「お父様、お母様、私、二人の子供に生まれて良かった」―幼い皇女と、両親の秘密話⑦―
「やっぱりメロナールは可愛いわね」
マドロールは優しい言葉を掛ける。不安そうに瞳を揺らす娘を見ていると、安心させたいという気持ちでいっぱいのようだ。
「ねぇ、メロナール。前世がどうだったかなんて関係ないわ。今のあなたは私の娘だもの。寧ろ前世の記憶があるからこそ、あなたなのよね。もう、そんな辛い目に遭わせないと誓うわ。だから泣かないで」
続けられた言葉は何処までもメロナールに寄り添っているものだった。マドロールは、娘であるメロナールのことを大切に思っている。前世の記憶を持つからこそ、今のメロナールがあると分かる。
だからマドロールは母親として、前世の記憶も含めて受け入れるとそう告げているのだ。
(もう、お母様はずるいっ!!)
泣かないでと言われてしまっても、こんなに嬉しい言葉を口にされたらメロナールの涙腺は崩壊しそうになった。
嫌だからではない。悲しいからでもない。嬉しいからこそ泣き出しそうになった。
「メロナール、お前の昔の家族はろくでなしだったのだろう。今、俺の目の前に居たら、すぐさま排除したいぐらいには」
「……お父様? 何を物騒なことを言っているの?」
泣き出しそうになっていた涙が止まったのは、父親が何とも恐ろしい発言をしたからである。
「娘を悲しませる者など存在している価値がないだろう」
「お、お父様? 本気で言ってる? た、確かに私は前世の家族の影響で悲しい思いはしてきていたけれど……そんなことをしたら駄目だよ?」
メロナールがそう口にするのは、前世の感覚が根強く残っているからだろう。娘を悲しませたからなどという理由で本気で排除しようとしている様子に驚く。
(そ、そういえばロー兄様とルー兄様も似たようなことを言っていたかも……。やっぱり親子だから似ているのかな。それにしても本気で私の前世の家族が目の前に居たら、殺してしまいそう……!)
そんなことを思って、メロナールは動揺していた。
「あら、ヴィー様。駄目ですからね?」
だから母親が止めてくれてほっとしたものである。しかし次の瞬間には、メロナールはまた混乱した。
「排除するにしても正当な理由がなければいけませんわ。そうじゃないとヴィー様が悪く言われてしまいますもの。それだけは嫌なので、よく考えた上で行動してくださいませ。それに行動を起こす前に私に相談してほしいです」
「お、お母様?」
まさかの母親も、乗り気であった。とはいえ、マドロールはまだ処罰するに値する何かを行っていた場合のみ罰するようにと告げているのでまだ理性的であると言えるが。
マドロールも家族のことをどうしようもないほど大切に思っている。それでいて推しであり、愛しい夫の決定は絶対なので本気で止めることはあまりないが。そもそも止める理由も、それでヴィツィオが悪く言われるのが嫌だからというそれだけだ。
「そもそも流石のヴィー様も、異世界に向かうなど出来ないですから諦めましょう? ただもしメロナールの前世の家族のように娘を傷つけるような存在が居たらその時は親として対応をすればいいだけだもの。ね、ヴィー様、そうしましょう?」
にこにこと微笑みながらも、告げられるマドロールの言葉。それを聞いたヴィツィオも笑う。
「ああ。そうするか」
「はいっ。そうしましょう」
マドロールは頷くと、びっくりしているメロナールに話しかける。
「あなたが傷つくことがもう二度とないように、同じ思いをしなくて済むように私もヴィー様も全力を尽くすからね? だから、安心してね」
「う、うん」
「さっき、メロナールは私達が誰かに取られそうになったら嫌な態度をとってしまうかもと言っていたけれど、それも気にする必要は何一つないわ。寧ろ私達があなたを悲しませるようなことを何か言っていたのならばすぐに伝えてほしいぐらいだもの。もし私達がメロナールを不安にさせてしまうような行動をしていたらすぐに言ってね?」
「……お母様、ありがとう」
マドロールの言葉を聞いたメロナールはそう言って微笑む。愛らしい笑みだった。
メロナールの微笑みを見て、マドロールとヴィツィオはほっとした様子を見せた。娘がずっと悲しんでばかりなのは、二人とも嫌だったのであろう。
(ああ、お母様もお父様も……私に前世の記憶があろうがなかろうが関係がないんだ。私が私であればいいって、受け入れてくれる。それって凄く嬉しいことだ。……私がこの先、不安になることなんて必要ないんだ)
――両親の言葉を聞いて、メロナールはそう思えた。
何を不安がっていたんだろうと、そうも思う。それほどまでに両親は、メロナールという存在を愛してくれているのだから。
「お父様、お母様、私、二人の子供に生まれて良かった」
そして自然と口からこぼれ出たのは、そんな本音だった。
その言葉を聞いた二人は、笑う。
この日、メロナールは本当の意味で前世の記憶というものを受け入れた。そしてその苦しみを気にしないことにした。
だって、両親がこれだけ自分のことを愛してくれていると知ったから。




