「……最初はそうだが、今はマドロールが一番大切だ」―二人の皇子がやってくる⑧―
「そんなに何度も?」
「ええ。最初の結婚式は……私とヴィー様は政略結婚だったから簡素なものだったわ」
「え?」
メロナールはマドロールの懐かしむような言葉に不思議そうな顔をする。今、とても仲良しである両親が政略結婚と言われてもぴんと来ていないらしい。
「母上と父上、最初は好きあって結婚したわけじゃないらしいんだ」
「今の様子を知っていると、全く想像出来ないよな」
ロッツィオとルッツィオはそう言ってにこやかに笑っている。
「……最初はそうだが、今はマドロールが一番大切だ」
「うぐっ」
子供達からじっと見つめられたヴィツィオの言葉に、マドロールが思わずといったように変な声を上げた。子供達の前だからと必死に抑えているようだが、ヴィツィオの言葉に興奮しているようだ。
「そうなんだ。……それで、何回も結婚式しゅーかんっていうのをやったの?」
メロナールはマドロールのおかしな様子には気づいていないらしい。それよりも結婚式週間に対する興味でいっぱいのようである。
「そうよ。一度目は簡素だったから、二回目は私の家族――お父様やお母様にお兄様に妹たち、それに友人達なども呼ぼうという話になったの。結婚一周年で行おうとしていたのだけど、丁度ヴィダディ……あなたの一番上のお兄様を妊娠していたから二年目で行ったのよ。ヴィー様がね、私の望みは叶えてくれるってそう言ってくださったから。それでね、十年目も行ったし、ヴィー様が皇位をヴィダディに渡す前にも行ったのよ」
にこにこしながら、マドロールはそんな風に説明をする。
マドロールの言葉を聞きながら、メロナールは不思議な感覚になる。
結婚式というのは、一度だけ行うのが普通である。余程仲良い夫婦に関しては、何度も行う事例もあるだろうが。
「そうなんだ。おかーたまとおとーたまは、そんなに昔から仲良しなんだね」
「ふふっ。本当に幸福なことにヴィー様が私のことを愛してくださったの。私はずっと夢みたいな日々を暮らしているの。本当に今でもふと、冷静になるとこんな奇跡が起こってもいいのだろうかと思うことがあるぐらいだもの」
目をキラキラさせてそんなことを告げるマドロール。
(……お母様っていくつなんだろう? ちゃんと聞いたことないけれど、それなりにお年は召しているはず。でもなんというか、凄く若々しい。それこそお父様もそうだけど。それでもお母様ってなんというか、いつだって生き生きしていて元気なんだよなぁ。結婚して時間が経過していても少女みたいな無邪気さがあるというか……)
そんなことを思いながらメロナールはじっと、母親のことを見る。
その様子を見ているだけでもどれだけマドロールがヴィツィオのことを愛しているかというのが見て取れる。
「母上、夢みたいなわけないでしょ」
「うん。夢だったら俺達居ないし。本当に母上は父上のことが好きだよね」
双子の皇子はそう言って笑うと、メロナールの前に結婚式週間の本を広げる。そこにはマドロールとヴィツィオの絵が描かれている。
その絵があまりにも本人にそっくりで、メロナールは絵が上手いなと感心する。
「この絵、凄くいいね。おかーたまの表情、生き生きしている」
「そうだよな。これ、リンビーナが描いたんだ。あ、リンビーナっていうのは、画家だよ。母上と昔から仲良しなんだ」
「へぇー」
メロナールはそう言いながら嬉しそうに最初のページを開く。そこにはあるで小説かなにかの人物紹介のように絵と紹介文が書かれている。
(書かれている言葉がとても賛美に満ち溢れていて、少し過剰な感じだわ。なんというか、私だったらちょっと恥ずかしくなっちゃうかも。あ、でも私も皇女って立場ならこんな風に書かれたりすることあるのかな?)
そこに書かれている言葉が、皇帝であった父親と皇妃であった母親への賛美が並べられている。それを見ていると自分のことは書かれていないにも関わらず、なんだか恥ずかしくて、むず痒い気持ちでいっぱいになっている。
(お父様、凄い人だったんだなぁ。そもそも帝国が大変な状況だったりしたらお兄様達がこんなところにまでこれないし、お父様達だってのんびりとした隠居生活なんて出来ないだろうしね。それにしてもこんなところにまで『皇妃をとても愛していた皇帝陛下は、何度も結婚式を行った』なんて書かれているし。こういう本があることを考えると、お母様とお父様の仲の良さが国中に広まっている感じなのかなぁ)
それを考えると凄いなと、メロナールは素直に思ってしまう。地図で見た帝国はとても大きかった。
その帝国で一番偉い立場だった両親。それでいてこんな本があるということは、それだけその仲睦まじい様子が広まっていることが分かる。
メロナールは黙ったままページをめくっている。
「これ、なんて読むの?」
分からない単語は訊きながら、楽しそうにメロナールはその本を読んでいる。それらを兄二人が教えている。
「仲良しでとてもいいことですね、ヴィー様」
「ああ。そうだな」
そしてその様子を、マドロールとヴィツィオは穏やかな表情で見ているのだった。




