「帰ってくるまでの間に、妹が安心して暮らせるようにしないと」
「ふふっ、なんて愛らしいのかしら」
手紙を読みながら、優しい表情でそう呟くのは帝国の第二皇女であり、現皇帝の妹であるミドロールであった。
彼女の手にする手紙は、末っ子の皇女……まだ見ぬ妹からの手紙だった。まだ三歳だというのに、拙い字ながら兄や姉達宛に手紙を書いているのだ。
ミドロールは一度も会ったことがないにも関わらず、すっかり妹のことを可愛くて仕方がなかった。
(ロッツィオとルッツィオだけは会ったことがあるなんて羨ましいわ。私だって会いに行きたい……! でもお兄様ってば、特に私やお姉様に対して心配性だから許可してくださらないのよね。お母様たちが滞在している場所はかなり遠い場所だし……。まだロッツィオとルッツィオは魔法を使えるから安心だなんて言っていたけれど、私だって剣技は嗜んでいるのに! 去年無理にでも二人についていけばよかったかしら? でも流石に三人も皇族が理由も述べずに帝国に居ないのは流石に問題だものね)
ミドロールは産まれながらの皇族である。だからこそ、皇族が三人も理由も述べずに帝国に居ないというのが問題だというのも分かる。
両親や末っ子の妹は、身分を隠したうえで過ごしている。彼らが何処に住んでいるかが露見すれば、望まぬ展開が待ち受けていることも分かっていた。
だからこそミドロールは前回は我慢したのだ。
ただでさえ、まだ国内は少しだけ荒れている。長兄が皇位を継いでしばらくが経つというのに、いまだによからぬことを企んでいる者は居なくはない。
(お父様は本当に偉大だったわ。お父様は反乱などが起こらないように、よからぬことを企む者達を全員黙らせていた。お兄様だって立派で、凄い方なのにお父様が凄すぎて比べる人もいるのよ。本当に失礼な話だわ!!)
ミドロールは兄妹たちのことを愛してやまないので、少しだけ不快そうな表情をしている。
『暴君皇帝』と呼ばれていた父親は、それはもう偉大な為政者であったのだと実感してならない。
恐怖心による統治、皇帝の命令が全てだった。
それでも上手く回っていたのだ。だからこそ、父親は凄いなと思ってならないミドロールであった。
(お兄様は私達家族には優しいけれど、敵対する者には容赦ないのに。そういう一面を周りが知ったら大人しくなるからしね? お兄様が奥さんを娶ったのもあり、少し隙が出来たとそう思われているみたい。愚かだわ)
ミドロールはそんなことを思いながら目を細めている。
そう、今の皇帝であるミドロールの兄は花嫁を娶った。そして城内で、幸せそうな様子を見せている。新聞などにもその仲睦まじい様子は描かれているぐらいだ。
そんな時だからこそ、付け入る隙があるとそう思われてしまっているのである。
ミドロールはそのことが面白くない。……というより自分の大切な兄妹たちが侮られているのは嫌なのだった。
(お父様やお母様、それにメロナールがこの国に帰ってくるまでの間に問題のある人間を全て片付けておきましょう。私に出来ることがどれだけあるか分からないけれど、出来うる限りのことはしよう)
ミドロールはそんな決意をする。
彼女の目は、冷たく細められている。家族の前ではにこにこしているものの、それ以外に対しては何処か冷たい印象を与えるのが第二皇女であるミドロールである。
「さて……手紙をちゃんと保管しましょう」
ミドロールは穏やかな笑みを浮かべながら、自室から扉続きになっている奥まった部屋へと向かう。
その部屋には……ミドロールがこれまで家族からもらったものが所蔵されている。家族愛がとても強い彼女は兄からもらったアクセサリー、姉からもらった刺繍されたハンカチ、双子の弟達からもらった絵など様々なものが飾られたり、保存されているのである。ちなみに手紙も全部しまってある。たまに読み返して、ニマニマしている。
(メロナールからもらったものは、まだまだ少ないからもっと増えると嬉しいわね。というか、私がメロナールに幾らでも贈り物もしたいわ。可愛い妹にとっての自慢の姉になれたらいいけれど……どうかしら? 帰ってくるまでの間に、妹が安心して暮らせるようにしないと)
メロナールの手紙をしまうコーナーももれなく出来上がっている。
完全にミドロールの個人的な部屋なため、この場所には掃除をする侍女ぐらいしか入ってこない。彼女達にはミドロールが兄妹たちをそれはもう大切にしていることはすっかり知られている。
ミドロール主導により、メロナールの部屋はそれはもう豪華に日に日に整えられている。
ミドロールはメロナールが帰ってきた時に問題なく過ごせるようにと一生懸命である。こんなにシスコンであるミドロールであるが、そんな噂は外に出回っていない。どちらかというと冷たいという噂の方が出回っているので噂と真実は別物であるとミドロールに仕えている侍女達は思ってならない。
それからミドロールはしばらくの間、兄妹からもらった手紙を読み返していた。
そうしているうちに時間はすぐに過ぎていく。
「ミドロール様、そろそろご予定のお茶会の時間ですよ」
「今すぐ行くわ」
ミドロールは結局侍女に呼び出されるまで、その時間を堪能するのであった。




