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冒険者に俺はなる

誤字、脱字や駄目だしをしてくれると嬉しいです

 

 「ん?」


 姉さん達と町を回って、そろそろ帰ろうかと店の方へ歩を進めている時。

 俺は見つけてしまった、『冒険者説明会』と書かれた一枚のチラシを。



 ***


 「あ? 冒険者になりたい?」

 「ああ。だめかな、親父?」

 「まぁ、駄目って訳じゃないが……本当にやるのか?」

 「親父が許してくれるなら、行きたい……」


 俺は今、親父に初心者冒険者の説明会に行っていいかを相談している。

 いつになく俺は真剣だ。なんたって冒険者だよ! 冒険者!

 これで心が踊らない奴がいたら、そいつは男じゃないか玉がないかのどっちかだ。


 「俺がんばるから。初心者って書いてあるし、きっと大丈夫だ」

 「……本当に一人でできるのか? もうちょっと待つことはできんのか」

 「これなら俺にだってできるし、店だってちゃんと手伝うからさ」

 「う~ん……」


 開催が五日後なので、早く決めてしまいたいところだが、こればっかりは俺一人の一存で決められないよな。


 しょうがないので俺は、漫画などでよくある男だけが分かりうる魔法の言葉を唱えた。

 親父が俺の予想通りの人物なら、これで納得してくれる。


 「親父……分からないか?」

 「ん?」

 「親父も男だったら、俺の冒険者になりたいって気持ちわからないか?」

 「……ハッ!」


 突如親父に電撃が走る……ような気がした。

 おそらく効果はあったみたいだ。

 親父なら俺のこの気持ちを分かってくれると信じていた。


 「わーたよ。ここまでトモに言われちゃ認めるしかないな」

 「……親父!!」

 「ただし、危ないことはするなよ」

 「了解、了解。」


 そうやって俺と親父が固く握手を交わしていると、他の三人が馬鹿を見るような顔でこちらを見ていた。

 なんかつまらなそうに見ている。


 「ママ……トモくんと親父さんは何をやってるの?」

 「さぁね、男っていうのは本当に下らないわね……アホっていうかなんというか」

 「何かトーモがおかしくなってる……カーテが助けた方が良い?」


 なにが、おかしくなってるだ。

 おかしいのは、どう考えてもそっちだろ。 

 全く冒険のロマンが分からんのか、こいつらは。女というのは分からん生き物だな。


 「まだ初心者説明会まで日にちがあるし、ゆっくり準備しろよ」

 「おう。ありがとな親父」

 「ちーす」


 親父と俺が話し終えた直後、一人の青年が入ってきた。

 おそらくこの店の料理人だろう。

 昨日、親父と一緒に厨房にいるのを見かけた。


 「こんばんわー……ってなんか盛り上がってます?」

 「ああ、今、冒険者の話をしていたところだ」

 「そうなんですか」


 その青年は、真っ直ぐに俺の方へ歩いてくる。

 そして持っていた荷物を置き、俺に握手を求める。


 「トモだったけか……でもあだ名だったけか? まあいいや。俺の名前はトール。この店の料理人だ。よろしくな、トモ」

 「こちらこそよろしくお願いします。トールさん」

 「そんじゃ、着替えてくるわ。そんじゃな」

 「はい……」


 そう言うとトールさんは更衣室へと消えていった。

 意外とフレンドリーな人だったな。もっと硬い人だと思ってた。人は見かけによらないな。


 「さて、そろそろ準備始めるか」


 親父のその一言でみんなが各自の配置につく。

 俺は接客だ。料理もできないし、当たり前といったら当たり前か。

 トールさんも更衣室から出てきて制服に着替えている。俺のはまだできていないらしい。制服はかっちょええので早く着てみたい。


 


 「いらっしゃいませー」


 早速客が来た。俺も皆に習って客に挨拶をする。今夜も忙しくなりそうだ。



 ***


 昨日と同じように店内は客で賑わっている。

 そして客が多いので注文も多い。俺は厨房とテーブルを行ったり来たりして、けっこう参ってる。

 一方ケインさんや姉さんたちは、全然疲れてないように見える。まぁ、毎日やってるしな。


 「お、昨日の女装のガキじゃねぇか。もう女装はしないのか?」

 「ええ。もうあんなの懲り懲りですよ」

 「あん時は、さすがの俺も呆然としちまったぜ」

 「お前はいつもボケーっとてんじゃねえか」

 「あぁあん? なんだとてめぇ……」


 チョッとした言い争いが始まっている。

 恐らく肉を砕くようなケンカには発展しないだろう。

 ここでケンカでもしたら店追い出されるかもしれないしな。

 

 それにしても昨日の自己紹介はかなりインパクトがあったようだ。

 みんなが俺に話しかけてくる。


 「どうしてもやるってんなら相手になってやるよ」

 「俺もちょうどムシャクシャしていたところだ。ここは一つ…………腕相撲で勝負だ!」


 は? 腕相撲…………?

 そう言うと二人の男は机に肘をつく。

 周りはどっちが勝つかで賭けを始めている。

 それにしても決着のつけ方が穏便だ。まぁケンカはご法度だし、一番いい方法かもしれない。




 「お~い坊主~」

 「?」

 

 俺を呼んだのは、昨日酒を飲み交わした中年の男だった。


 「また会ったな、坊主。仕事の日程はここで固定なのか?」

 「ええ。俺はこの夜しか働きません」

 「ってことは、昼は暇なんだな?」

 「……まぁ暇ですけど、それがどうかしたんですか?」

 「へへっ、実はな……」


 男はあるチラシを開く。

 そのチラシは俺が目を奪われた初心者冒険者説明会のものだった。

 これに参加させるために俺を呼んだのだろうか?


 「実はな、こういう催しがあるんだが来てみないか? ちなみに俺も教えてやるぜ」

 「俺も今日、このチラシを見て親父に相談したらOK貰えたんですよ」

 「ほ~そいつは奇遇だな。せっかくだから、坊主は受講料を無料にしといてやるよ」

 「え、いいんですか!? ありがとうございます」

 「まぁ、小銭稼ぎみたいなもんだからな」


 思わぬところで得をした。

 やっぱり人間関係は築いていおいて損は無いと改めて思い知る。


 「そういえば、まだあなたの名前聞いてませんでしたね。よければ教えてくれますか?」

 「いいぜ。俺はドーズだ。よろしくな坊主。一応このチラシはお前に渡す。まちがえずに来いよ」

 「ありがとうございます、ドーズさん」


 こうして俺はチラシを貰った。部屋に戻ったらじっくり見よう。




 ***

 

 店が閉まる一時間前に、一人の老人が店の中へ入ってきた。

 ガルハルーさんだ。

 唯一俺と同じジョブの人だ。この人にも冒険者説明会に行くことを伝えておいたほうがいいだろう。色々助言をもらえるかもしれない。

 ガルハールさんは迷うことなくカウンターへと足を進める。


 俺はカウンターの方へ行く。色々教えてもらおう。


 「こんばんわ。ガルハールさん」

 「おお、誰かと思えばトモじゃないか。この店には慣れた会かい?」

 「まぁ慣れているのか……な?」

 「ワシから見ればかなり溶け込んでいるように見えるがの」


 ガルハールさんは荷物を下ろすと、酒を注文する。

 俺はジョッキに酒を入れてガルハールさんの元へ戻ってくる。

 ガルハールさんはジョッキを手に取ると一気に半分ほど飲む。


 「今日は何かね。ワシに答えられるならなんでも答えてあげるぞい」

 「ありがとうごさいます。実は、このチラシの催しに参加したいと思いまして……」


 俺はガルハールさんの前でチラシを広げる。

 ガルハールさんは嬉しそうに目を細める。


 「ほ~トモは冒険者になりたいか……で、ワシに聞きたいこととは?」

 「その、冒険者の極意みたいのってないですかね?」

 「極意とな……これはあくまでワシの持論じゃが……見極める力じゃな」

 「見極める力?」

 「そうじゃ、冒険者は逃げ時をわきまえなければならない。冒険者は勇敢である者……と言う者もおるが、一つ間違えば無謀となり、己を破滅へと導く」

 「分かりました。肝に銘じておきます」

 

 俺が紙に忘れないようにメモをしようとすると、ガルハールさんは、また話し始める。


 「じゃがの、トモよ」

 「?」

 「大切なものが傷つけられそうな時は、無謀と分かっていても立ち向かわなければならない。じゃが無駄な戦いはしてはならぬ」

 「なるほど……」


 もしも、ものすごく強い敵が俺の前に現れたとしたら、俺はどうするだろうか……おそらく逃げるだろう。

 それが一番賢い選択だ。

 

 しかし大切なものが傷つけられそうな時、俺は果たして強大な敵に立ち向かうことができるのだろうか? 

 今はあまり実感が湧かない。



 「トモには時間がある。じっくり考えればいいじゃろ」

 「……そういうもんですかね?」

 「そういうもんじゃよ」


 俺はいままで冒険者と聞いて浮かれていた自分が馬鹿らしくなった。

 別に冒険者が嫌いになったとかそういうものではない。

 

 ただ、ガルハールさんの話を聞いたら冒険者は楽しいことばかりではないということを思い知らされた。

 あの人の言葉には妙な威厳がある。

 まるで自分が体験したことがあるかのように。



 「じゃあ帰るとするかの」

 「今日は色々教えてくれてありがとうございます」

 「こんな老いぼれの知識でいいならいつでも聞いてくれ」


 そんなことを言いながらガルハールさんは店を出ていった。




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