new life
黒塚 由貴。それが私の名前。
突然訪れた不幸。家族の死。
住む場所を失い、成す術もなかった私を、引き取ってくれた人がいた。
原田 慎一。私のお母さんのお兄さん。つまり、私の伯父さん。
慎一さんは独り身だったから、もしかしたら寂しくて私を引き取ってくれたのかもしれない。
理由はどうあれ、生活する術を持たない私を引き取ってくれたのだから、感謝はしている。慎一さん以外には、私を引き取ってもいいなんて親戚はいなかったし、私自身生きる気力を失っていたから……
今こうして生きていられるのは、慎一さんのおかげ。だから、感謝してもし足りないくらい。
「黒塚さん」
慎一さんの家の近くの学校に転校して、数日が経った。そんなある日の昼休み。私は名前を呼ばれて振り返った。
「お昼、一緒にどう?」
声をかけてきたのは、クラスメートの皆見さん。
「……ごめんなさい」
私は一言そう言って、皆見さんから視線を外す。
皆見さんが嫌いなわけじゃない。気にかけてくれてるのも、嬉しいと思う。でも……
今は、誰かと関わりを持つ事が怖かった。
いつか失ってしまうのなら、何も得なければいい。
そんな風に、考えてしまう……
「そっか……それじゃあ、今度は一緒に食べようね?」
背後で、明るくそう言ってくれる皆見さん。私は小さく「うん」と答えただけで、教室を一人後にした。
気が付けば放課後。
いつもそう……
少しぼぉ~っとするつもりが、気が付けば時間は過ぎ去っている。
二度と戻る事はない、過去……
今の私は、それでも良いと思っている。
何も起こらない時間。ただ平穏で、日常という言葉がしっくりくる様な時間。
そんな時間を噛み締める。それは、私にとっては辛い事だから……
気が付けば時が過ぎている。それは、私にとっての救い……
「黒塚さん」
私が帰ろうとすると、皆見さんが声をかけてきた。
「今日、この後暇かな?」
「…………」
私は答えない。それに応える答えを持っていない。
「良かったら、一緒に遊びに行かない?」
「……ごめんなさい」
昼休みと、もっと言えば、ここ数日と同じ返答。
私はいつも、こうして皆見さんの誘いを断る。
それでも皆見さんは、私に声をかける。
「ごめんなさい」
もう一度だけそう言って、私は教室を出る。
背後では、きっと皆見さんが物悲しそうな表情を浮かべている。それでも私は、そのまま帰路へとつく。
家に帰っても、誰もいない。
慎一さんの家。今までは、慎一さんだけが住んでいた部屋。
夜遅くまで仕事をしているから、今は私一人。少し前までは、誰もいなかった部屋……
「ただいま」
「おかえりなさい」
笑顔で。というわけにはいかないけれど、私は慎一さんの帰りを出迎える。
もう夜の十一時。
「いつも言ってるけど、待ってなくてもいいんだよ?」
優しい言葉。でも……
「私が待っていたいんです」
「そうかい?」
ここ数日の、いつもの会話。
「慎一さん、今日もご飯まだですよね?」
「うん」
「良かった。ご飯、作っておきましたから」
せめてもの恩返し。そう思って、私は家事を進んでやっている。断られたんだけど、「やらせて下さい!」と押し通した。
「いつもいつも、ありがとうね」
「いいえ。好きでやってるだけですから」
そう。好きでやってるだけ。私の気が少しでも紛らわせるから……
あくまでも、自分の為に……
「晩ご飯いらない時は、その日の朝までに言って下さい。それ以外は、毎日作って待ってますから」
「……うん、ありがとう」
慎一さんは優しい。
私の我侭を聞いてくれる。
私の事を心配してくれる。
私の事を……
「おやすみ」
今日も、もう終わる。
新しい生活。
それに今は何も見出せていないけど……
今はただ、生きていてもいいですか?
私は、何かを求めてもいいですか?
きっといつか、何かを取り戻したい。
私から失われた、何かを……




