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捨てられる予定の皇妃ですが、皇帝が前世の推しだと気づいたのでこの状況を楽しみます! 関連話  作者: 池中織奈


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「そんなに緊張しなくて構わないわ。私も小説を読むのが好きなのよ」―ヴィダディの花嫁探し編③―

「素敵な小説が沢山だわ……!」



 ランジネットは花嫁候補としての務めの空き時間に図書室に来ていた。どこまで自由にしていいか分からないものだったのだが、確認をしたところ問題ないと言われたのだ。

 それならば素敵な小説があるのではと、ランジネットは此処にやってきた。



(前皇妃様であるマドロール様は小説もお好きだと聞いていたから予想はしていたけれど……!! こんなにも面白そうな本が沢山あるなんてっ)



 ランジネットは小説を読むことが好きである。勉強は正直言って、そこまで好きではない。特に好んでいるのは恋愛小説で、素敵な物語を読むと幸せな気持ちでいっぱいになるのだ。

 祖国に居た頃も、読みたい本を集めてはせっせと読んでいた。

 しかし限界というものはある。




 これだけこの図書室に小説が沢山あるのは、他でもない前皇妃であるマドロールがそれらを読むことが好きだったからである。マドロールの好きなものを『暴君皇帝』は幾らでも買いそろえるのである。

 だからこそこれだけの量が此処にはある。




(読んだことのないものも沢山あるわ。帝国に滞在中にすべてを読むことは出来ないだろうけれど……読めるだけ読みたいわ)



 ランジネットはそんな気持ちでいっぱいで、目を輝かせている。

 持ち出し許可も得ているので、幾つか選んで部屋に持ち帰ろうと思っている。



 この場で読むことも当然出来るのだが、ランジネットは甘いものを食べながらゆっくり過ごしたいと思っている。図書室内では飲食は基本的には厳禁である。最低限なら許されるだろうが……、あまり規則は破りたくないのである。



 そういうわけでせっせと小説を選ぶランジネット。

 その最中で、一人の女性が目に着く。




(あれは……ミドロール皇女殿下?)



 そこにいたのは帝国の皇帝の妹――ミドロール皇女殿下である。




(挨拶だけはしておかないと……!)



 流石に気づいておきながら挨拶をしないなどという選択肢はない。そういうわけでランジネットはミドロールに近づくと、恭しく頭を下げる。




「ごきげんよう。ミドロール皇女殿下。私はランジネットと申しますわ。ヴィダディ殿下の花嫁候補の一人です」

「あら、そうなのね」



 ミドロールはランジネットの言葉を聞いて、口元を緩めて微笑む。



 ミドロールは、この国の第二皇女である。ヴィツィオ譲りの黒髪と、黄色の瞳を持つ。冷たい印象を与える美しい女性だ。ランジネットと同年代のはずだがずっと年上に見える。



(なんて美しい方なのかしら! 私が同年代よりも背が低くて幼く見えるからというのもあるだろうけれど……私はこれ以上背は伸びないだろうから少し羨ましいわ)



 そんな気持ちでいっぱいのランジネットは、そのまま頭を下げて本を選ぶのを続ける。本を読みに来たミドロールの邪魔をする気は全くないらしい。

 そんなランジネットに、ミドロールは興味を持ったのかじっと観察していた。

 本を幾つか取ろうとするランジネットは、背伸びしても目的のものがとれずに一生懸命つま先立ちをしている。




「ふぅー」



 結局手が届かなくて、台を探そうときょろきょろするとミドロールと目があう。



「ふふっ、私がとってあげるわ」



 そう言ってミドロールは笑うと、ランジネットの取ろうとした本を手に取ってくれる。





「あ、ありがとうございます」



 そう口にしながらもランジネットは、皇女殿下の手を煩わせてしまった……と顔色が悪い。


 皇帝であるヴィダディは、弟妹達のことをそれはもう大切にしている。彼らに何かあればすぐさま動くぐらいには。

 だからこそ至らない行動をしてしまわないかと、緊張して仕方がないのだ。





「いいのよ。それにしてもあなたは小説を読むのが好きなの?」



 そう問いかけられて、「話しかけられた!」と萎縮しているランジネット。その様子は身長が低いのもあり、小動物のように見える。




「そんなに緊張しなくて構わないわ。私も小説を読むのが好きなのよ。だからちょっと気になって。お話する時間はあるかしら?」

「も、もちろんです」



 皇女であるミドロールからそのように話しかければ、頷くほか何もない。恐る恐るといった様子のランジネットに対して、ミドロールは穏やかな表情だ。



(無表情だと冷たい印象だけど、笑っているとミドロール殿下はそんなことないわね。それにしてもまさか図書室でお会いしてお喋りすることになるなんて……!)




 そんなことを思いつつ、ミドロールと向かい合って座ったランジネットはしばらく小説の話で盛り上がることになった。

 本人が言っていた通りにミドロールも小説を読むことが好きらしいというのはランジネットにも伝わってくる。




「ヒーローである騎士の方がとてもかっこよくて……! 私は55ページ目のシーンが好きですね」

「分かるわ。私もそのシーンが好きなの。あとは攫われた主人公が助けるシーンも素敵だわ」



 気づけばランジネットは、緊張もなくしてそう言って意気揚々と話していた。好きなものについて話せるのが嬉しいのだろう。



「好きな小説について話せると楽しいわね。あなたと会えてよかったわ」

「そう言ってもらえて光栄です。では、私はそろそろお暇しますね」



 ランジネットがそう口にすると、ミドロールは一瞬驚いた顔をする。


「どうかなさいましたか?」

「……いえ、あなたはお兄様についてお聞きにならないのだなと思って。花嫁候補の方々は私に会うといつもお兄様のことばかりだもの」



 ミドロールは少し言いにくそうにそう言った。


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