「こんな素敵なものを毎日受けることが出来るなんて皇妃って立場は凄いわね」―新米皇妃、頑張ります⑪―
ランジネットも自分を不快にさせた存在のことをどうしても許せないというわけではない。だからこそ、謝罪は当然受け入れた。
こういった寛容さも、時には重要であるとランジネットは知っている。
だからこそ、これ以上騒ぎ立てて問題を大きくしようなどとは思わない。このまま許さなかったらどうなるかというと、謝罪をしなかった令嬢が不幸な目に遭うだけである。
最悪の場合は不敬罪で処刑されてもおかしくはない。
「ふぅ……」
一息を吐いて、ランジネットはベッドに横になる。最近のランジネットは考えなければならないことが山ほどあって、少し疲れている。
皇妃としての暮らしにまだ慣れていないからだろうと、彼女自身は思っている。
(皇妃としての公務をこなすだけで、こんなに疲れてしまうなんてまだまだだわ。体力づくりももっとしないと。最近、書類仕事ばかりであまり身体を動かせていないもの。あとはそう、魔法の練習も!)
ランジネットはそんなことを考えながら、天井を見上げている。
最近のランジネットは書類仕事ばかりをやっている。あとは皇妃としてこれから生きて行くための必要な知識を身に着けることなどに趣をおいている。
魔法の練習も最近は出来ていないので、ランジネットは時間を見つけて頑張ろうとそうも思っている。
皇妃として自分の身を守るための術を身に着けていることは悪いことではない。
もちろん、事前に護衛騎士がそれらを防げるのが一番だ。寧ろ守ることが出来ずにランジネットの手を煩わせるなんてことがあれば護衛騎士は処罰を受けることは免れないだろう。
皇族というのは、守られる存在である。
その一挙一動が、周りに多大な影響を与える。
「ランジネット様、お疲れですか? マッサージでも致しましょうか?」
「お願いするわ」
そのままランジネットは侍女からのマッサージを受ける。
皇妃付きの侍女達というのは、仕える主の疲れを取るための技術を身に着けている。特に前皇妃であるマドロールは自分磨きを怠らない女性であった。なので、特に皇族に仕える侍女達はそういう知識を沢山身に着けているのである。
(ふぅ……なんて気持ちが良いのかしら。こんな素敵なものを毎日受けることが出来るなんて皇妃って立場は凄いわね)
こうしてマッサージを受けているとランジネットはウトウトしてしまう。
あまりにも心地良すぎた。
「ランジネット様、お眠りになっていただいても構いませんよ」
そう声をかけられて、ランジネットは気づいたら眠ってしまった。
そんな風にランジネットは周りにサポートされながら、過ごしていた。ただ幾ら休んでも、身体の疲れというか、違和感は取れていなかった。
(うーん、どうしてなのかしら。周りは私のことを支えてくれていて、何の心配もいらないはずなのに。色んなことを考えてしまう。それに食べ過ぎてしまうのよね。あまりにも甘いものを食べ過ぎると太ってしまうのに……!!)
ランジネットは食べることが好きで、美味しいものを前にするとすぐに口にしてしまう。しかし皇妃という立場で、自分の身体も管理出来ない状況は望まれない。それにランジネットとしても、自分の見た目が崩れることはなるべく避けたかった。
夫であるヴィダディはまるで芸術品か何かのように美しいのだ。その隣に立つ自分が太ったりするのは嫌だなというのが本音である。
(……でも料理人の方々も、私が少し疲れていたりするのを見て気を遣って私の好きな物を沢山作ってくれているのよね。早く調子を戻さないと)
ランジネットはそんなことを考えながらも、なるべく身体を休めるようにしていた。
睡眠というのは、体調を整えるのに一番有効な手段である。どれだけ運動をしたり――健康的に生きようとしていたとしても眠ることが出来なければその寿命を縮めることになるだろう。
皇妃という立場は、やることが幾らでもある。
周辺諸国の為政者の中には睡眠を省いてまで働こうとする者も当然いた。ただこの帝国ではそんなことは望まれていない。そこまで働かなくても良い環境が既に築かれている。
適度に昼寝などもしながら、夜もぐっすりである。いくら何でも寝すぎでは? という結論に至って、医者が呼ばれることになった。
前皇帝の時代から、帝国は女医の支援も行っている。これは前皇帝であるヴィツィオが妻を男性に診せたくないという嫉妬深い性格が理由で行われていたことである。他の分野に関しても「マドロールに男を関わらせたくない」という理由から、女性が多く集められている。その結果、他の国よりも帝国は女性の進出が進んでいた。
ランジネットを診てくれたのも、当然女性である。
あとは魔法使いもいる。もし魔力に纏わる不調であるなら、ただの医者では解決することが難しいのだ。
(風邪を引いたりしているわけでもなく、少しだけ違和感を感じる程度なのに……ヴィダディは心配性だわ。でもそうよね、こういうのは症状が少ないうちに診てもらった方がいいわ。何もないならそれでいいし、早期で問題を解決できるならばその方がずっといいもの)
ランジネットは大げさだなと思いつつも、納得した様子であった。
「皇妃様、おめでとうございます」
「え?」
「妊娠なさってますよ」
突然お祝いの言葉をかけられて驚いたランジネットは、次の言葉に固まった。




