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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第一幕『いばらの王』編
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001.DESTINY ROSE

 これまでのあらすじ。


 昔々あるところに、どこにでもいる男子高校生より少し理科が得意な風早(かぜはや)(あかつき)という少年がいました。彼はある時、「後天性細胞硬化症候群」という不治の病に侵されていることを知らされます。


 いつ発症するか分からない病気の恐怖を乗り越え、毎日を正直に楽しく生きようと決意した彼でしたが、なんと! 病を治せる可能性が出てきたのです。


 それはコールドスリープで治療法が確立するまで眠ること……。母親との別れはつらいけど、きっとまた会えると信じて風早暁は眠りにつくことを決めたのでした。


 あらすじ終わり。


 その日、風早暁がなにか気がかりな夢から目を覚ますと、自分が棺桶の中に入れられていることに気が付いた。いや違う、とすぐに自身の認識を改める。自分はコールドスリープ用のカプセルに入れられているのだ。寝ぼけた頭が回転をはじめ、状況の把握をはじめる。

 暗闇の中、手を動かしてもほとんど伸ばすことができずに冷たく硬い金属製の壁に当たってしまう。コールドスリープから目覚めたら自動でハッチが開くと聞いていたが、これでは話が違う。しばらく辺りを確認していたが目が慣れる気配もない。光自体がそのカプセルの中に入ってきていないのだ。


 最悪の事態が脳裏をよぎり、暁は叫んだ。


「誰か開けてくれ! Help me!」


 暁は助けを呼びながらカプセルの壁をたたく。距離がうまくつかめず力を振り絞れなかったが、たとえ全力でたたいてもとても破壊できる代物ではないことは理解できた。外からの反応はない。頭の中に浮かぶ嫌なイメージを振り切って叫び続ける。疲れから助けを呼ぶ声の張りがなくなってきたとき、暁はある違和感に気が付いた。自分が壁をたたく音とは少しずれて、違う音が聞こえてくる。


 ドン! ドンドン!


 自分と同じ境遇の奴がいるのか? と暁は考えたが、どうやら違うようだ。その音は、しだいに暁の方に近づいていた。自分を助けに誰かが来たのだ、と楽観的になるにはその音は暴力的すぎた。ほどなくして暁の体に衝撃が襲う。


 ドン!!! ドン!!! ドン!!!


 近づいて来た音の主は、暁が入れられたカプセルを外側から小突き回しているようだった。右へ左へ衝撃がやってきて、体中がそこかしこにぶつかる。暁は体を強張らせ、ただ耐えることしかできない。


「っ!」


 状況を把握する間もなく再びの衝撃。バキッ! という音の直後にきた浮遊感が暁の背筋を凍らせた。


「うおおおおっ!?」


 本能的に体が動く。脳へのダメージを抑えようと頭を抱え終わった瞬間、暁に衝撃が襲いかかった。頭は無事だったが、肩と腹に鈍痛が響く。だが、怪我の功名か、暁の目に周りの景色――ハニカム構造で作られたコールドスリープ用カプセル群という無機質な風景だ――がやっと映った。落下した衝撃でカプセルの扉が吹き飛んだのだ。上手く動かない体を引きずって、何とか外に出ようともがく。


 そんな暁の耳に、奇妙な音が聞こえてきた。


 キーキーキー……


 虫の鳴き声だろうか? だが、暁がカプセルから顔を出して見た先にいたのは信じられない生き物だった。

 黒い巨大なコガネムシ……いや、たとえコガネムシが突然変異で巨大化したとしてもこんな生き物にはならないだろう。目も触角もなく、足は異常にがっしりとしている。そんな奴が目と鼻の先にいるのだ。


 誰だって自分と同じくらいの大きさのコガネムシに出会ったら死を覚悟するだろう。暁も例外ではなかった。だが、体が上手く動かず、カプセルから這い出ることができない。そんな彼に向かって、謎の虫はその巨体を疑うようなスピードで突進してきた。


 叫ぶこともできないほどの一瞬、眼前に迫りくるその姿がスローモーションで映る。

 謎の虫の前足が振り下ろされた時、暁は赤色を見た。自分の血潮ではない。それよりも鮮やかで美しい、滾るような炎の赤だった。


「え?」


 先ほど自分に迫っていた謎の虫が業火の中でのたうち回っていた。その光景の中に人の姿があった。


「はい、終わった。さっさと帰りましょ」


 暁より少し幼い……中学生くらいの少女がそこにいた。

 赤い長髪が炎と重なり、まるで彼女自身が燃えているのかと錯覚を起こす。

 暁はその少女のことを何も知らない。だが、巨大コガネムシよりは会話が通じる相手なのは間違いないと判断した。


「た、助けてくれ!」


 バッと少女が暁のほうを振り向く。そのツリ目気味の赤い瞳は驚愕に見開かれていた。


「嘘でしょ……こっち! 生きてる人がいるわ! 救助、お願い!」


 少女は暁の視界の外にいる何者かに叫んだ。同時に彼女は暁の方に駆け寄ってくる。その時になって、暁ははじめてその少女の顔をはっきりと見ることができた。


 暁はハッとした。そして自分の勘違いを恥じた。炎のようだ、だと? 違う、彼女はこの暗い世界に咲いた真っ赤な美しい薔薇なのだ。心配そうな表情で近づいてくるその少女に対し、暁は反射的に口を開いていた。


「君、可愛いね。俺と付き合わない?」

「……は?」


 狐につままれたような顔をした少女を見た途端、突然暁を脱力感が襲う。仕方のないことだ。コールドスリープから目覚めた直後では、まともに体を動かせるはずもない。緊急事態が去ったと理解した暁の体は、ようやく休息を求めはじめたのである。


 遠のく意識の中で暁はこう思った。


 なんて可愛い子だ! きっとこの子と出会わせるために神様は俺を後天性細胞硬化症候群にしたんだなあ。


 と。


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