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自立と自覚


そこからタクシーで発情期対応のホテルに移動した。そのホテルで和煌と耿良は五日を過ごした。

耿良の発情の誘因となったいつみも、その後別の場所で発情期を過ごしたようだ。これは後から聞いた話である。

やはり『運命』と言われる相性合致フェロモンの持ち主だったらしい。相手が番を強く欲していたために、いつみが酩酊するほどの発情を促したのでは、ということだった。



ホテルから家に帰ろうとしたとき、着替えなどを持ってきてくれた耿良の母が言った。

「入相さん、入相さんもうちに帰るのよ。‥これから入相さんはうちから学校に通いなさい」

少し眉を下げた顔でそう言ってくる耿良の母を見て、和煌は、

(ああ、自分は親に捨てられたのだな)

と感じ取った。この五日あまり、家族から和煌には何の連絡も来ていなかった。何度か携帯電話も確認したが、着信もメッセージもなかった。

オメガと発情期を過ごすアルファの娘を、彼らは受け入れられなかったのだろう、と和煌は冷静に考えた。


不思議と悲しくはなかった。

ただ、心の中を空虚な風が吹き抜けるような諦観が、静かに広がっただけだった。


そのことに気づいた耿良の方が、号泣してしまって大変だった、ボロボロと涙を零しながら激怒して文句を言っているのだ。

「くそ、くそったれが、damn it! shit、 idiot!never ever、絶対きらを返してやんねえ、後からなんか言って来たって返してなんかやるもんか!go to hell!」

あまりに泣いて叫ぶので、どうすればいいのかおろおろしながら慰めていると、耿良の母が

「汚い言葉を使うんじゃありません!」

と、斜めの方向から叱咤してくれていた。


和煌の両親は、よほど和煌と顔を合わせたくなかったのか、和煌の部屋にあったものを一切合切耿良の家に送り付けてきていた。そのことを聞いたときも、両親のあまりの常識のなさに暗澹たる気持ちになったが、和煌としては自分が詫びるしかなかった。


その後、耿良の家では、耿良の父がラスボス感満載で待ち構えていた。じわじわと威圧のフェロモンを出しているのがえぐい。和煌は自分も出し返してやろうか、と思ったが、さすがにそれは無礼だな今はこちらの方が立場弱いし、と思い返してやめておいた。


「ベータ家庭に生まれたにしては、君はなかなか上位のアルファだね?家系には全くアルファもオメガもいないのかね?」

「‥私が知っている限りは、いないと思います、母方の祖母はアメリカ人だったようですけど、‥第二性のことは知らないんです、私が生まれる前に亡くなっているので」

「ふうん‥」

アルファ同士の何とも言えない気まずい空気が漂う中、耿良が話に割り込んできた。

「別に家系がどうとか関係ないだろ?俺は‥きらがいいんだから」

「あき‥」

おのれのオメガのかわいらしい発言に、思わず笑顔になる。テーブルの下でそっと手を握ろうとした時、んん!と耿良の父が咳払いをした。‥鬱陶しいな、と和煌は心の中で舌を出しておいた。もちろん手は握った。


「‥で?君はどうせ自分の資産もある程度持っているんだろ?私たちに何を望むかね?」

「父さん何でそんな言い方喧嘩腰なんだよ!」

耿良がその口調を咎めたが、和煌はにっこりと笑った。

「いいんだよ、あき。‥‥はい、当面の暮らしに困らないくらいの資産はあります。ですから、しばらくの間だけこちらにお世話になって家を探そうと思っています」

「君はもう十八歳?」

「はい」

「じゃあ、保証人がなくとも家は借りられるわけだな、アルファだし」

「借りられると思います、現住所をここにだけさせていただければ‥」

「ああ、それは大丈夫だ。住民票も移すといい」

「ありがとうございます」


二人のアルファが淡々と話を進めている横で、耿良はそおっと和煌の手を離し、キッチンにいる母親の横に移動して話しかけた。

「母さん、なんか俺あそこにいると寒気すんだけど」

「大丈夫母さんもしてる」

「アルファって‥」

「しょうがないのよ、アルファなんだから」

「‥そんなもんか‥兄ちゃんたちと親父でそう思ったことあんまりなかったんだけど」

「曲がりなりにも親子だからね‥入相さん、結構上位アルファっぽいからお父さんも複雑なんじゃない?」

「‥‥俺の相手は絶対上位アルファがいいって言ってたくせに‥」

「現実になっちゃうとねえ、またねえ」


二人のオメガは顔を見合わせて笑い合った。



その後、耿良の家から和煌は高校に通うことになった。和煌は才治の状態も教員から聞いて、登校してきた才治に謝罪をした。才治はまだ首に固定具をつけたままだった。

「ごめんなさい、‥結果的にけがをさせてしまって。でも、耿良の発情につけこもうしたことに対しては私は許してない。けがをさせたことは悪いと思ってるけど、耿良にはあまり近づかないでほしい」


才治に会っても、何と言っていいかわからず話していなかった耿良は、気まずい思いでそれを聞いていた。まさかに才治がアルファで、自分に対してそういった感情を持っているとは思いもしなかったのだ。才治は首のコルセットの隙間から指を突っ込んでポリポリ掻きながら答えた。

「いや~行けるかと思ったんですけどねえ、入相先輩早かったっすよねえ。そんで容赦ない一撃‥二撃かあ。俺も迂闊だった」

「‥‥‥土屋君、悪いと思ってないの?今度、耿良に手を出したら私躊躇いなく殺すよ?」

「目がマジじゃん、‥‥こわっ」

和煌は隣にいた耿良をぐいっと引き寄せ、後頭部を右手で支えて深く口づけた。


ぎゃあああ!と二年七組の生徒滝が悲鳴を上げた。

「!!!」

驚いた耿良がじたばたするが、和煌は左腕でしっかり耿良の身体を抱え込み、右手で顔を支えて舌を挿し込む。

すり、と上顎を舌先でなぞってから耿良の舌もじゅっと吸った。咥内を愛撫されて身体の力がくたりと抜けた耿良の身体を危なげなく支える。

七組の生徒のざわめきが全く止まらない。目をつぶってしまった耿良の瞼にもちゅっとキスをして、和煌は才治を見た。

「あきは、渡せないから」

才治は「あ~もう!」と言いながら頭をぐしゃぐしゃと掻いて、

「‥‥わかりましたよ、もう‥」

と呟いた。

和煌は、ためらいなく人前でそんなことができる自分に、内心驚いていた。

が、痛快だった。

そして、やはり自分はアルファなのだな、と改めて思い、そのことを受容できている自分にどこかほっとしていた。


耿良は、くったりした身体を和煌に預けたまま。

「なんなんだよ、もう‥」

と力なく呟いていた。




耿良の家にはおよそ一か月ほど滞在した。和煌の進学先は高校にも近い系列の大学なので、その近くで部屋を探した。部屋探しには耿良も伴った。

耿良の家に滞在している間に、和煌は自分の両親とも書面でやり取りをした。婚姻届の保証人にはならないといわれたので、わかりましたとだけ伝えた。

ある程度貯めていた資産を使って、少し投資にも手を出してみた。始めは幾らか損を出したが、今は少しずつ流れを掴んできているので、そのうち利益も出るだろうと思っている。


耿良とは、次の発情期で番になろう、と決めた。本格発情をまだ一度しか迎えていない耿良は、次がいつ来るのかは不透明だ。できれば和煌が在学中がいいな、と思っているがこればかりはわからない。


新しいマンションから高校に通うことになり、当たり前のように耿良を引き取ろうとしたらまた耿良の父と揉めた。とにかく傍から離したくないんだろうな、ということはわかったので、「番になったらしばらく家に帰しますから」という約束をして無理に引き取った。

耿良自身は、顔を真っ赤にしながらも

「俺も、そりゃ、きらと、一緒にいたい、から‥」

と、耿の父の前で言ってくれたので和煌は非常に満足している。


文化祭の時、発情してしまったいつみとその相手は、発情期が明けてすぐに籍を入れたらしい。いつみが嬉しそうに指輪を見せてくれた。



クリスマスの時期には、和煌の推薦入学も確実になっていたので、二人で過ごした。


耿良の発情期が次にやって来たのは、正月が過ぎ冬休みが終わってすぐのことだった。


お読みくださってありがとうございます。


和煌はスパダリ執着気質です。

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