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あれから数十年が経った。大人になった僕は、あの時の痛みも、楽しさもまるっきり忘れていた。今、僕は福祉関係の仕事をしている。思った通りの大人になれているかといえばそうでもない。だけど、これはこれで僕にとっては、満足のいく生活だった。
生活のためだけに働いて、寝て、また生活のために働く。あの日の出来事自体を忘れた訳ではない。ただ、若かった。もう一度、叶うのなら海斗と律に会いたい。二人は今、どこで何をしているのだろう。律は、結婚しているのだろうか。
僕は時折、あのプレハブ小屋へ行く。月日が経つ程、小屋は徐々に色あせていた。律の髪留めはずっと無くさないように、僕の部屋の引き出しに閉まっておいてある。
僕はプレハブ小屋へ行くたびに、律の髪留めで、地面に意味の無いメッセージを掘った。誰にも見られる事は無い。それでも僕は、二人にメッセージを伝え続けた。
八月の真夏に、僕はまた文字を記すためにプレハブ小屋へ行った。だが、僕の足はプレハブ小屋へ近づく前に固まった。
「おい、久しぶり」
そこには、あの時とまるっきり変わらない海斗の姿があった。僕は驚きを隠せずに、足を震わせた。
「海斗……?」
そこに居たのは海斗だけじゃない。後ろからひょこっと現れたのは、セーラー服姿の律だった。律は笑顔を浮かべている。暫く見ることがなかった、無邪気な頃の笑顔だった。
「久しぶり!謙一」
変わらない二人の姿に、僕は思わず大声を出して駆け寄った。
「……律!海斗!」
「会いたかった、謙一」
律はそう言って、僕の体を抱きしめた。
「また三人で一緒に遊ぼう」
海斗が笑いながら言うと、僕に手を差し伸べた。それから律も遅れて手を伸ばした。僕は深く頷きながら二人の手を握った。
気がつけば、あの頃の青春時代の姿に戻っていた。そしてこれから、また僕らは青春を始めるのだろう。終わることのない青春を。
ようやく僕の耳には、蝉の鳴き声が聴こえてきた。
あとがき
青春は、人それぞれ色んな形で思い出に残っていると思います。様々な痛みを受けて、大人になっていき、いつしか忘れてしまうこともあるでしょう。
学生時代、この時が永遠に続くのではないかという絶望が毎日ありました。同時に希望も。不確かな不安と自信が交互にやって来ました。
ですが、考えてみれば大人になっても同じ事で、毎日が成長の繰り返しです。
許すということ。大人になるということ。成長するということ。変わらないということ。全て自分だと受け入れて、僅かでも青春といえるものを自分の中で楽しめばいいのだと思います。
だから、一緒に今を楽しんで生きましょう。
この物語を描くこと、それが今私にとっての青春です。




