏れる。なんだかんだ言っても、慣れないバトルに緊張してしまっていたんだろう。……良かった、勝てて。
振り返れば、譲は大樹に抱きついたまま座り込んでしまっていた。
あらら、ほっぺたに涙の痕が幾筋も見えている。可哀想に、軽くトラウマになったりしてな。
助け起こしてやれば、何とその手が小刻みに震えていた。細くて白い華奢な手が俺の手に必死に縋っているのを見て、思わずその肩をポンポンと叩く。これで少しは安心してくれるといいんだが。
そうかぁ、譲のヤツ本当にダメなんだなぁ、ドロドロ、グニャグニャしたの。
「ごめん……」
その時、譲の口から、思いもかけない言葉が聞こえた。
「は?」
「だから、ごめん……」
何このしおらしい態度!
ちょっと頬を赤らめて、うつむく仕草が無駄に可愛い。待て待て待て待て、まさか早くも心まで女の子らしくなってきたとでも言うのか!?
なんだそれ怖い! 元を知ってるだけに気持ち悪い!
俺が驚愕で声を出せずにいる中で、譲はうつむいたまま言葉を綴る。
「俺、全然戦えなかった……。まさか陸に守られる日が来るとは」
……オロオロして損した。安定の失礼さだわ。ムカつくが仕返しの腹パンをする気にもなれない。
可愛さは時に卑怯だ。
それからは特に大きな問題もなく、俺達は順調に採取とバトルをこなしていった。
ただし、スライム系以外は譲が華奢な手足を華麗に振り回して動きを止めたところに俺も参戦するという、男子としてやや切ない戦法だったりする。