#19 真剣
本当の勇者になる?
ケイトは随分と焦っているようだった。
「架け橋の周辺には、木も、建物も、何もねぇんだ。ただただ俺がいるだけ」
「寂しい奴だな」
「そこ! 哀れみの目で見るんじゃない!」
「で、何でそんなところにドラゴンが出てくるってんだよ」
ケイトは地図を取り出し、僕の朝食の皿をどけて広げた。
「これが架け橋周辺の地図だ」
広げられた地図をよく眺めると、架け橋の向こう側が毒沼であることが分かった。光の大陸側にも湖らしきものと滝がある。
「見れば大体想像がつくだろ? 出て来てんだよ、毒沼から」
「……毒沼ってのはどれくらいの毒なんだ? 強いのか?」
「強いに決まってんだろ……体ん中に入ったら人生おしまいだよ」
「そうか……じゃあケイトが最初の犠牲者になるんだな」
「なーんでそうなるんだよ! 戦うのさ!」
ケイトは満面の笑みで僕の手を握った。
「2人で」
「……」
「おいアユム。顔ひきつってんぞ」
「……やりたくないのに変わりはないけど、、善人ぶって勇者になると宣言した訳じゃないし」
1つ言っておきたいのは、困っている人を助けるのが勇者というのはとんだ間違いだ、ということだ。だが、この手助けは平和に繋がる第1歩だろう。
「やってくれるか」
「多分僕くっそ弱いぞ?」
「そんな訳ないだろ! 歩は勇者じゃないか」
そしてもう1つ。必ずしも勇者はいつも強い訳ではない。
ーーー
「あっはっは! 歩! お前本当弱いな」
「うるさいうるさいうるさい! だからダメだって言ったんだよ……」
練習用の剣を手にした僕はへとへとになって座り込んだ。
「僕……やっぱりアレは偶然だったんだよ」
「アレ?」
「プルフラスを倒した時のことさ。知ってんだろ? 僕の戦闘が本気で『勇者』みたいだったってことは」
「馬鹿言うな。お前は勇者だ、アユム」
「……」
ケイトは真面目な顔になって、ゆっくり息を吐いて、言い放った。
「真剣でやろう」
「は!?」
「お前、どうやら良い剣持ってるらしいじゃねぇか。アユムさんよ、俺と勝負しようぜ」
「そんな……君相手に勝てる訳がないだろ!」
「そんなの」
ケイトは真剣を手に取り構えて言った。
「殺りあってからじゃなきゃ分からない」
僕が架け橋を守る騎士と真剣で勝負するなんて無謀だ。勝てるはずがない。下手したら致命傷を負うことになる。第一に、こんなことをしている暇がケイトにはあるのか!?
「そんな……! 君馬鹿だろう!? こんな僕の相手をしている間にでも、ドラゴンと戦えばいいんじゃないの!?」
「うるさい!」
いきなり斬りかかってきた。こいつ、本気だ。ダメだ、斬られる、と思った瞬間……剣から衝撃波が起こった。これは……あの時の。
「うわっ……!」
感覚が蘇ってくる。ケイトを吹き飛ばしたと思った。が、また斬りかかってくる。何故だ?
「うっ……」
とてつもなく重く振り降ろされた剣を剣で受け止めた時、その理由が分かった。
「浮いてる!?」
ケイトは空中にふわりと浮いていて、魔力を消耗している様子も見られない。ただ、浮かんでいるのだ。
「俺は生まれた時から……はっ……架け橋を守ってたんだと思う……くっ……記憶はないが、いつの間にか浮いてた」
「え、やっば」
会話と同時に、剣はキン、キンと音を立てて攻撃しあっている。
「自分のことすら、分からない……くっ……俺に……お前のことは分からないっ! だが」
僕が強く力を込めると、衝撃波と熱風がケイトに迫り、向かい風を受けたケイトはたまらず僕の突き立てた剣の下敷きになる。
「お前……その剣じゃないと……戦えないんじゃないか……?」
ウンディーネの話を思い出した。僕はこの剣からの加護を甘く見ていた! そうか。僕がこの剣を使っている時、僕は『勇者』になれるんだ。
「あっ……ごめんっ……」
急いで突き立てた剣を収める。
「僕は今……どうやって戦っていた……?」
「常人が剣をまともに戦闘で使えるようになるのには何年もかかる。アユムが住んでた世界でも同じだろ?」
確かに、遠い昔の話だけど、農民が1日で将軍になるのは不可能だろう。もしかしたら一生かけても到底届かないのかもしれない。
「あっ……うん。そうかも」
「つまりだ」
ケイトは立ち上がって僕のおでこに人差し指をつけて言った。
「お前が常人じゃないのか、この剣が普通じゃないのか」
「当たり前だろ、剣のお陰だ! 僕は常人だ!」
「さて、どうだかね」
ケイトはそう言うと、僕を連れて城へ戻り、支度をしろと促した。どうやら、朝食の続きは魔物退治の後にお預けのようだ。
ケイトはこれから歩にとってどのような存在になっていくのでしょうか?
やっぱり作者も分かりません!




