目的
突然、航平の肩に手を置いて覆いかぶさった。
航平は目を見開いた。
同じだ。かつての唇が重なる。
噛み付くようなキスだった。
怖い…っ。
陣はがむしゃらに航平を抱きしめると、息が出来ないように唇を塞いできた。
憎まれているとしか思えないキスに、航平は両手をばたつかせたが、びくともしない。
息が出来ない。苦しい。死ぬっ。
航平の目から涙が溢れた。抵抗をやめると、ふっと息が出来た。
「けほっ。ごほ…っ」
空気が肺に入ってくる。
「お前、何しに来たんだ…」
掠れた声だった。
航平は涙が止まらなかったが、何も言えなかった。
会いたかった、との声が出せなかった。
「拓巳と連絡を取っていたのは知っていた。なのに、どうして俺のところに来た。お前は俺を憎んでいるんだろう?」
その言葉を聞いて目の前が真っ白になる。
「お前が好きなのは拓巳だろう?」
違う。
自分は、拓巳の真似をすれば、陣が好きになってくれると思ったからだ。でも、うまく説明できない。
今、言っても信じてもらえない気がした。
「や、やり損ねたからだよ」
「は?」
「最後までやらなかっただろ。続きがしたくてうずうずしてたんだよ。だから、追いかけてきたんだよ」
「この…エロガキ」
陣が鋭く睨みつけた。
航平は無我夢中で首にしがみついた。
陣は拒まなかった。
涙が口に入ってしょっぱかった。
「泣くな」
陣が言って体を離す。
「もう寝ろ」
それきり何もしなかった。