Days which will continue from now on
少しずつ、
少しずつだけど……
笑顔になれる様になってきた。
心の底から笑えるわけじゃないけど、それでも、少しは笑えてると思う。
それが作った笑顔じゃなくて、本当の笑顔だったら……
でも、それはまだ難しい。
私は、そんなに強くないから……
「黒塚さん」
今日もまた、皆見さんが声をかけてきた。
少しずつだけど、クラスに溶け込めてきた私。だけど、まだ心からというわけにはいかない。それを気に留めてくれているのは、この皆見さんだけだった。他のクラスメート達は、上辺だけの付き合いで満足している。それが、普通であるとでも言っている様に。
でも、皆見さんだけは違った。私の笑顔が、どこかぎこちない事に気が付いている。だから、度々声をかけてくる。それは決して嫌な事ではないけれど、それでも素直に受け止める事は出来ない。
「なに?」
努めて普通に、私は聞き返す。何を言ってくるかは、大体分かっているんだけど……それでも、聞き返す。それが、まるで一つの儀式の様に。
「今日はこの後、用事とかある?」
「――ないけど」
少し前までとは、違った返事。クラスに溶け込める様になってからは、私の返事は「ごめんなさい」ではなくっていた。それでも、どこか一歩退いた返答。
「それなら、一緒に遊びに行かない? 須藤さんと川近さんも一緒なんだけど」
「構わないけど……どこに行くの?」
「それが、まだ決めてないの。黒塚さん、何かしたいこととかある?」
きっと、元から私に意見を求めるつもりだったんだろう。そう思わせるには十分過ぎる程、彼女の言葉は自然過ぎた。
「特にないかな」
考える素振りも見せずに、私はそう応えた。
考えたところで、答えが出ない事がわかっていたから。
「もう……少しくらい考えてくれたっていいと思うんだけどな」
頬を膨らませながら、そんな事を言う皆見さん。
だって、特に何かをしたいなんて思わないんだから、しょうがないじゃない……
「あ! そうだ!」
突然、皆見さんが大声をあげた。
「ど、どうしたの?」
「この前、黒塚さんに似合いそうな服を見つけたの!」
「それで?」
「見に行ってみない?」
「別に構わないけど……須藤さん達は、それで納得してくれるの?」
「大丈夫。二人共、買い物とか大好きだから」
ふーん、そうなんだ。
と、気のない返事をする。何にしても、これで買い物に行くのは決定したみたい。
まあ、たまにはいいかな……
結局、皆見さん達におだてられ、服を買ってしまった。私には、こんな余分な買い物をする余裕なんてないのに。
――違う。お金がないわけじゃない。慎一さんは優しいから、お小遣いと言ってお金をくれる。それも、割と大きな額を。だけど、極力そのお金には手をつけない様にしてきた。これからも、そのつもりだった。なのに……
「はぁ」
思わず溜息を吐いてしまう。
たまには。なんて思ったのが、せめてもの間違いだったのかもしれない。だけど、それだけ心にユトリが出てきたんだと思う。それは、きっと良い事だ。だけど――
だんだんと、昔の私に戻っていくのが怖かった。
何か、大切なモノを失ってしまうんじゃないかって、そんな気がするから。
それでも……
私の〝傷〟は時が癒してくれる。
だから、このまま流れてゆく時に身を任せても良いんじゃないかって、そうも思えてくる。
そうしてまた、そんな自分の感情に恐怖を覚える。
だけど……
これから先も、こんな日々が続いてゆくのだろう。
だから、私はこんな自分の感情と付き合っていかなければならない。
たとえ怖くても、たとえ知りたくなくても――
私はいろんな事を知って、いろんな恐怖を乗り越えていくのだろう。
それが、私の〝日常〟なのだから。
何かを失い、何かを取り戻してゆく。そんな日々が、これから先もずっと続いてゆく……
そんな日々を、哀しく思ってしまう。
世界は、こんなにも哀しいものなんだって。そう、考えてしまう。
それでも希望を抱いて、私は生きてゆく。
だって、しょうがないじゃない。
世界は、こんなにも哀しみに満ちているのだから。
The bell which ends.