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捨てられる予定の皇妃ですが、皇帝が前世の推しだと気づいたのでこの状況を楽しみます! 関連話  作者: 池中織奈


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「どうせ、父上が何かしようとしても母上が止めるから大丈夫。」―皇太子の友人による皇帝夫妻観察記録⑤―

『私と陛下のことを調べているのでしょう? 私本人から、話は聞きたくないかしら?』



 ――そんな伝言をジャダッドが受けたのは、皇帝夫妻について調べ始めてしばらくしてからだ。

 まさかの、皇妃本人からの言伝てである。




 ちなみにジャダッドが皇帝や皇妃と話したことなど数えるだけである。ヴィダディとは親しくしているものの、必要最低限の交友だ。まだヴィダディの弟妹達との方がよく会っている。



 そもそも皇族や貴族なんてものは、家族関係が希薄な場合が多いのだ。ジャダッドもそう言った話を聞いたことがある。だから皇族でありながらこれだけ家族と交流を深めているヴィダディは珍しいとは言える。

 平民ならばもっといつでもそばにいるものであろうが、皇族だと下手したら一か月に数度会えばよい方な事例もある。ヴィダディは基本的に食事は家族で摂るようにしているようだが。




(……皇妃様から話は聞きたいけれど、陛下って異性が皇妃様に近づくの嫌がりそうなんだよなぁ。どうなんだろう? 俺が興味本位で皇妃様と話し込んだら、機嫌を損ねたりするか?)




 ジャダッドは好奇心のままにいくなら、そのまま皇妃に話を聞きにいく。

 ただしもしそこで皇帝の機嫌を損ねれば、何がどうなるか分からない。そこでジャダッドが皇帝から首を刎ねられるなんてことになったら、ヴィダディが悲しむだろう。もちろん、そんな風にするつもりはないが。

 ただしヴィダディには軽い調子で言われた。




「別に話ぐらい聞きに行けばいいだろう。ジャダッドが母上に懸想でもしているなら別だけど、そうじゃないなら父上は流石に我慢するはずだ」

「……我慢する、なんだな」

「うん。だって父上は母上の傍に男が近づくのって嫌がるから。私達にも嫉妬するぐらいだし」

「子供に?」

「そうだ。自分にも構ってほしくなるらしい。母上はそんな父上のことを可愛いなんて言ってるから凄いなとは思う」




 ヴィダディから言われた言葉に、納得するジャダッドである。



 皇帝は独占欲が強く、それでいて気に入らない存在は早急に排除するだろう。それこそ手の付けられない猛獣のようなイメージだと、ジャダッドは思う。

 そんな存在を相手に、「可愛い」などと言えるものがどれだけいるだろうか。近くに居ればいるほど、皇帝であるヴィツィオがどんな人間か分かるだろう。



「どうせ、父上が何かしようとしても母上が止めるから大丈夫。母上は私の友人に何かあるのを望んでいない。そして父上は母上が悲しむことは絶対にしないから、心配する必要は何もない」



 そう言い切るヴィダディの言葉は両親のことをよく知っているからこそのものだろう。

 結局、ヴィダディの言葉を聞いたジャダッドは皇妃の申し出を受けることにした。友人の母親ときちんと喋ってみたいという好奇心があったからというのはある。

 そのことを軽い調子で家族に言うと、父親も母親も大変驚いた様子を見せていた。

 それにジャダッド以上に慌てふためいている。




 ……ジャダッドがヴィダディと交友を持つようになってしばらく経つにも関わらず、本人より周りの方が取り乱している。




「こ、ここここ皇妃様と個人的に話す? 大丈夫なのか?」

「あー、大丈夫だってヴィダディが言っていたから大丈夫だって」



 ジャダッドの父親は、軽い調子で皇太子を呼び捨てにする息子にいつも挙動不審である。



「しかし、皇帝陛下は皇妃様に近づく存在のことを許さないはずだ。それなのにそんなことをするなんて自分の命が惜しくないのか?」

「相変わらず心配性すぎるだろう。大丈夫だって。そもそも俺が死んだりしたら、ヴィダディが悲しむからそんなことは起こらないって。それにちょっと話すだけだし、そんなに怖がってばかりだとどうしようもないじゃんか」



 そんな風に何度もジャダッドが口にしても、相変わらず父親は小言を言っている。




 やっぱり心配性で仕方がないのだ。




(皇妃様に何を聞きたいか、どんな話をしたいかは考えておかないとな。話せる時間は限られているだろうし、こんな機会、毎回あるわけではないし。というか途中で中断することもきっとあるだろう。……そうなるとどうしようかなぁ)




 ジャダッドは父上の言葉を聞きながらも、先の未来のことを思考している。

 限られた時間の中で、何をどうするべきだろうか。上手くやらなければ皇帝の機嫌を損ねる可能性があるにも関わらず、ジャダッドは能天気である。

 そもそもそうでなければ、ジャダッドはヴィダディとこんな風に付き合っていくことは出来なかっただろう。



 心配性だったり、皇太子と交流することのデメリットばかりを思い浮かべてしまうタイプの人間だったら気を病んでしまうのは想像が出来る。




「聞いているのか、ジャダッド!」

「はいはい。だから大丈夫だって。寧ろ俺が何か失敗しても、素知らぬ顔してくれればいいから。俺は上手く皇妃様ともヴィダディとも話して、陛下の機嫌を損ねないようには絶対にするし、心配は要らないけれどな」




 そう言って笑うジャダッドが皇妃と直接話す場が整えられたのは、それから一週間ほど後のことだった。


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