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26話
坂道を滑り、自転車を降りる。あの日以来、時間がそっくりそのまま止まっているプレハブ小屋は、明るい陽射しの中で、もの寂しげに佇んでいる。小屋の扉を開けて中に入ると、何もなかった。ここに来れば、何かが変わるような気がした。少しでも綺麗な思い出に縋れると思った。そんな上手くはいかないものだ。あの時よりも狭く見える箱の中に僕はただ思った。
ああ、全ては終わったんだ、と。
プレハブ小屋の扉を閉め、僕は帰ろうと自転車を停めていた所に向かうため一歩足を投げ出す。すると、地面の上に何かが転がっている。拾い上げてみると、小さな髪留めだった。僕は、それが律のものであるという事がすぐに分かった。
僕はしゃがみこむと、ピン留めの先端を地面に突き刺し、方向転換をしながら小さく掘っていった。
会イタイ――。
地面に刻まれた誰にも届かない文字に、僕は一人で微笑んだ。春風が忙しく頬を撫でる。これからも季節が続いていくと、僕に物語るように。




