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第55話 ダイヤモンドナイト

「ときに……ここには何の目的で? ise会といえば、もはや一般的なクランの規模を大きく超えた巨大組織だ。中でも構成員には異世界の民、そうチキュー人たちが多く属しその末端までが質の高いエリート揃いと聞くよ。そしてこの同じ会場にいることこそ、僕自身、疑いようのない組織の強さを感じるといったところだが?」


 互いに簡易な挨拶を終えた立ち話の途中、サイトは石鹸の小箱にマジックでサインをしたためつつも、そう質問を投げかけた。ピンク髪の男はとても落ち着いた口調ながらも探りを入れる視線を、ise会のクラン章を身に纏う彼らに静かに向けている。


「私たちはあくまで支部。シロツメ支部はまだまだ無名ですので、競争を勝ち抜くためise会の中で存在感を示す必要があります。この葬魔七曜血選、七日間の舞台への出場要請を請け負うのはうってつけのタイミングと言えました」


 ミタライは、はっきりと述べた。巨大組織ise会の中でも八大本部と冠されるサイカン本部の強力な後ろ盾を得るために、現在立場の危ういシロツメ支部がこの裏の祭典への参加を了承したのは事実。事務的な返答ながらも嘘をついてはいない。


「あぁ、なるほど? そういうことなら僕たちダイヤモンドナイトと似たようなものだ。実はこちらもラミ様のために何か一つ成果を上げようと思ってここに来た次第だ」


「ラミ様?」


 円卓の端にいたタイキが怪訝そうに首を傾げた。


「イダイヤで一際目立つ王女様のことだろう。まだ若いがとても美しく強かで聡明な方に育ったと聞く。しかし美しさの反面、今はイダイヤの情勢はかなり澱んでいるとも聞くね。求められる成果のハードルも比例して高いのでは?」


 異世界の地球出身であるタイキ、まだここ世界ガライヤに来て間もない彼が彼女のことを知らずとも無理はない。アキトは自分の知りうる王女像を簡単に語りつつも、現在イダイヤ国の直面する不穏な情勢について目の前に立つ有名人に逆に伺うことにした。


「ははは、そうだとも。お忙しいのか中々お会いになってくれないのだ。まぁ北方のディスペリア王国と少しぎくしゃくした状況ではあるが、僕たちは直属の軍隊ではなくしがない冒険者クランだからね。王女様の私兵でも国軍でもない。比較的に自由に動けるからこそ、こういう外の派手な舞台でイダイヤの強さと威信を示し少しでもお役立ちしたいのさ」


 不穏な情勢下にあることを認めつつも、サイトは冒険者クランである自分たちの置かれた立場と内情、そして葬魔七曜血選への参加理由をさらに詳しく明かした。


「でも、シロツメ支部ということは君たちはバークローズ王国を拠点に活動しているんだろう? 今は中立国を謳っているが……事が起これば、どちらにつくのかほんの参考までにお聞かせ願いたいが?」


 その美男は浮かべた甘い微笑の仮面で参考までとは言うものの、それは魔物狩りを生業とする冒険者クランに属する者たちにとっては少し踏み込んだ政治の話だ。


「そうだね? 脳内シミュレーションになり恐縮だが、まぁ勝ち馬に乗るなら順当にディスペリアだろうね。バークローズとディスペリアは双方今も貿易も盛んで仲がそこまで悪くはない。それになんと言っても強力なギフト持ちが多い、ジブンが知りうる限り騎士団の練度も主要四王国の中で一番高い。優れたギフトと高い武力の誇示によって領土を拡大していった国だからね。いくら中央に位置するバークローズの土地が他国よりも広大とはいえ戦慣れした彼らに歯向かうのは怖いよ。だからバークローズは盾を構えた、国旗にも盾を構えた騎士の姿が描かれているのは笑えるだろう? ま、それはさておき……対してイダイヤはミラーツールの鍛造技術で栄えた技術国だ。最近だと武器への転用技術も急ピッチで研究が進んでいると聞くが、それほどだろう? ──やはり、ギフトに勝るものはないと見る。というかジブンはそっち派だね」


 皆の囲む円卓を、まるで推理するように説きながらぐるりと一周した。そしてまた元の場所へと歩き戻ったアキトは、目の前のピンク髪の冒険者へニヤリと意味深にも微笑んだ。

それはそれはなんとも歯に衣着せぬ言い様で、四王国の力関係をご勝手に長々と分析してみせたのだった。


 敵対心があるとも受け取られかねないアキトの言動を耳にし、驚いたリリスや他の団員たちが緊張の面持ちに変わる。今悠然と正面に立つ黒髪の男を睨むサイトのことを、皆は静かに窺う様に見つめた。


「はは、本当に強いのはギフトか武器か……それは興味深い視点だね。しかしそれもまた事実。だからこそ、こちらも事が起こらないように尽力しているつもりだよ。──ありがとう、率直に語ってくれたようでとても参考になった。君みたいな聡明なファンが他にいると知ると心強いね」


 アキトに向けられていた冷徹な瞳が、すぐに晴れやかな笑みに変わった。サイトに怒りを露わにしたような雰囲気は微塵も感じられない。それどころかアキトの語りに少し同調するような姿勢もみせた。


「あはは率直さがジブンの売りだからね、どういたしまして。ところで闇市でなにか説得材料でもお探しかい?」


「ただのお土産探しだよ。はは、ではまた明日。木曜の神技でも互いの健闘を祈る。シロツメ支部の皆様方」


 シャンデリアの明かりの下で艶めくピンク。純白のマントの背を向けてダイヤモンドナイトのクランマスターが、お邪魔していた円卓の宴の席をそう言い残し颯爽と去っていく。


 辺りをただよう嫌な石鹸の匂いが、ワイングラスをテーブルに置いた黒髪の道化師の鼻をついた────。

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