8.ボス戦
──ガァンッガァンッガァンッ!
ユウヤとクロセルの拳が、脚が、尻尾と握られた刀がぶつかり合う。
その度に2人は楽しそうに笑みを浮かべる。
そして周囲に音が響き渡る度にルリやリル、サキュバスたちは一ヵ所に身を寄せて身体を震わせていた。
「は、はは。はははは! 中々にやりおるのう! このように楽しいのは久方ぶりじゃ!」
「そいつは重畳!」
笑いながらクロセルはユウヤに向けて蹴りを放つ。
それをユウヤは左手で防ぎ、素早くクロセルの足を掴んだ。
足を掴まれたクロセルは外すことが難解だとすぐに理解し、その状態から反対の足を使って再び蹴りを放つ。
再び蹴りが飛んでくることに気づいたユウヤは、掴んでいる足を振り、思いきりダンジョンの天井へと投げつけた。
投げられたクロセルは猫のように身体を動かし、天井に足をつけて着地する。
そして、間髪入れずにユウヤへ向かって飛びかかっていった。
「喰らえ!」
「ぐぁぁあああ?!」
飛びかかった勢いを乗せたクロセルの蹴りを受け、ユウヤは後方に吹き飛ばされる。
それでも、ユウヤはすぐに体勢を立て直して構え直す。
「久々に使う。『天狼刈咒脚』!」
そう言ってユウヤは構えを別のものに変えていく。
身体の前面で構えていた両腕をダランと垂らし、前に出していた右足を下げて左足を前に。
さらには姿勢も低く前傾姿勢になる。
そして黒色の湯気のようなものが立ち上がり、ユウヤの足へと絡み付いていった。
「ほう、如何様な技を使うのやら」
絡み付いていく湯気のようなものを見ながらクロセルは楽しそうに微笑む。
その間も湯気のようなものは形を変えていく。
やがて湯気のようなものが晴れ、ユウヤの足が露になる。
それは、一言で言うならば獣の足。
なぜなら露になったユウヤの足が白銀色の毛皮に包まれていたからだ。
さらに、爪先からは大きめの爪が生えており、右足の踵からは巨大な刃が生えている。
「ふむ、身体変化系の技か。おもしろい!」
「おもしろがっていられるのも──」
──シュンッ!
ユウヤの両足の変化をクロセルはおもしろそうに見ながら笑う。
直後、ユウヤの言葉が途切れるのと同時にユウヤの姿が音も静かにかき消える。
「──今のうちだ」
「な、ぐぅぅううう!」
──ズドンッ!
次の瞬間、いつの間にか現れたユウヤの蹴りを受けクロセルの身体が後方に吹き飛ぶ。
さらに再びユウヤの姿はかき消え、吹き飛んだクロセルの背後に現れた。
──ガッ、ドゴンッ!
そしてユウヤは吹き飛んだクロセルの身体を蹴って空中に止め、素早く踵を叩き込む。
しかし、クロセルが簡単にやられるはずもなく、踵落としを受ける直前に尻尾を壁に突き刺して自身の身体を壁に引き寄せ、踵落としを回避していた。
回避された踵落としはダンジョンの床に叩きつけられ、床が陥没する。
「危ないのう。しかし簡単にはやられぬよ」
「だろうな」
クロセルは壁から自身の尻尾を引き抜く。
その時によろけて尻餅をつく姿は微笑ましいものがあった。
ユウヤとクロセルは互いに体勢を立て直し会話をする。
よくよく見ればクロセルの顔はやや朱に染まっている。
どうやら尻餅をついたことが恥ずかしかったらしい。
「ふむ、決めた。ユウヤ、拙の婿になるのじゃ!」
「……はい?」
少しばかり考える動作をしてからクロセルは言う。
もしも擬音が着いていたのならドドンッと言う擬音が着いていただろう。
突然のクロセルの宣言にユウヤを含めた全員が唖然とする。
「……なぜそうなる」
「ふふふ。なぜ、じゃと? 決まっておろう。拙はそちとの戦いが楽しくて仕方がない。それに拙と互角以上に戦えるのじゃ。婿として申し分無しよの」
「断った場合は……」
「そちを倒して婿にするのじゃ。もしも拙が負けたのならそちの嫁になろうぞ」
「そうか。……って、どっちも同じだろうが!」
「ふふん。どちらにしても拙が諦めることはないのじゃ!」
フンスッと鼻を鳴らしながらクロセルは胸を張る。
そんなクロセルをユウヤはひきつった表情で見た。
一歩、クロセルがユウヤへと足を踏み出す。
同時にユウヤもクロセルから一歩後ずさる。
さらに一歩、クロセルがユウヤへと足を踏み出す。
するとさらに一歩、ユウヤもクロセルから後ずさる。
「むーー!」
頬を膨らませ、クロセルはユウヤに向かって走り出す。
それに対してユウヤも身体の向きを変えて走り出す。
先ほどまでの激闘がまるで嘘のように2人は走る。
2人が離れて行ってしまうことに遅れながらも気がついたルリやリル、サキュバスたちは慌てて追いかけていった。
‡ † ‡
────ウィザード・グレイヴ10F
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「うぐ……はぁ……はぁ……」
階段に腰掛けながらユウヤとクロセルは背中合わせで荒い息を吐く。
どうやら9Fを走り回った結果、10Fにまで駆け降りてきたようだ。
階段の上の方を見ればルリやリル、サキュバスたちも様々な体勢で荒い息を吐いている。
「いい……加減に、はぁ……諦め、ろ」
「ことわ……る、のじゃ……」
もはや意地の張り合いである。
そこに1人のサキュバスがふらつきながらも現れた。
「あ、あの……お2人、で……ボスと、はぁ……戦って、みては……どうでしょう……。討伐報酬、は……同じ、部屋の……冒険者にも……渡される、はぁ……はずですし……」
「そう、だな……。やってみる、か……」
「う、うむ……。まずは休憩、なのじゃ……」
息も絶え絶えに進言するサキュバスにユウヤとクロセルは頷いた。
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────20分後・ウィザード・グレイヴ10F
「よし……。そろそろ行くか」
「うむ」
充分に休憩を取り、全員が立ち上がる。
その中でルリだけが縛られたままだが。
「むー!」
「これは外さないのかしら?」
「必要ない。このまま運んでくれ」
大きな声を上げるルリを指差しながらサキュバスの1人が尋ねると、リルは首を横に振って歩き始める。
リルの答えにサキュバスは少しの間、ポカンとしていたがすぐにルリを抱え上げてその後を追った。
「この先だな」
「さあ、拙とユウヤのコンビネーションで見事にボスを倒そうぞ!」
目の前の扉を見つめるユウヤの隣でクロセルが高めのテンションで右手を上げる。
そして、ユウヤはゆっくりと扉を開けていった。
扉の中は少し広めの部屋。
部屋の中央にはルービックキューブの様なものが浮かんでいた。
「あれが……」
「このダンジョンのボスじゃな。名称は『キューブ』。まんまじゃの」
「だな。んじゃ、俺が先行して攻撃をするからサポートを頼む」
「あい、分かったのじゃ。拙に任せて安心するがよい」
「行ってくる!」
ボスモンスター──キューブと戦う打ち合わせを終え、ユウヤは駆け出した。
ウィザード・グレイヴ10F。
今、ここでボスとの戦闘が始まった。
・天狼刈咒脚
ユウヤが創った〝格闘士〟の〝創技〟。
5分間発動者の両足を包むように毛皮を創り出す。
爪先からは大きめの爪が生えており、右足の踵から巨大な刃が生えている。
攻撃力と素早さを強化する。
・キューブ
ボスモンスターの1匹。
ルービックキューブの様な姿、移動スピードはやや速め。
弱点は体内の中心にあるコア。
攻撃パターンは面の色を揃えての〝魔法〟。
ルービックキューブの様に面を揃えることで〝魔法〟が発動する。
使用してくる〝魔法〟は全てモンスター専用の物。




