018 自覚と身体知
物品倉庫もとい諜報班の本拠地からライネスブラウ氏と一緒に転移で屋敷に戻る。
明日は朝から諜報班の仕事を手伝うことになった。
着替えるために自室に戻り、衣装部屋に入って気が付いた。このドレスは一人で脱げない。
着替えを諦めて衣装部屋から出ると、ベッドに腰掛ける。ライネスブラウ氏が着替え終わった頃に手伝ってもらおう。
慌ただしい一日だった。
ヨルド国はどこもかしこもおとぎ話に出てきそうなカラフルでかわいい街並みだった。厳かな挙式や華やかな晩餐会は、まるで映画やテレビドラマの世界に入り込んだかのようで、その後のアレさえなければ、いい思い出になっただろう。
自己嫌悪のため息が零れ落ちた。
わたしは人と触れ合うことが苦手だ。パーソナルスペースはかなり広いうえ、不意に踏み込まれると硬直してしまう。いきなり触れられるとパニックになる。
子供の頃に何度も攫われたせいで、トラウマになっている。
地元の警察は優秀で、施設の人たちは迅速で、教師たちは協力的で、いつも最悪の事態の前に助けてくれた。ひとえに運が良かったのだろうし、目立ちすぎる外見が功を奏したことも多々ある。
それでも、攫われる恐怖はいまも消えない。とにかく人目につきたくない。その一心で生きてきた。
〈ミア〉
伝心で呼ばれて顔を上げると、開け放たれたままの寝室の入口に上着を脱いだだけのライネスブラウ氏が立っていた。
「悪い。ノックしたが、返事がないから勝手に入った」
「かまいません。どうされました?」
「そのドレス、一人では脱げないだろう」
「もう少ししたら助けてもらおうと思っていました」
立ち上がって背を向ける。リボンが複雑に編み込まれているドレスは、一人では着ることも脱ぐこともできない。
「ライネスさんの着替えもお手伝いましょうか」
「私がミアを手伝いたいだけだ」
ドレスが少しずつ緩んでいく。シルバーホワイトに青く細いリボンが絡まるとても素敵なデザインなのだが、着るときもかなり大変だった。
「お手数おかけします」
「手間だと思ったことはない。むしろ私がいなければミアはなにもできなくていい」
「それいつも言いますね」
「ミアがなかなか頼ってくれないせいだ」
思わず振り向いて抱きついた。いつだって頼ってばかりなのに。
「本日は、本当に申し訳ありませんでした」
あのときは自分の心を守ることで精一杯だった。だからといって、冷静さを欠くことの言い訳にはならない。いまは自分が許せない。
「謝る必要はない。ミアはよくやってくれた」
「でも、もっと早く気付いていたら」
「たとえ早く気付いていたとしても、なにも変わらない。王太子が顔を出すまではあの不快な場にいなければならなかった。むしろミアと一緒だったから私も気が紛れた」
ようやく解き終わったドレスが足元に落ちる。
ドレスの下には専用のワンピースのようなインナーを着ている。普段着としても通用するほどしっかりした作りとデザインなのに、アンナさんからは「これは下着です」と何度も念を押されている。
普段身につけている下着も、ノースリーブのミニワンピースと言っても通用しそうなのに、アンナさんからは下着であることを何度も言い聞かされてきた。それをパジャマ代わりにしていることも、最初の頃は何度も注意されていた。
ふわっと体を持ち上げられて、足元でドーナツ状になっているドレスから脱出する。
「ミアは、私とミルト以外に触れられるのは怖いか」
「怖いです」
人に触れることに慣れようと、マッサージ店でのアルバイトを初めた。
最初は足から。少しずつ慣らしていって、時間はかかったものの自分から触れることには慣れていった。
ここで治癒士として施術する際も、自分から触れに行く分には平気だ。
親密すぎる挨拶はまだそこまで親しい人がいないのでなんとかなっている。
正装のときはライネスブラウ氏が主の挨拶をしてくれるので、わたしは隣で軽く膝を曲げて腰を落とすだけでなんとか済んでいる。
でも、中にはいきなり触れようとしてくる人もいて、そういうときはびくついてしまう。挨拶だとわかっていても、どうしようもなく体が反応してしまう。刻み込まれた恐怖はいつまで経っても薄れない。
ヨルドの王太子妃が心配して伸ばす手にすら怯えて硬直してしまう。
あんなにも一緒にいて、その笑顔を見ればホッとするアンナさんでさえ、慣れるまでは時間がかかった。
ただ、ミルトさんはなぜか平気だ。大柄でいかつく、これまでであれば萎縮してしまうタイプなのに、ライネスブラウ氏同様、なぜか最初から平気だった。
ライネスブラウ氏に抱き上げられたまま、洗面所まで運ばれた。一緒に入浴する気満々の顔をしている。
「一人でできます」
「だめか」
「だめです」
仕方なさそうに腕から降ろされた。
「ゆっくり使え。またあとで来る」
仕方なさそうに洗面所から出ていった。あまりに残念そうで、つい笑ってしまう。
バスタブにお湯を溜める。
お湯が溜まるまでにシャワーブースで全身を洗う。
上下の二方向と側面の四方向から泡やミスト、シャワー、保湿液が噴射されるシャワーブースは近未来的で使うのが楽しい。
いまやこのブースしかない家も多いらしく、ライネスブラウ氏の部屋の洗面所もこれしかない。
わたしが使っている部屋には幸いにもバスタブが撤去されず残っていたので、ゆっくりお湯に浸かれる。
たっぷりでまっさらで自分だけのお湯に毎日浸かれるなんて贅沢の極みだ。
お湯に浸かると、ふいーっ、とお腹の底から変な声が出た。これは育った国ならではの風習だろうか。
温泉に行ってみたい。無料の足湯には浸かったことがある。バイトの先輩が買ってきてくれた温泉まんじゅうも食べたことはある。温泉。死ぬまでに一度は行ってみたい。
カルラさんのこと、エレメン教のこと、黒の魔素のこと――ここ最近の出来事がとりとめもなく頭に浮かぶ。
ライネスブラウ氏たちはいつから帝国のことを疑っていたのだろう。最初から頭にあったのかもしれない。あまりいい噂を聞かない国だ。争いを好む国だとも聞く。あの魔物となったクマがどういう経緯でアウルム国に放たれたのか。クマのいない地域にクマを放つなんて、疑ってくださいと言わんばかりだ。宣戦布告のつもりだろうか。不可抗力による事故だろうか。たしか、ヨルド国もクマの生息地だ。ヨルドから帝国にクマを運ぶ途中だったとか。もしくはその逆か。ヨルドの国際ゲートが自国管理でないならば、全ての出入国が厳しくチェックされているはずだ。となると、陸路か海路か――。
洗面所のドアがノックされた。
仕方のない人だ。
明かりを落として、体にバスタオルを巻くように遮像する。
照明を落とした湯船の中で、ライネスブラウ氏に背後から抱えられる。
自分の部屋でシャワーブースを使ったのだろう。肌から石鹸の香りがしている。
「ライネスさんのお部屋にもバスタブを設置すればいいのに」
もしくは、使っていない客室にはまだバスタブが設置されたままなので、そこを使えばいい。
「一人で入っても仕方がない」
「お風呂は一人で入るものです」
そう言いながらも、彼が来ることを見越して、あふれさせないようお湯を少なめに張っていたわたしも大概だ。
「ほかの国に行くと、この国の清潔さを実感します」
ヨルド国は主要国であるアウルム国と比べて様々なところが遅れていた。特に臭いに関しては眉をひそめそうになる場面がいくつもあった。
アウルム国は清潔な国として知られている。
魔竜の血肉がとんでもなく臭いため、ライネスブラウ氏が臭い封じの術式の開発を続けている。簡単にいえばフィルターの開発だ。
その術式の応用が様々な分野で活用されている。マスクもその応用術式のひとつ。このお風呂のお湯が柔らかいのもその応用のひとつ。上下水道はもちろんのこと、河川の透明度もそのひとつだ。
「ライネスさんの偉大さをしみじみ痛感しました」
「暇だっただけだ。ほかにすることがなかった結果だ」
「暇なんてないくせに」
「いまはミアのおかげで充実している」
「負担になっていませんか」
「いいや。なんだ、まだ気にしていたのか」
いまもお湯が冷めないよう魔力で調節してくれている。いつだって、こちらが気付かないほどさり気なく気遣ってくれる。
頼ってばかりなのに、もっと頼れと言われてしまう。
「なんだかいろいろと考えてしまって」
挙式でヨルドの王太子たちは永遠の愛を誓った。わたしにはごく当たり前のことだと思えるが、ここアウルム国は違う。
「アウルム国の離婚率の高さって異常ですよね」
「そのようだな。たしか婚姻から三年以内の離婚率は七割だったか」
「五年だと九割だそうです」
ここアウルム国では、永遠の愛など幻想に過ぎない。婚姻は三年周期だと誰もが平然と口にする。結婚回数の多さはむしろ経験値としてプラスに作用することもあるくらいだ。
そのせいか、この国では婚姻の儀式、いわゆる結婚式は廃れている。立会人の許で宣誓するだけだ。
「ライネスさんも離婚を考えたりしますか」
この国では離婚にネガティブなイメージはないが、不貞行為には厳しい。不貞行為が発覚すると二度と婚姻できなくなる。
かといって、曖昧な関係を続けるのも不誠実だと眉をひそめられるため、交際開始と同時に婚約する者も多い。
ほんの少しお湯に浮いていた体が浮力に抗うようにライネスブラウ氏の腕の中に引き戻される。
「私は愚者になるつもりだ」
一人の人と添い遂げる者のことを愚者と呼ぶ国。
愚かなるもただ一人に忠誠を誓う者、という意味らしい。ネガティブなのかポジティブなのかわからない言葉だ。
それがいつしか転じて、添い遂げる人やただ一人を思い続ける人に向けられる賛辞となった。
「わたしは、ライネスさん以外は無理です」
「知っている」
この人は本当に策士だ。
一度は断ったのに、それでも一緒に入浴したのは……。
「わたしに自覚させるためですか」
わたしは、この人としか触れ合えない。
あんな醜悪な場面を見せられても、この人を拒むことはない。トラウマはこの人には発動しない。この人とのあらゆる行為に恐怖も嫌悪も不安も感じない。
だから、少しはマシになったのかと勘違いした。
ただ、この人が特別なだけだった。
「人聞きが悪い。一緒に風呂に入りたかっただけだ」
こうして肌を触れ合える、この人だけが例外だ。この人の腕の中ならば、最悪な状況でも耐えられる。これまでも、きっとこれからも。
「そういうことにしておきます」
天窓から夜空が見える。もうずっと星を見ていなかった気がする。
「起きろミア」
ライネスブラウ氏の起こし方は強引だ。
強制的に抱き起こされ、シャワーブースに無理やり立たされる。水圧も強めで、体がびっくりして目が覚める。心臓が弱い人なら大惨事になりそうだ。
「ミアは寝起きが悪すぎる」
朝から悪口か。手取り足取り着替えさせられているこの状況は、わたしだけのせいではない。
「昨晩のご自分の所業を反省してください」
ぐっと言葉に詰まった顔に溜飲が下がる。自覚させられたうえに体に覚え込まそうとするなんて鬼畜の所業だ。
「普通の女性ならきっと逃げ出しますよ」
「普通の女性などどうでもいい。ミアが逃げ出さないようにしているだけだ」
ああ言えばこう言う。言い返せなくてじっと睨んでいたら、ライネスブラウ氏の耳が赤くなった。ふん、勝った。
隊服ではなく普段着として用意されている高級で上品な服を着て、位置を把握するために転移ではなく歩いて物品倉庫に向かう。
笑ってしまうことに途中に森を挟んだりして、早足で三十分歩いても到着しない。どれだけ敷地が広いのか。
しかもここは本邸ではなく、サフィルス領の首都にあるセカンドハウスで、領地には本邸となるカントリーハウスが存在しており、いまはグレイブラウ氏が使っているという。
汗ばむ季節が終わったことを日差しや風が教えてくれる。
見上げれば、澄んだ空が青く高い。
手を繋いでただ歩く。それだけのことなのに、なんだか気分が浮き立つ。世界が輝いて見える。
手を繋いでいる人が“夫”という感覚はまだよくわからない。でも、“好きな人”という感覚はある。“絶対の人”とか“この人でなければ”というような、切羽詰まった強い感覚はもうずっと前からあったのに、“好きな人”という、ごく単純なふわふわした感覚が最近わかるようになってきた。
これが“恋”なのだろうか。結婚しているのに、いまさらな感覚だ。
隣を歩くライネスブラウ氏の耳が赤い。耳どころか顔も赤い。
「うわっ、まさか……」
「手を繋いでいれば伝わるだろう」
なんだろう、このとてつもない羞恥は。裸を見られるよりも恥ずかしい。手を離そうとして、逆に強く握られた。
「どうしていつもわたしの考えていることだけが伝わるんですか」
ライネスブラウ氏の心の声が聞こえてきたことはない。
「訓練しているからだ」
そのまま倉庫を素通りし、ライネスブラウ氏に連れられてサフィルス領首都の商業街に出る。
「訓練……まさか、拷問とかの? 口を割らないみたいな?」
「そうだ。一定以上の機密を扱うものは、訓練を受ける」
そういうところが軍人だ。
街行く人のほとんどが白金の髪に青い瞳だ。誰もわたしのことなど気にしていない。
菫さんから白金の髪に青い瞳の人が住む地域があると聞いて、そこで暮らしたいと切望してここまで来たものの、本当に見渡す限り同じ色の人達がうじゃうじゃいる。
未だに現実味が薄くて、まるで映画のロケを道端で見ているような感覚だ。自分もエキストラの一人として紛れ込んでいる気がしてくる。
ワンブロックほど歩いた先にある、裏通りの上品そうな隠れ家的なお店に着くと、すでに店内にはミルトさんたちが朝食を食べていた。
みんなバラバラな席でくつろぎながら食べている。
仲が悪いわけではなく、この国の人たちは自分の時間を大切にする人が多い。カップルや家族であっても、同じ席に着いているだけで、それぞれ窓の外を眺めたり、本を読んだりと、各自好きに過ごしている。
〈おはようございます〉
念のため、伝心で挨拶すると、ミルトさんも伝心で〈おう、先食ってる〉と寝起きの不機嫌さそのままに返してきた。
こちらに一瞥もくれないので、そのまま知らん顔する。
ミルトさんはその時の気分でライネスブラウ氏の屋敷で食事したりしなかったりする。
そんなミルトさんの自由気ままさにも、わたしたちと同じ食事が毎回きちんと用意されているのだから、お金持ちはすごい。
アウルム国では一般的に、朝食と昼食を提供するお店と、夕食を提供するお店に分かれる。夕食は家庭で食べる慣習があり、それゆえ、夜に食事を提供するお店は特別な日に利用するフォーマル店ばかりなのだとか。
〈いつもここですか〉
〈朝食は大抵ここだ〉
すっきりとした外観のスタイリッシュなお店だ。裏通りにあるためか静かで、テラス席もゆったりしている。
これまで、誰もが知るカフェには滅多に入れなかった。というか、片手で数えられるほどしか入ったことがない。コンビニのコーヒーもたまの贅沢だった。外食なんてもってのほかで、こんなふうにテラス席で食事なんて、夢に見るほど憧れた。
「こういうお店、来てみたかったんです」
「なんだ、早く言え。いつでも連れてきてやる」
朝食のメニューは三つ。魔晶板に浮かぶサンプルはどれも美味しそうだ。
「決めたか」
「まだです。ライネスさんは決めましたか」
「どれで迷ってる?」
「これと、これです」
メニューを指差すと、ライネスブラウ氏がそのまま注文してしまった。サンプルをタップするように指先に魔力を纏わせて触れると注文ができるようだ。
「両方食べたいだけ食べろ。残りは私が食べる」
「いいんですか!」
「その代わりと言ってはなんだが、今日から三日間、私に付き合ってもらえるか」
食後に転移で向かった先はアウルム国の国境だった。そこに設置されている魔晶石のメンテナンスを行うようだ。やたらと厳重に管理されているようで、いまもかなり分厚い遮蔽の中にいる。
「この魔晶石を、むこうでミルトが持っている魔晶石と繋ぐことはできるか」
「繋ぐって、伝心でですか」
「おそらくミアは感覚でやっているだろうから……そうだな、いまミルトがむこうで持っている魔晶石とミアが触れている魔晶石は対になっている。この魔晶石が魔力を感知すると、ミルトが持つ魔晶石が反応するよう術式が組んである」
インターネット回線みたいなイメージだろうか。こぶし大ほどの魔晶石を手のひらで包むようにしながら、伝心でミルトさんに呼びかける。
〈ミルトさん、繋がっていますか〉
〈ミア、おまえすごいな。そのままの状態で待て。強化する〉
繋がったらしい。ライネスブラウ氏が満足そうな顔をしている。
「国境の警備網を強化しておきたかった」
一度繋いでしまえばあとはどうとでもなるらしい。ライネスブラウ氏やミルトさんではダイレクトに繋げなくて、どうしても中継が必要だったらしい。中継を挟めば挟むほど魔力干渉による妨害が問題になる。
「帝国対策ですか」
「まあな。念の為だが、どちらにしても近いうちに頼もうと思っていた」
「これは、結界ですか」
「結界とは違う。そうだな、どちらかといえば、防犯円に近いが、こう、魔晶石と魔晶石を結んで、その間を魔力が通過すると反応するものだ。できれば魔紋まで感知したい」
魔力探知機や魔力感知器とか、そういう感じだろうか。
「もしかして、ライネスさんが作ったんですか」
「まだ試作段階だ。術名も決まっていない」
設置されているのは国境を警備するための移送帯よりも少し内側の地面だ。しかも石に擬態しているうえ、かなり分厚い遮蔽がかかっている。
「これ、発表する気ないですよね」
「ないな。軍事機密だ」
大公がライネスブラウ氏を手放すことも消すこともできないわけだ。わたしまで取り込もうと必死になるのも頷ける。
「それって……わたしも拷問の訓練を受ける必要があったりしますか」
「ミアは心を閉ざせるだろ」
「そうなんですか」
「気付いていなかったのか。時々ミルトが自白させようとしていただろう。最近は引っ掛からなくなったと褒めていたぞ」
もしかして、手交書類の行き先をやたらと聞いてきたことだろうか。ついうっかり答えそうになるのを懸命に堪えていたのが訓練だったとは。
国境付近には大小いくつもの要塞都市が存在し、国境検問所が設けられ、人や物の出入りが管理されている。島国で育ったせいか、国境というものをあまり意識したことがない。
それぞれの要塞都市の間には魔力による国境壁が設置されているのだが、これを掻い潜って密入国しようとする者がいる。
ライネスブラウ氏が施した国境壁を超えられる者はいまのところいないらしいが、世の中にはライネスブラウ氏を上回る者がいないわけではない、という想定のもと、強固にしたいらしい。
あとは国内の逃亡犯や、国境付近に屯する犯罪集団を捕獲するためでもあるようだ。
「この感知範囲、移送帯の上空どのくらいまで想定していますか」
「どういう意味だ?」
「こういうの、開発されたらアウトじゃないですか」
手を繋いで感覚を共有し、記憶にあるドローンを伝える。
災害救助の大型ドローンや、偵察するための小型ドローン、ドローン攻撃の様子など、覚えている限りの映像を伝える。動力源を魔晶石に置き換えるだけで簡単に模倣できるはずだ。
ふと見上げたライネスブラウ氏の目が子供のようにきらきらと輝いていた。




