迷宮主
ミツミを仲間に引き入れた俺。
とりあえず戦力も揃ったので迷宮攻略を頑張ってみよう。
***
海の迷宮九十九層。
おそらく誰も立ち入ったことがないであろうその階層で俺とミツキは軽い装備点検を済ませていた。
ミツキが仲間になったから、いままで八十五層あたりで足踏みしていた俺はそれといった苦行を強いられることなく迷宮の最奥までたどり着けた。やはり効率が段違いだ。
「意外とすんなり来れたな」
「やっぱり二人いると戦闘が楽ちんです」
「ミツキ、魔力の保有量は平気か? 前、俺と組んだ奴が途中でくたばって背負う羽目になったからな。この階層なんかで魔力枯渇しちまったら俺の命も危うい」
「そのへんは心配ないです。私こう見えても魔力保有量は多いんですよ。今まで枯渇したことなんてありませんからノープロブレムです!」
こう見えてもって……どっからどう見ても異常しか検出されない体だろ貴様は。
それにしても魔力枯渇ってどういう感覚なんだろうか? 魔力がほとんどないから俺は経験した事がないが、眩暈や息切れのようなものだろうか。
「それに、この"濃縮エーテル"が十本あれば私の魔力も全快します」
「おいおい、ミツキそれってかなりの高級品だろ、よくそんなに集めたな」
俺も魔力があったらそういうアイテムにも縁があったかもしれないが残念ながらゼロに等しいからな。
それにしても"濃縮エーテル"十本で全快とは、ミツキも魔力総量は計り知れないな。
「ミツキってそんな高級アイテムが買えるほど金あったけ?」
「モトキ様と二週間探索してれば余裕で買えます。それにしても私と組む前も相当な無茶をしていたのに、なぜエリクサーや傷薬の一つも買わないのかが意味不明です」
「だってこの階層で重症を負ってしまったら戦闘不能で死ぬだけじゃないか、助けも来ないし」
一瞬の油断、瞬きするほどの短い時間でも集中力が欠けてしまえば一撃必中の攻撃を食らって袋叩きに合ってしまうのがこの迷宮の深層の現実だ。
よくゲームであるようなHPあるけど敵の攻撃受けると死にますという、HPは飾りです教訓が横行している為、防御か避けるの二択しかない。
「私は一応賢者なので回復魔法も使えます、怪我をしたら仰ってくださいね」
「怪我をしたらな」
俺とミツキは互いに装備の最終点検を終えると高さ三十メートルはあろうかと思われると扉に手のひらを押し付ける。
何の素材でできているかわからないがその扉はまるで夏場の冷蔵庫のような冷気を常時噴出させており、その扉の向こうに強敵がいることは容易に想像がつく。
「準備は?」
「オーケーです!」
ミツキの無邪気な笑顔と元気な返答を聞いた俺は、扉を軽く手で押し出すと右足を扉に捻りこむ。
黒い大扉は大晦日の除夜の鐘のような音を周囲に撒き散らし乱暴に開かれる。
「あれは……槍をもった蟹?」
「正確には槍を持ってるんじゃない、槍は体の一部だな……」
俺の故意によって立てた轟音に気づいたのか一体のモンスターがのそりと蠢く。
最深部なのにも関わらず迷宮の内部は依然として明るく、二人の影は不動を貫く。
その姿は簡単形容するならば蟹だ、随所におかしな点はあるが概ね正解だろう。
蟹の六本の足からは槍のような鋭利な突起物が迷宮の光に当てられ反射する。
特に注意すべきであろう武器は二振りのクラブハンマーだろう。アレにもし頭を殴打されれば文字通り頭ごと体から引き千切られることは間違いなしだ。
「さて……どう出ると思うミツキ?」
「え?私に振るんですか? そうですね……ママから蟹は横歩きだって聞いたような」
「そんくらいだれでも――」
俺とミツキが対策法を練っていると蟹の影が俺達の作った影を一気に喰らい尽くす。
向かい合っていた筈なのに距離を詰められた……!? おかしい、横歩きでそんなに早く移動できるわけが――――
「って普通に縦歩きもできんのかよコイツ!」
「むむ!? 見事に騙されました。なかなかやりますねこの蟹」
「常識に囚われちゃいけないってか。まだなにか隠し持っててもおかしくは無いな……要警戒だミツキ!」
「了解……です!」
ミツキは魔法を構築すると、短い詠唱をはさみ即座に放射。蟹の足に純白のレーザービームが直撃する。
これで足は破壊されて……いやどうやら白化に留まっている。完全に破壊できるわけではなく一定時間行動不能にするだけのようだ。
それだけでも十分だ、蟹の足が一定時間硬直していれば俺が勝負を決める。
「ミツキ、左右上から二本目、当てられるか!?」
「任せてください、その光り、敵を討ち、己と付き人を守護せよ!"白滅線"!!」
「ナイスぅ!」
ミツキの杖から高出力の魔法が放たれ、それは寸分の狂いもなく蟹の上から二本目の足を正確無比に打ち抜く。これで道はできた、後は俺が暴れるだけだ。
「があぁぁぁぁぁぁぁっ!」
全速力で蟹との距離を詰めにかかる。
飛来する数本の足を薄皮一枚のレベルでかわしきる。ミツキが足を二本行動不能ししてくれたおかげで今のところはなんとか無傷で済んでいる。
カンカンカンカン!
棘が無数にある蟹の硬い甲羅を駆け上がり蟹の眼のところまでたどり着くと、蟹の化物と視線を違わせ、背中に三本かけてる剣のうち、二本の柄を力強く握る。
これが俺の対迷宮主用装備だ。
いつも愛用している剣の他にもう二本用意する。この二本は相手のウィークポイントに投げて弱体化させるための武器だ。
勿論、モンスターの弱点はさまざまだ。しかし、目だけはどのモンスターにも弱点として通用する。だから大剣を二本余計にもってきた、奴の双眼を真っ赤に染める為だけに。
ミツキもどうやら頑張っているようだ。
他の足を引き付けて俺を攻撃対象にはさせないようにしている。
「う……ぎぃ……!?」
「モトキ様!」
俺の攻撃よりも先に蟹のクラブハンマーが躊躇いなく振り下ろされる。
剣の柄を握っていた両手を急いで引っ込めて、クラブハンマーに手甲で対抗する。
左右から押し押せてくる生物とは思えないない程の圧力。俺の上腕部が予想どおりミシミシと嫌な音を体中に響かせ、警告ベルを鳴らす。
「……きっつ!」
俺の手甲によってクラブハンマーが弾かれるとやっと弱点を狙える環境が整う。
半壊状態の手甲とピリピリという痛みを発している両腕に構わず二本の牙を鞘から抜き去る。
腕の激痛に耐えながら、集中力を切らさずに投げた研ぎ澄まされた牙に蟹は肉薄を許してしまう。
「プガァァァァァァ!!!」
「おっけぇ!」
真っ青な涙を蟹自身が流すのを確認すると地面への着地を試みる。
だが蟹も俺が着地するのを黙って見届けるほどのんびり屋ではない。先ほど弾かれた二振りのクラブハンマーがまた突撃をしかけてくる。
「ちぃ……!」
――やべぇ……このままじゃ両腕の骨折は必至だ。
先ほどの攻撃で手甲は使い物にならない。腕にも力が入らない。こんな状況で防御してしまえば腕は壊れ、すぐに頭を圧迫するだろう。
「"聖滅線"!!」
「…………っつ!?」
スィィィン!!
突如、俺に向かい唸りを上げて押し寄せていたハンマーは白く変色し、進行を止められる。
俺の頬を掠めた光の直線は俺の命をなんとか繋ぎとめる。
「大丈夫ですかモトキ様!?」
「助かったミツキ!」
ミツキの絶妙な援護に感謝しつつ、地面に着地する。
少し息切れを起こしているところから察するに、魔力を多少消費したようだ。
「ミツキ、何秒足止めできる?」
「目が見えていないいので十秒は足止めできます!」
「充分だ!」
俺はミツキの返答を耳に入れると、また猛進を再開する。
一番近い壁を駆け上がり、天井に到着すると天井に足を乗せ、天井を蹴り大砲の如く急降下をし、蟹との距離を縮める。
「かかと……落としいぃぃぃぃぃぃ!!」
「パガァアアアアア!!」
蟹の体を守る、鋼よりも堅い甲羅は、俺が繰り出した大質量のかかと落としにより割られる、もしくは所々にヒビが入る。蟹は激痛のあまり悲痛な叫びを上げる。
俺はいつも愛用している大剣を慣れた手つきで抜き去ると甲羅のヒビが入っている部位に突き刺す。
そのまま力任せに蟹の内部へ突き刺していく。きっと相当な痛みを伴うだろう、俺の知ったことではないが。
「"怒雷"!!」
蟹の甲羅を突き抜けて俺の剣から放出された高圧電流は蟹の内部は隅々まで駆け巡る。
蟹のヒビから黒い煙が上がったのを確認すると剣を抜き去る。
「ふぅ……なんとか勝ったな」
「そう……ですね」
俺達は巨大蟹が黒い炭と化していくのを呆然と眺めながら息を整える。
「これで制覇か~」
「やっとですねー!」
今日、時間不明……俺たちは海の迷宮を完全攻略した。




