「ふふっ、ヴィー様のその優しい笑顔も私の特権ですものね。」―皇妃、記憶喪失編①―
ヴィダディ11歳ぐらいの頃の出来事
「ヴィー様、おはようございます」
「おはよう」
今日も今日とて、皇妃であるマドロールは満面の笑みでヴィツィオに挨拶をする。目を覚ましたその瞬間、目の前に愛しい存在が居ることに皇妃は幸せを感じてならなかった。
(ヴィー様は先に起きていらっしゃることもあるけれど、私が起きるまで待ってくださることも多いものね。もう、本当に……こうして毎日のように大好きな人が一番最初に視界に入るって最高だわ。それにしてもヴィー様って起きてすぐも完璧よね。こう……幾らでも見ていられるっていうか。それに私には挨拶を返してくださるし、その声を聞いているだけで嬉しい)
マドロールはじっと、ヴィツィオのことを見つめている。こうして無言のまま皇妃が皇帝を見つめるのはよくあることである。ヴィツィオもいつものことだと思っているのか、特に反応は示さない。
(寝ぐせの一つもないわ。私が起きる前に整えたのかしら。ヴィー様ってば、そういうのを恥ずかしがるものね。私はヴィー様の髪に寝ぐせがあったら、それはそれで可愛いと思ってしまうけれど!! ヴィー様って基本的に完璧な方だけれども、時々見せる抜けている部分も本当に素敵なのよね)
夫のことが大好きでたまらない皇妃は、ひたすらに皇帝のことを考えている。いつものことである。
「ねぇ、ヴィー様」
「どうした」
「ちょっと屈んでください」
マドロールが思い立ったようにそう言うと、ヴィツィオは言われるがままに屈む。
そうすればマドロールの目の前に、ヴィツィオの顔が丁度くる。その美しい顔が近づいてきて、マドロールは「はわわ……」と謎の声を上げそうになっていた。
「今日のヴィー様も、どこからどう見ても完璧ですわね。かっこいいです。何だろう、いつまでも見ていたい気持ちになりますわ。ちょっとだけ、頬に触れても?」
「幾らでも触ればいい」
「……では、失礼しますわ」
そう言ってマドロールはヴィツィオの顔へと手を伸ばす。そのすべすべの頬に手をやり、触り心地を堪能する。
マドロールは許可など得なくても、ヴィツィオに触れることが出来る唯一の存在である。しかし基本的に皇妃は、律儀に確認をしてばかりである。
(ヴィー様の顔にこんな風にぺたぺた触れられるなんて贅沢なことだわ。それにしても幾らでも触っていたくなる……! ヴィー様がこれだけ見た目に気を遣っているのも、私のためなのよね。元が良いのは当然なのだけど、私がヴィー様の見た目を大好きなのを知っているからって、私に好かれたままがいいって思ってくださっているの。本当にそういうところが可愛い……っ!! 私にだけは嫌われたくなくて、私に好かれたままがいいからってそんな努力をするなんて本当に天使か何かみたいよね。私はヴィー様がヴィー様であるのならば、どんな姿だって受け入れられるのに。ああもうっ、好き!! 大好き!! かわいいぃいいいいいい!!)
ヴィツィオの事を考えて、今日も元気にマドロールは悶えている。心の中がどうしようもないほど騒がしい彼女であった。
「ヴィー様、大好きっ」
そして漏れたのは、そんな言葉である。
ヴィツィオと関われば関わるほど、マドロールは大好きだという気持ちが溢れて仕方がなかった。
一緒に過ごせば過ごすほど、愛おしいという気持ちがわいてきて仕方がないのだ。
「そうか」
「はい。朝から私は幸せ者だなと思いましたの。こうして起きた時にヴィー様が私の傍にいらっしゃることが、本当に嬉しいんです。ヴィー様も、そう思ってくれていたら嬉しいですわ」
「当たり前だろう、俺も幸せだ」
「ふふっ、ヴィー様のその優しい笑顔も私の特権ですものね。その表情を見ているだけでも、私は自分がなんて恵まれているのだろうってそればかり思いますわ」
にっこりと微笑み、マドロールが告げる。それを見たヴィツィオは、愛らしい表情の妻に口づけを落とす。
マドロールは、結婚して何年経ってもこうやって素直に自分の気持ちを伝えてくる。それでいて、その重すぎる愛情は曇ることはない。まっすぐにヴィツィオのことだけを見つめ、「愛している」とその言動が伝えている。
そんな皇妃だからこそ、『暴君皇帝』と呼ばれている男が溺愛しているのだ。
「も、もうヴィー様。朝から激しいですわ! ほら、朝ごはんを食べに行きましょう? ヴィダディ達を待たせていますもの」
深い口づけをされ、マドロールは息を荒くしながらもそう口にする。
そう、子供達が待っている。朝食の時間に差し掛かっているので、このままいちゃいちゃして時間を消費するわけにもいかない。
「別に、待たせてもいいだろう」
「ヴィー様ってば……。って駄目ですわよ? そんな目で見られたら頷きたくなりますけれど……!! でも朝食を取るんですからね? また夜にでも可愛がってくださいませ!!」
マドロールがそう言って説得をすると、ヴィツィオは頷いた。
それから皇帝夫妻は、寝室を後にして食堂へと向かうのであった。
――朝食の場に彼らは少し遅れて到着したわけだが、子供達からしてみればよくあることなので特に気にした様子はなかった。




