「一人で歩けるのになぁ。確かにまだ小さくて体力はないけれど……」―幼い皇女と、両親の秘密話①―
「お母様、私、遊んでくる!」
「ええ。いってらっしゃい」
末っ子の皇女であるメロナールは、三歳になった。まだ帝国に帰ることは出来ていない。三歳の幼い身では移動に耐えられないからである。
そんなメロナールだが、二歳だった頃より人間関係が広がっている。
近所に住まう子供達とよく遊ぶようになっていた。もちろん、小さいので一人ではない。護衛を連れて出かけている。
マドロールが一緒に行かないのは、今日はヴィツィオが同行出来ないからである。相変わらず独占欲が強すぎるため、ヴィツィオが同行しない時は外に出ないのであった。なんとも徹底している。
流石に近所に住まう者達は、メロナールが皇女だということは知らない。ただし大きな屋敷に住んでおり、常に傍には護衛や使用人達の姿があるためお金持ちであることは分かっているが。
護衛騎士の一人に抱きかかえられているメロナール。
(一人で歩けるのになぁ。確かにまだ小さくて体力はないけれど……)
メロナールはまだ小さく、過保護に育てられているのもあり確かに体力は皆無である。歩いているとすぐに疲れたりする。
だけど自分の足で歩けるという場面でもこうして抱きかかえられることも多い。
ちなみに護衛騎士達は、メロナールのことを大変可愛がっている。皇帝夫妻の子供達の幼い頃も知っている者が多く、久しぶりの皇帝夫妻の子供だと抱っこしたがっている。大きくなったら抱っこもさせてもらえないから、期間限定で楽しみたいらしかった。
「メロナールちゃん、おはよう!」
「今日は何をする?」
そして抱きかかえられたまま向かった先は、公園である。メロナール達が住まう街の中心部に位置し、多くの人々でにぎわっている。
「おはよう」
メロナールはそう言って、騎士の腕の中から飛び降りると子供達の輪の中へと入っていく。
(こうやって楽しく遊ぶのも前世も含めてあまりなかったから、楽しいんだよね)
メロナールはよく子供達と遊ぶようにしている。前世の記憶があるので、メロナールは変わった子供であることは間違いない。
それにメロナールはとても愛らしい容姿である。
夜を思わせる美しい黒髪と、宝石のような赤い瞳を持つ。それでいてまるで天使のような可愛らしさを合わせ持ち、周りの子供達はメロナールを大変気に入っている様子だった。
メロナールは自分が先代皇帝夫妻の娘であり、現皇帝の妹であることは知っている。そんな立場であるならば、もっとしがらみなどがあるかと思っていたものの……そんなことは全くなかった。
寧ろのびのびと好きなようにさせてもらっている。
それでいいのだろうかとメロナールは不安になっていたが、両親には「まだ三歳だから気にしなくていい」とは言われている。
ただメロナールが学べることは学びたいといったら、家庭教師は雇ってくれた。
そういうわけで三歳でも学べるような簡単な礼儀作法の勉強をしつつ、それ以外の時間帯はこうして遊んですごしていた。
今は地面に絵を描いている。
木の棒を手に、土の上に皆で絵を描く。
(一人で絵を描くのも楽しいけれど、誰かと一緒に絵を描くのも楽しい)
メロナールはそんなことを考えながらにこにこしている。
その笑っている様子が愛らしくて、周りで見ている者達もほのぼのとした気持ちになっているようだ。
メロナールは前世の記憶もあるので、自分が愛されている感覚というのに鈍い。家族からの愛情に関しては散々向けられているので理解している。ただし他の者達からの好意に関してはそこまでである。
今世の自分が可愛らしい見た目をしていることは、鏡を見て理解はしているものの……周りの贔屓目で可愛いと言われている気もしておりちゃんとは分かっていない。
周りがメロナールの笑顔にときめいていたり、ほのぼのした気持ちになっていることも察していない。
「メロナールちゃ……」
また男に関しては、護衛達が睨みをきかせているので中々話しかけられない子供も多い。
前皇帝であるヴィツィオが「娘に近づく者は注意しろ」と言っていたので、その命令を遂行していた。
とはいえ相手はまだ子供である。騎士達の目があろうとも話しかける者は当然おり、メロナールとよく喋る男児もいる。
「メロナール、何描いているの?」
そう問いかけるのは、メロナールより二歳年上の青髪の少年である。名前は、トバイアム。
最近、メロナールと交友を持ち始めた少年である。
「お母様を描いているの!」
メロナールは元気よく答えた。
そう、メロナールが描いているのは女性の絵だった。そしてメロナールの身近な女性と言えば、母親であるマドロールしかない。
「そうか。メロナールはお母さんが大好きなんだな」
そう言ってトバイアムは優しい表情を浮かべている。
母親のことが大好きだと見て取れる幼女の姿は、大変愛らしいものである。だから周りも自然に笑顔になっていた。




