「失敗するような結婚生活はしたくないし」
ヴィダディ結婚後の双子皇子
「あの魔物、俺がやる」
「じゃあ、あっちは片付ける」
そう言いながら意気揚々と、魔法を使うのは帝国の双子皇子であるロッツィオとルッツィオである。
帝国内で人を襲う魔物が出現した際、皇子という立場でありながら彼らはすぐに前線に立とうとする。それは本人たちが、帝国内の平和を守りたいと願っているからだ。
ロッツィオとルッツィオは皇位を継ぐことのない皇子である。国によってはそんな立場の者達は自棄になって腐っていく者もいるだろう。国への愛国心を失ったり、血の繋がった兄妹を蹴落とそうとしたり。
そういうことが起こらないのは、双子の皇子たちは十分に家族達から愛されて育ったからだ。
いまだにロッツィオとルッツィオに、ヴィダディを蹴落とさないかと話を持ってくる愚か者はいるものの、その誘いに彼らが乗ることはなかった。
「ロッツィオ殿下、ルッツィオ殿下、お疲れ様です」
魔法による魔物の命を刈り取った彼らに近づくのは従者の男性だ。こうして魔物討伐に向かう二人には良く付き合っているので、すっかり慣れたものである。
「他に魔物被害が出ている地域はあるか?」
「近くならまとめて片付ける」
帝国内には当然、魔法を使える者も居ないわけじゃない。彼等ももちろん、帝国内で荒事があれば出動している。
皇帝に仕える魔法使いたちは当然優秀だが、それに引けを取らない……いや、それ以上の才能を双子の皇子たちは持ち合わせていた。
その才能があるが故に、彼らを担ぎ上げようとする者達もいるわけだ。
その魔法の才能が発覚した当初、隠すか隠さないかというのは先代皇帝夫妻の間では話し合いが行われたらしい。ヴィツィオはどちらでもいいという態度だったが、マドロールは子供思いなので「隠すか隠さないかでこの子達の将来が変わりますから」と一生懸命悩んでいた。
本人達と希望と話し合いの末、その才能は隠さないことが決まったのだ。
ロッツィオとルッツィオは両親がそんな選択をしてくれたことを感謝している。魔法を使うことを隠して生きて行くというのは、二人からしてみると窮屈な日々になっただろうから。
「そうですね。西の村から要請が来ているので騎士達は向かう予定ですが」
「なら、俺達も行こう」
「ああ。そこも片付けておきたい」
ロッツィオとルッツィオは生意気だったり、不遜な様子を見せたりはする。しかし皇族として人気なのは、帝国民を守るために行動を起こしているからだろう。
だからこそこの双子皇子は大変、人気が高い。それでいて婚約者も居ないので、彼らを狙っている者はかなりの数が存在している。ちなみに二人と一緒に居たいからという理由で、騎士や魔法使いとして皇帝に仕えようとする者もいるぐらいである。もちろん、不順すぎる動機のものは省かれているが。
竜騎士に乗せてもらってから、場所を移動する。
二人は竜騎士としての才能はないので、こうして竜を乗りこなす者を見ると羨ましくなることも当然ある。ただ持ってない才能を羨んでも仕方ないと思っているが。
村に接近していた魔物も対処しておく。村娘たちの一部からは熱い視線を向けられていた。
泊まることを望まれ、ハニートラップをかけられそうにもなる。村娘たちからすると、一時の遊びでも構わないので手を出してほしいとそう思っているようだ。
それらに引っかかるような二人ではないため、さっさと対応を済ませていた。隙を見せないようにしながら、周りを不快にさせないように、断っていく。
「なんかさー、兄上が結婚してから俺達に対するこういうの増えたよな」
隣にいるロッツィオに向かって、ルッツィオは面倒そうに言う。
皇帝であるヴィダディがランジネットと婚姻を果たしたのはつい先日のことだ。これまで皇妃という立場を狙っていた者達はすぐに双子皇子を狙い始めていた。そういった点は皆、したたかである。
「まぁ、仕方ないだろう。俺達も相手を見つけることが出来ればハニートラップはなくなるだろうけど」
「そうはいっても一生、過ごしていきたい人となると難しいよな。失敗するような結婚生活はしたくないし」
「それはそう。でも父上や母上や兄上たちも俺達に結婚は強要はしないだろうから、いっそのこと結婚する予定がないとか思わせてもいいかも」
「あ、それあり!」
双子の皇子たちは楽し気に、そんな会話を交わしている。
まだまだ結婚することなど全く考えていない二人で会った。
そんな双子が互いの相手と出会うのは、まだ先のことである。




