香る
前話より少しはみ出た感じになりました。短いですが、最終話です。
春が来た。
和煌は高校を卒業し、大学に進学した。
高校の卒業式にも大学の入学式にも、和煌の家族は誰一人姿を見せなかった。そのことには耿良の両親、特にオメガの母親が激怒していた。
「どんなバース性だってわが子には違いないのに、なんていう仕打ちを‥!」
無論この怒りは和煌のいないところで爆発させていたので、和煌は知らない。耿良の母はただただ和煌の心に寄り添い、卒業式に和煌の保護者として出席し、大学の入学式に着るスーツを一緒に買いに行き、入学式にも参列した。
「きらちゃんは私の娘だからね!」
そう言って笑ってくれるこの義母に、和煌はどれだけ救われたか知れない。
そう、義母だ。
和煌は耿良と入籍をした。姓は佐藤に入ることにしたので今の和煌は佐藤和煌だ。番成立後も入籍を渋る耿良の父親が、この期間にこれだけの金を稼いでみせろといったその条件を、和煌は軽々とクリアしてみせたのである。その成果を持って耿良の父に会った時のことを思い出すと、和煌は今でも笑いがこみ上げてくる。
まさかにこの短期間でこれだけの金を稼ぎ出すとは思っていなかったのだろう、耿良の父の顔はなかなかの見ものだった。苦り切った、気に食わない、という感情をむき出しにしていて痛快だった。
耿良は「きら、ちょっとなんか‥性格の悪さ親父に似てきてるぞ‥」などと嫌そうに言ってはいたが。
ともかく、名実ともに耿良を自分のものにできて和煌は満足だった。
耿良には、高校を卒業したら家にいてほしかったのだが、
「俺だって進学して、そのうち働きたい」
と主張されて、今は耿良の希望を聞く、ということにしている。だが、耿良の母も自宅での仕事をしているのだから、そういう仕事もあるのではないか、とそちらに誘導すればいいか‥と和煌は企んでいる。すっかりアルファの思考回路になってしまっている自分自身に、和煌も少なからず驚いてはいるが。
自分の家族とはすっぱり縁が切れてしまった和煌だが、卒業式に来なかった和煌の家族に対し、耿良が
「きらの家族は俺だ。俺がきらの家族だし、‥きらの子どもだって産んでやる!あんな奴らなんかもういい、俺がきらに持ってる愛情を全部やる!」
と号泣しながら言ってくれたので、もう今では何という感情も持っていない。
できれば早く耿良を孕ませたい気持ちはあるのだが、耿良自身の希望を叶えるべく今は我慢している。
女ながらアルファである自分が嫌だった。「産ませる性」である自分を受け入れられなかった。だが、耿良と出会えたことで、耿良と番えたことで、それらを受け入れ、前向きになることができた。
耿良と出会えたことは和煌にとって幸運この上ない事だったのだ。
今でも、初めて出会った時のことをお互いに話すことがある。
「マジか、って思ったんだよな。女のアルファかよって」
「男のオメガかあ、って私も思ったよ」
二人はベッドの上でくすくすと笑い合う。身体を絡ませながらお互いにキスをする。こうして触れ合っているときが本当に幸せだ。他に何も要らないと思える。
「私のところに来てくれて、ありがと」
「‥俺を見つけてくれて、ありがとな」
そうしてまたキスを交わす。身体を触れ合わせる。触れている部分が多ければ多いほど溶けそうな幸せを感じる。
女性アルファで苦労することも、男オメガで嫌な思いをすることもこれから先、きっとあるに違いない。
だが、お互いに自分のすべてを受け入れてくれる人がいる、というのはこれ以上ないほどの喜びだ。
この確信がある限り、きっと幸せになれる。
二人はそう囁き合ってお互いの首筋に顔をうずめた。
お互いの、かぐわしいフェロモンが香った。
これで終わりです!お付き合いありがとうございました!
アルファと言わないまでも、管理職を目指す女性バリバリ現役で頑張っている女性の方々、社会の中で理不尽な目に遭ってることも多いのでは、と思う気持ちからこの作品を書きました。
もう少し、色々書きようもあったかと思うのですが‥まあこれからも精進します‥。難しいですね~
才治はあきらめの悪い男なので、まだ結構耿良に未練たらたらです。なので卒業まで和煌は苛々することが多くなってます。その分発情期にぶつけられて耿良がヘロヘロになります‥。もしリクエストがあれば、その辺りも番外編で書ける、かな‥とは思ってます。
とっつきにくい題材のお話を最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!よかったら評価や感想などいただけるととっても嬉しいです!




