「もっと他の人を描くのも練習になるかもしれないけれど……ヴィー様が嫌がるのよね。本当に可愛らしいんだからっ!!」
短編後、しばらくしてからの話
「ああぁああ、ヴィー様、本当にかっこいい!!」
「そうか」
「はいっ!! 今日も凄く麗しいです。こう、肘をついて少しだけ高圧的な雰囲気で、こちらを見ているのがヴィー様らしくてっ!! それにしてもこう……ヴィー様って普段の黒い服も似合いますけれど、赤も似合いますよねぇ。ちょっとじっとしていてくださいね?」
マドロールは大興奮しながら、赤い玉座のような椅子……マドロールがヴィツィオに似合うからと作らせたものに座っているヴィツィオを見つめている。
今、彼女が何をしているかと言えば、ヴィツィオの絵を描いているのだ。そのためにわざわざ忙しい皇帝に、衣装を着てもらい、ポーズをとってもらっている。こんなことを出来るのはマドロールだけである。
椅子と同様に赤い衣装。金色の刺繍の施された高貴な身分の者が着るようなもの。
その恰好のヴィツィオを見るだけでマドロールは目を輝かせてしまう。落ち着かない様子で、絵を描く手が止まったりもする。ヴィツィオは愛しい妻の行動を止める気もなく、言われるがままである。
「ああ」
「あ、でもヴィー様、同じ格好がきつかったりしたら崩してくださいね? 妄想で補完しますから!!」
「気にするな。この位できつくなったりはしない」
ヴィツィオは淡々とした様子だ。マドロールは、そんな夫を見てふぅっと息を吐く。一旦落ち着きたかったらしい。
(なんて素敵なのかしら。というか私の絵を描きたいという望みを叶えるために、こうして大人しくしてくれるとかヴィー様可愛すぎてなにそれって感じしかしない。他でもない私のためだけにヴィー様はこうして衣装まで着替えてくれてっ、ああ、好きっ!!)
今日も今日とて、マドロールはときめきを隠せない。夫がかっこよすぎて、マドロールはいつも心臓が痛い。
「ねぇ、ヴィー様も私にしてほしいことがあったら言ってくださいね? そしたら私は絶対にそれを叶えますからね?」
「俺はマドロールが楽しそうにしていればそれでいい」
「もうっ、本当にヴィー様ってば可愛いんだから!! ヴィー様、大好きですっ!!」
「知っている」
「って、話してばかりだと駄目ですわね。描いてしまいますね」
マドロールははっとした様子でそう告げると、そのまま真剣な表情で絵をかきだす。そんな妻にヴィツィオは目を細めて微笑む。
(うっ……ヴィー様の表情が優しすぎるぅうう。素敵すぎて、もうどうしたらいいか分からない!! 何度もこんな表情を向けられているのに、本当に無理っ!!)
ときめいて変な声を上げそうになっているマドロールであった。
ちなみにだが、こうしてわちゃわちゃしている二人の傍には侍女や執事、騎士達の姿は当然ある。彼らは二人の様子に慣れ切っているので特に動じた様子はない。
寧ろ皇妃様は今日もいつも通りだな、陛下は皇妃様には優しいなと穏やかな気持ちで見守っている。
(それにしてもやっぱり人物画を描くのは難しいわ。私はヴィー様しか描けていないのになかなかうまくなれないのよね。やっぱり絵は奥深いわ。もっと他の人を描くのも練習になるかもしれないけれど……ヴィー様が嫌がるのよね。本当に可愛らしいんだからっ!!)
マドロールは絵を一生懸命描いているわけだが、ヴィツィオ以外の人物は描かない。それは嫉妬深すぎるヴィツィオが嫌がるからである。
束縛されることを嫌がるタイプの女性であったら疲弊するだろうが、マドロールはそんな独占欲満載のヴィツィオを愛してならないので素直に受け入れている。
じーっとマドロールはヴィツィオを見つめる。
目が合うだけで、落ち着かないマドロールである。
(ヴィー様に見つめられるの好きぃいい……って、駄目よ。妄想の世界に飛び出していったら! 私はヴィー様のお忙しい時間を絵のモデルになってもらっているのだから、急いで描かないとって、焦ると失敗するわ……)
マドロールは百面相をしている。公務の最中でないからといって、ころころと表情が変わる。こんなマドロールだが、皇妃としてパーティーに出る時はきちんとした態度をしている。
(えっと……こうして……)
少しずつマドロールは修正を入れつつ、絵を完成させていく。ヴィツィオはその間、マドロールに望まれたポーズを崩さない。そんな様を見て、またときめくマドロールであった。
というか、この皇妃、常に夫にときめいている。
「出来たっ!!」
「見せろ」
「はい!」
マドロールはヴィツィオの命令にすぐさま絵を差し出す。彼女にとって夫の望みを叶えることは当然である。
「これは俺がもらう」
「もちろんですわ。ふふっ、私の描いたヴィー様の絵が沢山たまっていきますね? これから全部受け取ったら凄い数になりそうですわ」
「俺以外がマドロールの絵を所有するというのは駄目だ」
「そうですわよね。ヴィー様は私のことが大好きですから、私の絵は誰にも渡したくないんですものね。本当にか・わ・い・い!! もう、今日も可愛くてかっこいいヴィー様の素敵な様子を拝見出来て私は幸せでなりませんわ!」
「そうか」
「はい! これからも私にだけその姿を見せてくださいね?」
「ああ」
マドロールの言葉を聞いて、ヴィツィオは頷くのだった。




