6.ルビィキティ
────鉱山・B8F
「なかなか見つからぬのう……」
「そうだな……」
洞窟の天井を見上げながらクロセルはため息を吐く。
ルビィキティを探し回ってすでに2つの階を歩き回っているのだ。
当然ながら疲れてもくるだろう。
「う〜……。何故にこうも出会わぬのじゃぁ……」
「まぁ、出会えたら幸運だと言えるモンスターだ。そう簡単には会えないだろ」
悔しそうに足を鳴らすクロセルに、ユウヤもやや疲れた表情で答える。
──ミャオウ……
不意に、通路の奥の闇の中から猫の鳴き声が2人の耳に届いた。
鳴き声に2人は顔を見合わせ、闇の中へと目を凝らす。
「もしや……」
「ああ」
ジッ、と闇の中を見つめながら2人は短く言葉を交わす。
やがて、通路の奥の闇の中からフワフワとした毛皮に赤色の瞳を持った可愛らしい猫が尾を揺らしながら現れた。
「ルビィキティじゃ──むぐっ?!」
現れた猫──ルビィキティにクロセルは嬉しそうに声をあげる。
そんなクロセルの口をユウヤは慌てて押さえ込んだ。
いきなり口を塞がれ、クロセルはユウヤに向けて抗議の目を向けた。
「ぷはっ……。何をするのじゃ……」
「最初に言っただろうが、ルビィキティはすぐに逃げてしまう。気づかれたら終わりなんだよ」
口を塞ぐ手をどかし、クロセルは小声でユウヤに尋ねる。
それに対してユウヤはルビィキティから視線を逸らさずに答えた。
幸いにもルビィキティは気づかなかったようで逃げることはなかった。
しかしここは音が反響する通路。
いつルビィキティが2人に気がつくのかも時間の問題である。
「む……すまぬ」
「まぁ、良いさ。幸いにしてルビィキティに気づかれてはいない。今からでも狙えばいけるはずだ」
そう言いながらユウヤは通路の脇にあった窪みに隠れる。
クロセルもユウヤと同じように窪みに隠れた。
「どう狙うのじゃ?」
「アイテム。『魔針』×2。これで狙う」
ユウヤがウィンドウを操作して取り出したのは2本の針。
針と言っても縫い物などに使うような針ではない。
忍者が使用するような針──千本である。
そしてユウヤは魔針をナイフ投げでもするかのように構えた。
「…………」
「…………」
固唾を飲みながらユウヤは息を潜め、機を狙う。
そんなユウヤの姿にクロセルも喋ることなく気配を殺した。
2人の姿に気づくことなくルビィキティは通路を歩く。
「疾!」
──ヒュカッ!
短い掛け声と共にユウヤは魔針を放つ。
ユウヤの手から放たれた魔針はぶれることなく真っ直ぐに飛んでいき、ルビィキティの横の床に突き刺さった。
「にゃっ?!」
いきなり突き刺さった寝針に驚き、ルビィキティは針が刺さったのとは反対方向に飛び退き魔針を凝視する。
直後……
──トンッ……ドサリ……
ルビィキティの胴体に、もう1本の魔針が突き刺さり、その小さな身体が横に倒れた。
「1本目を外したのは何故じゃ?」
徐々に光の粒子となって消えていくルビィキティを見ながらクロセルはユウヤに尋ねる。
クロセルはユウヤがなぜ1本目でルビィキティを狙わなかったのかが気になるらしい。
確かに真っ直ぐに魔針はルビィキティの真横に突き刺さった。
そこまでの命中精度があるのならば最初の1本で狙えたはずだろう。
「わざと外して驚かし、隙を作らせたんだ」
クロセルの問いにユウヤは突き刺さった魔針を回収しながら答えた。
ユウヤの答えにクロセルは納得したようで頷く。
──ナアウ……
直後、再び猫の鳴き声が2人の耳に届いた。
先程とは違い、どこか遠くな様で場所の確認は難しい。
「聞こえたな……」
「よし、ここは二手に別れるのじゃ!」
「あ?! 待て!」
そう言うと同時に走り出してしまったクロセルにユウヤは待ったの声をかける。
しかしすでに走り出してしまったクロセルの耳にユウヤの声は届かず、クロセルは走り去ってしまった。
「ったく……。ここには鉱物系モンスターが多いってのに」
通路の奥に消えていき見えなくなってしまったクロセルに対してユウヤは呟いた。
しかしその表情に心配の色はなく。
どちらかと言えばやれやれと言った表情だ。
だが、それもそのはず。
クロセルの強さはユウヤ自身が戦って経験済みなので、そこまで不安はないのだ。
「……まぁ、迷子にはなるかもしれんが」
思い出したように付けたし、ユウヤも歩き出す。
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しばらくユウヤが通路を歩いているとT字路に突き当たった。
腕を組み、ユウヤは左右の通路を見渡す。
「どちらに行くか……うん?」
ユウヤが考えていると、不意に左の通路から何やら音が聞こえてきた。
──キィンッ、キキキンッ!
それは金属同士がぶつかり合うような音。
当然ながらクロセルは武器を扱ってはいないので彼女ではない。
では誰なのか?
ユウヤは少しばかり気になったようで、左の通路を歩いていった。
「この先の部屋からみたいだな」
──キャキィンッ、カカカンッ!
徐々に音に近づいていくことを感じながらユウヤは歩く。
音の大きさからしてもユウヤの考えは間違っていないはずだ。
そして、通路を抜けて、ユウヤは部屋に入る。
「なっ?!」
部屋に入り、ユウヤは驚く。
何故なら1人の冒険者が5体ものシルバリオンランサーと戦っていたからだ。
しかも、冒険者が所持しているのは日本刀。
どう考えても〝魔法〟を扱うような職業ではない。
慌ててユウヤは加勢しようとし、おかしな点に気づく。
「どう言うことだ……?」
シルバリオンランサーの手に握られている中程から融けた銀槍を見つめながらユウヤは呟くのだった。
・魔針
忍者が使用するような普通の物より長大な針。
〝Vivid World〟での投擲専用武器の1つ。




