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英雄の帰る場所  作者: ほしのき


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9/9

8 はぐれないように

 玄関を出たところで、ミサキが振り返る。

 

「今日はあなたの服と布団を買います。それと、外でお昼ご飯を食べる予定です」

「ああ」

「けっこう大きなお店に行くので、私とはぐれないようにしてくださいね」


 そう言うと、カイゼリスは明らかにムスッとした表情に変わった。

 

「……俺は子供ではない」

「そうですね」


 どう言ったら素直に受け取って貰えるか、ミサキは思案する。

 

「……では、私があなたとはぐれないように見張っていてもらえますか?」


 そう言うと、彼は大きく頷いた。

 

「任された」


 マンションから目の前の通りへ出ると、昼間なので多数の車が行きかっていた。

 夜とは比べ物にならないほど、人の往来も多い。


 今日の目的地は、成増駅の商店街にある大型ディスカウントストアだ。

 2人はそこへ向かって歩き出した。


 この世界2日目の彼は、興味津々に周囲を見渡している。

 見た目は普通の外国人なので、キョロキョロしていても温かい目で見守ってもらえるだろう。


 それにしても、はぐれないようにと思って声を掛けたら、『俺は子供ではない』なんて。

 この人、お店の大きさを見てもそんなこと言えるのかなぁ。


 まあ、はぐれないでくれるなら、私を見張ってもらえれば良いわけだし。

 任されたと言っていたから、真面目な彼ならしっかりやり遂げるはず。


 ミサキは、いつもなら駅まではバスに乗って行くのだが、彼にバスはまだ早い気がした。

 そのため、今日は駅まで30分歩くことにする。


「さ、行きましょう」

「ああ」


 和光陸橋の下をくぐり、成増駅方面へ坂を下っていく。

 カイゼリスは終始周囲を見渡しながら歩いている。

 その視線の対象に、ミサキは自分が入っていることに気付いた。


 チラッ チラッ

 

 あ、見張られてる!


 彼の視線を、彼女はとても楽しんでいた。

 

 ◇


「ミサキ、あれはなんだ?」

 

 カイゼリスが、坂を下りきったところの大きな看板を見て聞く。


「あれはうどん屋さんですね。あっちがラーメン屋さん。両方とも食べ物屋さんですよ」

「ほう」

「お昼は何を食べましょうか。食べたいものありますか?」


 そう言って気づく。

 彼はこの世界の料理を知らない。


「お肉とかお魚とか、野菜とか……何かありますか?」


 そう言うと、彼は「ああ」と頷いた。


「肉だ」

「お肉ですね。そうしたらお昼までに買い物をしっかり済ませてしまいましょう」

「ああ」


 肉を食べられるとわかった彼は、やる気がアップしたのか、歩く速度が上がった。

 ミサキは、それを見て内心笑ってしまう。


 やる気が出たなら良かった。


 彼女は置いて行かれないように、小走りでついて行った。


 ◇


 商店街入口まで来ると、格段に人が多くなった。

 横断歩道は一度に数十人が信号待ちしている。

 それを見て、カイゼリスの足は止まった。


「……人が多い」

「土曜日ですからね」

「ドヨウビとは?」

「お仕事がお休みの人が多い日なんです」

「ほう」

「人が多いですから、ちゃんと私のことを見張っていてくださいね」


 ミサキがそう言うと、カイゼリスは少し思案して言った。


「いつでも姿を確認出来るように、俺の前を歩いてくれないか」

「はい。いいですよ」

「……いや、それでは心許無いな」


 彼はそう言ってまた考える。

 それほど周囲に人が多いのだ。


「あ、信号が青になりました。渡りましょう」


 ミサキは彼の袖を掴む。


「これが青になったら渡るのか」

「はい。ここが赤の時は車が通るので待ちます」

「確かに。先ほどはクルマが走っていた」

「ほら、行きますよ」


 袖を引かれ、カイゼリスも横断歩道を渡る。

 そのまま商店街に入り、少し歩くと、大きなディスカウントストアが見えた。


 彼は店の前で立ち止まり、そして見上げる。


「なんと」


 とても驚いていた。

 ミサキはニコニコしながら彼を見ている。


「大きな市場だな」

「でしょう。はぐれないようにしないといけませんね」

「しっかり見張っている」

「はい。お願いしますね」


 ミサキはまだ彼の袖を掴んでいた。

 彼もそれについて何も言わない。

 見張るように任された以上、必要だと考えているのだろう。


 ディスカウントストアの入口は多くの人が行き交っていた。

 そして外から見える店内は、大きな棚に所狭しと商品が並び、まるで迷路のようだった。


「すごいな……」

 

 彼は、明らかに圧倒されている。


「さあ、行きましょう!」


 ミサキはそう言って、カイゼリスの袖を引いた。

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