再攻略
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地の迷宮――第百層にて――
本来、音一つなく静寂を守り続けていた地の迷宮の最奥層である百層は異彩を放っていった。
静かという言葉とは程遠く、迷宮内ではけたたましく轟音が鳴り渡り、硬い物とが衝突し火花を散らし合い、まるで所々で爆発が起こっているようにも見える。
そして何よりも場を混沌とさせている原因はその地形にあった。
石畳を叩く音はしっかりと耳で認識できるが、中で何が行われているのかは火花などが散った時しか見えないのである。
土煙……これ程簡単に視界に悪影響をおよぼし、効果的なのはない。しかし、その半径数メートルしか見えないはずのフィールドで戦っている者達は異常だった。
敵は地の迷宮の主……ゴーレム・オブ・オリハルコン。
「囮いく! 合図したら任意のタイミングで撃ってくれ」
「分かりました! その光は敵を滅し、味方を――――」
モトキは大きく跳躍し、敵である全長三十メートルはあろうかと推測されるゴーレムに向かい、小細工を一切使わない馬鹿正直な突撃を開始する。
もちろんゴーレムもその大質量の攻撃に応戦しまいと、自らの金属でできた腕を衝突させようとする。
「妨害!」
「了解です!」
あと数秒でゴーレムの腕に砕かれるであろうモトキの指示に従い、ミツキが魔法を構築する。放射自体はミツキ自身の判断に委ねられる。
その身には合わない大きな杖を持ったミツキの目には、まるで狙撃銃のスコープのように十字線が浮かび上がり、その肢体は冷気を放っているようにも感じられる。
「"聖滅線"!」
「カチャカチャカチャカチャアアアアアア!?」
あとコンマ数秒後にモトキの体をひき肉にしていた筈のゴーレムの腕は、"聖滅線"というミツキ専用魔法により白く変色し一切の動きを封じられる。
ゴーレム自身、その事象に驚いているようだ。
ゴーレム――その姿は大きい物から人型のような小さなものまで様々だ。
この迷宮主であるゴーレムは、他のゴーレムのように"土"ではなく、"金属"でその体を構成している。
その巨体から生み出される突きの火力は、熟練した魔術師の長文詠唱による大魔術を軽く上回る。
モトキはミツキの魔法により固まったゴーレムの腕に乗り、そこから胸部へと飛ぶ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
「カチャァ……!?」
モトキの、もう何代目か分からない大剣がゴーレムの胸に押し込まれる。
何回目か分からなくなってきた胸部への攻撃は、すでにパターン化しているので動きを読まれやすい。
(この感触――当たりか!)
コア……ゴーレム最大の弱点でもあるが、裏を返せば、それを破壊しなければどんなゴーレムであろうと倒せない。大体コアは胸の部位に埋め込まれているが、図体が大きくなると胸のどこにコアが埋め込まれているか近場で見なければ判断がつかない。
その為モトキはコアのある場所を剣で凹ませる。
「っしゃあ!」
だが、ゴーレムも、モトキを無傷で地面に返そうとはしなかった。
「うっがぁ……!?」
「モトキ様、大丈夫ですか!?」
「気にすんな!」
ゴーレムの胸から棘が射出され、モトキの右腕をボロ雑巾のようにする。
腕は確かに残っているガ……いや、残っているというよりも肩にぶら下がっていると言った方が正しいかもしれない。この穴ぼこの空いた腕では防御すらできない。
(右腕は使い物にならないか……問題ない!)
痛みに顔を歪ませたモトキはゴーレムの体を駆り、ゴーレムの頭部までたどり着くと人間の数十倍はあろうかと思われるゴーレムヘッドを切り飛ばし、視界を遮断させる。
「コアの位置はそこだ、フィニッシュ任せる!」
「特定ありがとうございます! "その水は変動し、暴走し、龍となりて力となる 暴水爆龍"!」
ミツキの杖から放たれた龍を模った水魔法は躍動し、モトキが印をつけた部位に向かっていく。
モトキとミツキが攻略した"水の迷宮"でてにした魔法。
普通の魔術師が使う魔法が水魔法ならば、ミツキが行使するソレは爆水魔法あたりだろうか。
ソレは
水魔法の原型を留めていないのだ。
「よし!」
「当たった!」
ミツキの放った水龍はゴーレムの巨躯に埋めこまれているコアをあっさりと貫き、鉄くずとなったゴーレム背後の壁すらも喰らい尽くす。
猛々しいゴーレムの悲鳴とともに、その体が破壊を迎える。
人間で言えば心臓のようなものであったゴーレムのコアが破壊されればその時点で体は分解されていく。
「完了……だな」
「はい、攻略完了です!」
地の迷宮、攻略開始から二十日目、時刻不明……地の迷宮完全攻略。
***
―カリュー帝国メインストリートにて―
「んー開始から二十日で攻略かー早い方なのか?」
「攻略できることを前提に聞かないで下さいよ」
迷宮を攻略した俺とミツキはとりあえず町へ戻っていた。
俺にとっては町というのはあまり良い所とは思えない。一人で戦っていた時は、町というのは寝る場所があって換金できるギルドがあれば充分だと思っていた。
「とりあえずギルドの方へ行くか、換金しなきゃいけないし」
「食事はどうします?」
「ギルドの外ならミツキの自由でいいぞー」
「わかりました。んーそれでは――――」
アゴに手を当てながら真剣に、今日の食事処を思案しているミツキをよそに、俺はスタスタとギルドの方へ向かっていく。アイツなら襲われる心配なんて皆無だ。
たしかギルドはあっちの方に――
「お、あったあった」
ドアを開き真っ直ぐカウンターの方に向かう。
あらかたドロップ品をバックから出し、受付嬢の驚いた顔を無視して、金だけを受け取る。
「あれ……アイツどこいった?」
あー面倒くせぇ……この広大な町の中から一人のローブを羽織った少女を見つけるなんてほぼムリゲーだろ。もし店に入っている可能性を視野にいれると……やりたくねぇ。
ーーまぁ、いつかは見つかるか。
***
「で、結局ここにしたのか」
「はい、なんだか賑やかそうだったので」
「……まぁ、いいや」
ミツキが攻略祝いに選んだのは、唯の酒場。
俺がミツキに一任したのだから文句なんていえるはずもない。
だが、あえて言うならばもう少し静かな所で飯を食べたかった。
ミツキ探しに翻弄させられた俺は、ほとんどフルマラソンに近い距離を走らされた。
武器屋、ギルド、裏路地、屋根と思いあたる所を目を凝らして捜した。
そして俺を散々走らせた本人は何処にいたかというと、なんとトイレで寝ていた。そんなとこに見つかる分けないだろ。
「でも酒場か……」
「なんか都合の悪いことが?」
「いや……それよりも食うぞ。迷宮で戦った挙句、どっかのアホを捜すに走らされてもうヘトヘトだ」
「はいぃ……すみません」
酒場というと思い出してしまうのだ……親父やケインさん、姉さん達やトールさんといっしょに働いていた時のことが、ふと思い起こされてしまうのだ。
この記憶は無くしてはいけないが、心の底にしまっておくべきだ。
「で、これからについてだが……」
「んーこのパスタおいしいです」
「俺達は……」
「このお肉、この値段でこのおいしさって反則ですよ」
うん……全然耳に入っていないようだ。
こんな状況で一人で話しても意味ないし、俺も食うか。そうだな、食ってから今後について考えよう。
***
「これからどうするか……ですか」
「ああ。迷宮は攻略したことだし迷宮が一つあるといわれている魔界にでも――」
食後、俺とミツキは宿のベッドで今後の方針について話し合う。
ミツキはベッドに突っ伏して……もはやこいつ聞く気ないだろ。
「え、もう少しくらいここにいてもいいのでは?」
お、どうやらちゃんと耳には入っているらしい。
俺としてはいつも聞いてくれると助かる。
「それは却下だな」
「なんでです?」
「お前の国にいる騎士が良い証拠だ。少しでも内部に情報が知れ渡れば、後は時間の問題だ。俺とお前はあの国で顔が割れちゃってるし、ギルドで張り込みされるのも時間の問題だろ」
「なるほどーー」
顔が割れる……俺にとっては一番避けたかった事態だ。いままでは指名手配書には顔は貼られていなかったが、こうなると格段に危険性が増す。
能天気に手をポンと叩くミツキに溜息をつきながも話を進める。
「それで次行くべきは魔界だ、あそこにも迷宮がある」
「ん? まだ人間界にも攻略していない迷宮ありましたよね? たしかイヤール王国の……」
「そこへは行かない」
「なんでですか?」
「う……ん、それはだな……」
どう言い訳したものか……。
あの国から雀の涙ほど勇気を振り絞って出たというのに、帰ってしまったら、今度こそ出たくなくなるかもしれない。
それに親父達にも迷惑を掛けたく無い。俺の関係者だと知られればあの店にいる全員が処刑されたっておかしくないのだ。
勇者の未覚醒は国の危機。覚醒ができないのは俺が生きているから。
つまり、俺が生きているだけで罪なのだ。
その罪は重い。どんな盗人よりも、どんな殺人鬼よりも。
かといって自殺する勇気すらも無い。
結局はこうやって唯強くなることしか知らない。
帰るとしたら、圧倒的強さを身に宿した時のみだ。それが実現するのは何年後か分からないが。
「…………」
「う~ん、分かりました。深入りはしません。私はモトキ様の奴隷ですからね」
「ミツキ……」
「でもこれだけは覚えておいて下さい。私はモトキさまの権力であり、力です」
ミツキはそう言うと、また優しい笑みを浮かべる。
俺が悲しそうだったという理由だけで仲間になり、今では一緒に旅を共にしてくれる。
「ミツキ……次の日、魔界に行く。付いて来てくれるか?」
分かりきった答え……それでも質問を投げかけた。
「勿論ですよ。モトキ様といると私も楽しいですから!」
次の日、俺たちは二人で魔界行きのキャラバンに乗り、魔界の都に向かった。
読んで頂きありがとうございます。




