「今すぐ謝罪するのならば、今回はそれでおさめるわ」―新米皇妃、頑張ります⑥―
ランジネットは帝国の皇妃である。だからこそ、パーティーの最中は基本的に誰かしらの護衛がすぐ傍に控えている。
そんな状況なので、下手な真似はする者はそこまで多くない。とはいえ、愚か者は世の中には存在している。
だからこそ、ランジネットにちょっかいをかけた令嬢がいた。それは帝国の皇妃なんて立場になった同年代の娘に対しての妬みもあっただろう。
少しだけ痛い目を見てもらおうとか、ただそう思っていただけだ。おそらくそこに深い気持ちはない。
それでも、ちょっとしたきっかけで彼女たちは皇妃の足を引っかけようとした。
……一瞬の出来事で、ランジネットはこけかけてしまった。だけれどもそれは周りの女性に支えられて事なきを得る。
ランジネットは、何かにつまずいたことは自覚していた。
それでいてくすくすと笑う年若い令嬢の集団が居たため、足を引っかけてこようとしたのは分かった。
(皇妃相手にこんなことをする方がいるなんて、命知らずだわ。私が舐められているから……というのもありそう。私が皇妃になったばかりで、周りからしてみれば身分不相応に見えるのだろう。だからといって、こんなことをしていい理由は何一つないけれど)
ランジネットはあくまで冷静である。自分が周りからどう思われているかを正しく彼女は理解している。
ただの小国の、公爵令嬢でしかなかった少女がこんな場所に居ることを気に食わないと思っている気持ちも十分に分かる。
(でもまさか、嫌味などを言ってくるだけではなく直接足を引っかけてくるなんて思ってもいなかったわ)
ランジネットは、眉を顰めて真っすぐに彼女達を見つめる。怒りなどは、外に見えるようには示さない。
にっこりと微笑む。だけど笑っているのに、その目は笑っていない。
――そのことが、周りにも分かることだろう。
ランジネットは、怒りを直接見せることはしなかった。愛らしい見た目の、小さな彼女だが堂々とした態度だ。
「謝罪をいただける? 足を前に出したでしょう?」
真っすぐな目でランジネットはそう言った。
「あら、そのようなことはしておりませんわ」
「皇妃様は何か勘違いをしておられるのでは?」
そう言ってはぐらかそうとする者が、数名。それだけではなく青ざめている者も居る。
ランジネットのことを、彼女たちは侮っている。これほどのちっぽけな出来事を大事にすることもないだろうと、そう思われているのかもしれなかった。
やられっぱなしか、何かあったとしても少し注意されるだけだとそう思っているのかもしれない。
「あら、私が勘違いをしているとでも?」
ランジネットは微笑む。こういったやり取りは慣れていないけれども、ヴィダディのたった一人の妃として、侮られたままでいるつもりは全くなかった。
「ならば周りから幾らでも証言してもらいましょう。あなた達の行動を一人ぐらい見ているでしょうね。虚偽報告だったらそうね……、大きな処罰は与えられないでしょうけれど、少なくとも私や皇族からの印象は悪くなるわ」
軽い気持ちで行動を起こしているらしい令嬢達にランジネットは微笑みかける。笑みは絶やさない。
実際にこうして、皇妃として堂々と言葉を掛けることを彼女は楽しんでいる。
何か失敗したとしても、自分の夫となったヴィダディは味方をしてくれるだろうと知っているからというのもある。
だから、ランジネットはあくまで自信満々に笑いかける。
「まずはそうね、皇妃に対してよからぬことをした愚か者として有名にはなれるでしょう。あなたたちはまだ結婚もしていないわよね? そうなると嫁ぎ先がなくなるわね? それにあなたのご家族にも迷惑は少なからずかかるでしょう。そういうことまで考えて、私への不満を出しているのよね?」
笑って告げれば、ランジネットがそんなことを言いだすとは思っていなかったのか彼女達は固まっている。
ランジネットは、愚かだなと思った。
(私が舐められているのも問題なのだろうけれども……この令嬢達の態度は大問題だわ。まだ他国の方々が居ないパーティーだからいいけれど、他国の前でこんなことを起こしたらどうなったことやら)
ランジネットはそんなことを考えて眉を顰める。
ランジネットからしたら、彼女たちが行動を改めないならそれはそれである。嫁ぎ先が見つからなかったり、彼らの家がどうなったとしても、あまり関係がない。
ランジネットは自分の味方をする者には優しくするし、そうじゃない者に対する態度はそれなりに冷淡である。
「今すぐ謝罪するのならば、今回はそれでおさめるわ」
ランジネットはそう言って続けた。
――此処で、ランジネットが「許す」と一言でも言えばこの話はそれで終わりである。でもそうじゃないのならば……彼女達の未来に大きく影響することは間違いない。




