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糸目は大体口がうまい


「ガウゥッ!」


「グギギ!」


「グギャァァ!」


ウルフの鋭い牙による咬みつきが行動を阻害し、ゴブリンの剣が敵ゴブリンの首を切り裂く。ポリゴンが血飛沫のように飛び散って弾ける。インベントリに送り込まれたドロップアイテムをちらと見て先ほどの戦闘を省みる。


「やっぱり斬撃があると便利だな」


汚れの付き方一つとってもリアルに作りこまれている『Fantagica Frontier』。そのリアルさは人体もモンスターも例外ではない。頭を強く打てば気絶するし、アキレス腱を切られれば動くこともままならない。心臓を貫かれれば、首を切り飛ばされれば死亡する。しかし、これはあくまでもゲーム。ポーションを使えばそれらの損傷は全て回復する…流石に首が飛んだりの即死とも言える損傷に効果はないのだけれど。

そういうワケでソードゴブリン(仮)くんには頑張って貰いたい。棍棒による袋叩き戦法も便利は便利だが決定力に欠けていたからなぁ。

エンカウントは散発的、数も1~2匹と実に歯ごたえがない。道中でテイムした角兎数匹に周囲の探索をさせているので散歩といっても過言では無い、実に平和な道中であるのだが──。


「いやぁ、私の出番がありませんなぁ」


俺の隣でくつくつと喉を震わせる魔術師(プレイヤー)の醸し出す空気が平和と言い切らせてくれない。


「リリースから日が浅いにも関わらずここまでモンスターを従えているテイマーは中々…いや居ないでしょう」


「まさか。まだまだ手探り状態ですよ」


またまたご謙遜を、と彼は糸のように細い目を更に細めて大仰に手を広げる。


(そんなナリしてよく言うぜ…)


彼の名はアルジェン。すらりとした長身で線の細い身体、人好きのするような涼やかな顔立ちのイケメンだ。細やかな刺繍が小さく施されたローブに黒檀のような艶のある杖はとても初心者の街で扱っているようなものではない。

というか、初期装備以下の俺に同道を頼むところからして胡散臭い。ファースを出立する際に後衛職一人では心許ないので、とまぁこれまた胡散臭さ全開の護衛の依頼されたのだが、護衛料にしては高い額に目が眩んだというワケではない。明らかに前線に居るであろうこの狐のような男からなにか情報を聞き出せればと考えていたのだが、過剰ともいえる演技(ロールプレイ)からその真意を見出だすことは難しい。むしろ逆にその細い瞳の隙間からこちらの手札を暴かれているようだ。


「あ、そういえばアルジェンさんは確かクランを結成してらっしゃるんですよね?」


このまま考えていても無駄だと悟り、世間話の体をとりながら情報を聞き出す方向へシフトしていく。


「といってもそこそこ規模が大きいだけですけれど」


「クランハウスはお持ちですか?」


プレイヤー同士の集まりであるクランの拠点、クランハウス。クランを作るつもりのない俺に関係はないのだが、モンスターを収容するには一般民家ではなくクランハウス規模の土地と建物が必要なのだ。


「…ええ、持っていますよ。ゼントー殿が居を構えるならセカンの先"サルドーレ"がよろしいかと。サルドーレの領主様はサモナーと聞き及んでおりますので」


彼は少々考え込むと何かを納得したように笑顔を浮かべた。もうこの時点で目論見がバレている……もうやだこの人、根こそぎ持っていかれそう。

そしてその後もお話(腹の探り合い)をしたり、お話(これは普通のお話)したり、彼の魔法戦闘を観察している内にセカンへ到着。件の角兎を見つけることは出来なかった。「またいつか」と彼は去り際に挨拶したが、こちらとしては暫く会いたくないと思うほどに気疲れしてしまった。少し早いけれど今日は宿をとったらログアウトしてしまうか。


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